【完結】御令嬢、あなたが私の本命です!

やまぐちこはる

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外伝 リリアンジェラ

可愛いらしい王女はニヤリと笑う25 ─リリアンジェラ─

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「ああ、またか!」

 テューダーはリリアンジェラ王女に呼び出され、天を仰いでため息を吐いた。

 先日から何度も何度も、エルロールの恋の行方はどうなっているのかと詰問されている。

 訊ねるとか質問するではなく、詰問である。

「気が重いな・・・」

 男爵令嬢のメリンダを親戚の侯爵家に養子縁組させれば話は楽に進むが、肝心のエルロールがうんと言わないのだ。いくら恋愛結婚を認めていても、男爵家の者では王族に嫁げない。
 エルロールが「メリンダを高位貴族と養子縁組させたい」と言いさえすればまわりはいくらでも動けるというのに、本当に困り果てていた。

「ねえテュー、エル兄様はお相手に気持ちを伝えているんでしょ?」
「・・・・」
「え?いやだ、まさかしていないの?」

 はああーっといつになく大きなため息を、態とらしくついて見せる王女の視線は呆れ、冷たいものに変わっている。

「それじゃあ話も進まないわね」
「いや、それには理由があって」
「理由って何よ」
「い、えません」
「何故?言いなさい、命令よ」
「言うなとエルロール第一王子殿下から命令されています」
「嘘よ!兄様はそんな命令を幼馴染みにしたりしない」

 ずばりそのとおりだが、テューダーはしらを切り通した。
 リリアンジェラに身分のことを知られたら、合理的な王女は迷うことが馬鹿らしいと手を回してしまうだろうから。

 エルロールには納得する時間が必要なのだ。
ただ時間をかける余裕がないことを理解し、そこを短縮してもらいたいとテューダーは切望していた。



 突破口は意外なところからやってきた。
 メリンダ嬢のために、いや孤児たちのために読み書き教室起ち上げに動き始めたことで、ソージェ・ゴルマス侯爵と今後のことを相談しあった際のこと。


「そうか、ご令嬢は男爵家の後継者か」
「せめて嫡子でなければエルも受け入れやすいんでしょうけど」
「令嬢はどちらの家門だね?」
「イブール男爵家です」
「ん?なんと!それではランスの娘か」

 テューダーがソージェを見つめると、にやーと笑っている。

「私はオルサガ侯爵の三兄弟とはよく知る仲なのだよ。
アラン・オルサガ侯爵と次男ブラス・サガス子爵には子がいないんだ。アランは第二夫人も娶ったがやはりダメでな。ランスの長女を侯爵家に迎えて婿を取る話があると聞いている」
「えっ?それは困る」
「そうだな。ランスには娘が二人いるんだ。ふたりともオルサガ侯爵家の養女となり、次女が婿を取って、オルサガ侯爵家を継げばすべて丸くおさまるよなあ」

 ふふっと笑っている。

「テュー、この件だが私に任せてみないか?」
「でもエルが権力を使うのは嫌だと言うんですよ」
「それはエル殿下の事情で令嬢の環境を変えさせるのは嫌だということだよな。しかしオルサガ侯爵家の後継者がいないという、家門内の事情から令嬢の状況が変わるのは、エル殿下には関係ないこと。だろう?」

 若さのせいか直球勝負になりがちなテューダーには欠けていた視点。
 メリンダ嬢の父や叔父たちと親しい間柄のソージェが、エルロールの意を汲みつつ、自然な流れで王子妃に相応しい家門に送り込み、婚約者候補に推しあげようと話が纏まる。

 テューダーではどうにも突破出来なかったが、ソージェの助力で漸く道筋が出来上がり、それを王妃に報告すると

「やっとね、テュー。間に合わないかと思ったわ」

 そう、にっこりと圧の込もった微笑みを贈られたのだった。

 エルロールも、勿論リリアンジェラや双子王子たちも知らないところで、メリンダ・イブールを婚約者にする計画は着々と進んだ。
 途中、王妃のちょっとした悪戯でメリンダに別れを告げられたエルロールから魂が抜けてしまうハプニングはあったが。

 無事にその日がやって来たのだ。

 王妃パリスのサプライズにより、金髪のエルロールはオルサガ侯爵令嬢メリンダと、運命的な出逢いを果たした。




「庭園でっ!エル兄様が令嬢をエスコートして歩いていたそうよ、メル兄様カル兄様!」

 耳聡い女官の噂を聞くと、チェスを楽しんでいた双子の兄に報せに行く。

「嘘っ!」

 兄妹は顔を見合わせてにんまりすると、チェスを放り出して庭を覗きにいった。

「見えたか?」
「うん、母上と一緒にいるな」
「ええ?あんな令嬢いらしたかしら?わたくしお会いした記憶がないわ」
「あれってさ、オルサガ侯爵夫人じゃないか?」

 カルロイドは記憶を絞り出して続けた。

「オルサガ家は確か後継者が生まれなくていろいろと噂があったんだよ」
「噂ってなんですの?」
「ん、あー、まあ、なんとかこどもができないか侯爵がやらかしちゃったみたいな」
「妾でも持たれたのかしら?」
「リリ~!一応第二夫人と呼ばれてたんだぞ」
「そんな言葉で誤魔化すのはお止めになって。正妻でなければ妾に違いございませんでしょ」

 妹に、そういう言葉を使いたくなくて誤魔化そうとしたカルロイドだったが、リリアンジェラの方がバッサリと言ってのけた。

「ということは養子でも取られたのかしら?」
「「「あっ!」」」

 エルロールが隣りに座った令嬢と見つめ合っている!

「「「うわあ、とろけそう~」」」

 大好きな長兄に、とうとう幸せがやってきたことを知った弟妹たちは心から喜んでいた。
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