【完結】御令嬢、あなたが私の本命です!

やまぐちこはる

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外伝 リリアンジェラ

可愛いらしい王女はニヤリと笑う26 ─リリアンジェラ─

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「結局わたくし、エル兄様の婚約には何のお役にも立てなかったわ」

 長兄が美しい令嬢をエスコートする姿を見て、王女がポツンと呟いたのを、カルロイド王子が「そんなことない」と慰めた。

「そうだよリリ。おまえのお陰でメンジャー侯爵家の横槍を防ぐことができたじゃないか」
「セラ嬢がいたら、例えオルサガ侯爵令嬢だと言っても元は男爵令嬢だとか言って、絶対に嫌味やいじめをしたに違いないぞ」


 メンジャー侯爵家は、今はまだリリアンジェラにとってNGワードなのだが 、それでも兄たちの言葉は多少慰めになった。

 セラは確かにそういう性格だった。
常にひとの弱みを探し、それを突く。
つくづくイヤな性格だった。


「だからおまえは、エル兄上の恋路に物凄く貢献したんだ。胸を張れ!」





 エルロールとメリンダの婚約は速やかに整えられ、半年の婚約期間ののち華飾の宴を迎えた。

「お義姉様、すっごく美しかったわ!」

 妃教育で城に泊まるようになったメリンダとリリアンジェラは、性格はまったく違うものの、勉強好きで本好きなところがよく似ており、思いの外親しくなっていた。
メリンダをお義姉様と呼ぶほどに。

 実際、位の低い貴族の中には妬みからか、元男爵令嬢なのにと噂する者も多少ならずいたのだが、双子王子と王女がエルロールが立太子されるべし、またその妃メリンダもその座に相応しいと喧伝したことで一掃された。




 エルロールの立太子を見届けたあと、双子王子たちも続々と婚約、結婚してそれぞれの家へ婿入りを果たしていき、残るはリリアンジェラだけとなった。


「リリ、貴女誰か気になる方はいないの?」


 王妃の庭で母娘ふたりの茶会は、いつも同じ話題で終わる。

 何度か本の知識だけではどうにもならない経験をしたリリアンジェラは、こどもの頃ほどの怖いものなしでは無くなったが、
商会を軌道に乗せた頃、ふとしたことで商会のオーナーが王女だと知られてから、金と地位と頭脳と美貌、あまりに揃いすぎた条件と、貴族社会では良く知られた厳し目の性格になかなか手を挙げる者が現れなかったのだ。

「スリン国第三王子から申し出があったの。どうかしら」

 母が釣書きと絵姿を見せてきたが、

「スリン?スリンでは私の商会に目が届きませんわ」

手塩にかけた商売の方が、遠方の国の王子よりはるかに重い。

「そんなすぐに決めずとも、ねえ。スリンにも支店を作ればいいんじゃない?」
「お母様・・・ご心配おかけしますが、この件はもう少しお時間頂けませんこと?」

 リリアンジェラは、珍しくぼんやりしながら母に背を向け、とぼとぼと部屋へもどっていった。



 気に入った人、良い人と言われても、リリアンジェラは17歳を目前にしても、初恋すら経験がないのでわからないのだ。
 憧れの人、というのもいないし、そもそも男性を慕うという感情がわからない。

 イルスラと、遊びに来ていたカテナが見守る中、「うーん」と考えこんでいたと思ったら、急に表情が変わった。


「そうよ!いないのだから考えたって思いつく人がいるわけもないのよ。だから無理に考える必要なんてないわ。お母様があまりに重要そうに仰るから、混乱してしまったけど、別に好きな人じゃなくたっていいじゃない。
王女のわたくしに釣り合う権力と財力、地位があって、わたくしの自由や仕事を認めてくれて、あとはそうね、気が合うならなお結構。あっ!そうそう、年齢もある程度釣り合う人で、できれば落ち着いた性格がいいけど。声が高すぎるのは好きじゃないわ。そうだ!瞳は蒼か紫だといいわね」


 息を潜めていたカテナとイルスラが、呆れた顔で口を挟む。


「そんなに条件があるなら、なんでもっと早くに言わないんです?条件のいい人ほど早くに婚約者が決まっているものですよ!」


 カテナの一言はリリアンジェラには衝撃だった。


「え?何故?だってわたくし王女なのよ。わたくしが条件を言えば、該当しそうな方がいればすぐ見つかるものではなくて?」

「「ハァ?」」

 神童と言われ、成長した今も天才と囁かれている。何度かの失敗でだいぶマシになったが、やはりリリアンジェラは頭でっかちであった。
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