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外伝 リリアンジェラ
可愛いらしい王女はニヤリと笑う24 ─リリアンジェラ─
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「疲れただろう?」
すべての処分が下り、謁見の間から解放されたエルロールとリリアンジェラは、歩調を合わせて、王女の庭へ向かっていた。
「ええ。想像以上だったわ、お父様の判断で皆の人生が変わってしまう。作り話とはまったく違う緊張感が苦しかった」
「そうだな。何度経験しても慣れることはないが、父上は月に何度もあのような沙汰を下されているのだよ、大変なことだ」
「そう・・・。私、何もわかっていなかったのね」
リリアンジェラはたくさんの本を読んで、たくさんのことを知り、経験したつもりになっていた。
しかし、実際に降爵され、引退させられた侯爵夫妻の絶望が浮かぶ瞳や、職と財産を取り上げられた副学院長の茫然自失とした顔、二度と貴族に戻れず、砂金採りなどと言う平民がやるような仕事をさせられると聞いて魂が抜けたようなセラを見て、国王の下す沙汰の重みをひしひしと感じた。
「私は気楽な末子で良かったわ。エル兄様、絶対に王太子になってくださいね。私、応援致しておりますわ」
「うん?なんだ急に」
「誰よりもエル兄様が国王に相応しいって思っただけですわ」
国王が担う重責のほんの一部を目にしただけだが、とても割り切れそうにない重圧に臆して、責任軽めを目指そうと決心した王女である。
だからといって双子王子のような体たらくはできない性格だから、手っ取り早くその座に長兄を据えてしまえばいいと。
─そう、全力で応援よ!─
しかし。エルロールの立太子には婚約者が必要なのに、どうしても見つからず。
リリアンジェラだけではない、テューダーも、国王夫妻だって、皆エルロールに良さげな令嬢の話を耳にすると、茶会や夜会に招いて出逢わせようとしたというのに。
何年かかっても、うんともすんとも言わなかったエルロールの運命は、誰の手によることもなくあっさりと訪れた。
・・・強いて言うなら視察の予定を組んだテューダーの功績?かもしれないが。
運命の令嬢が現れたことは、暫く極秘とされていたが、今まで文句も言わずに何となくやっていた双子王子の執務を断るようになったり、髪を染めて頻繁に出かけたり、専属のパティシエに大量の菓子を焼かせていたりと、怪しい素振り満載で、リリアンジェラの耳にもその噂が届くようになっていた。
いよいよかと期待するも、そのあと一向に婚約という話が出て来ない。
リリアンジェラはテューダーを呼び出して訊ねてみたが、どうも要領を得ず、次に母を王女の庭のティータイムに招き、噂の真偽を訊いてみることにした。
「ここの薔薇は新しい品種なのかしら」
久しぶりに娘の宮の庭に来た王妃は、見慣れない薔薇をいくつか持ち帰りたいと所望しながら席についた。
「はい、私の庭師はかけ合わせを得意としていて、色や大きさを変えたものを生み出しておりますの。先程お母様が希望された物を売り出せば、小さな事業となるでしょう」
リリアンジェラは王家から割り当てられる予算も勿論潤沢に持っているが、少し前に傾いた商会を買い取って王都に小さな可愛らしい店を用意し、王女御用達品と銘打って、自分が作らせたものを売っている。誰にも管理されずに使える金を作ることに熱心な王女は、薔薇だけでなく、王女御用達の化粧品や石鹸などもその効果や香り、パッケージまで吟味を尽くしたものを販売し、利益を上げ始めていた。
メンジャー侯爵家の断罪を目の当たりにしたことで、リリアンジェラは机上の空論に終わらせることなく地面を踏みしめようと、少し方向性を変えた。
王女自ら金を稼ぐことで、漸く知識と経験と見識が合致したのだ。
何か一つでも上手くいくと、アイデアが面白いように湧き出し、今リリアンジェラは商売に夢中だった。
見透かしたように王妃が釘を刺す。
「それより貴女もそろそろ婚約者探しをなさいな」
「え?あ、はいそうですね、考えておきますわ。それよりエル兄様はどうなさったのですか?」
本題を忘れるところだったと、自分に向けられたものを、兄に押し戻して。
「エル?エルが何か?」
「見つけられたのではありませんの?」
「・・・まだよ。言えるほど固まるには時間がいるわ」
「では、いらっしゃるのは間違いないのですね?」
娘の期待に満ちた視線を受けて、是とも否とも気取らせない表情で、王妃は温まった茶を飲み干した。
「じきにわかるでしょうけれど。そうね、もうエルロールのための茶会は不要よ。自分のことを考えなさい」
自分の宮へ戻っていく母を見ながら、何故ここまで秘密にするのかと、リリアンジェラは首を傾げていた。
すべての処分が下り、謁見の間から解放されたエルロールとリリアンジェラは、歩調を合わせて、王女の庭へ向かっていた。
「ええ。想像以上だったわ、お父様の判断で皆の人生が変わってしまう。作り話とはまったく違う緊張感が苦しかった」
「そうだな。何度経験しても慣れることはないが、父上は月に何度もあのような沙汰を下されているのだよ、大変なことだ」
「そう・・・。私、何もわかっていなかったのね」
リリアンジェラはたくさんの本を読んで、たくさんのことを知り、経験したつもりになっていた。
しかし、実際に降爵され、引退させられた侯爵夫妻の絶望が浮かぶ瞳や、職と財産を取り上げられた副学院長の茫然自失とした顔、二度と貴族に戻れず、砂金採りなどと言う平民がやるような仕事をさせられると聞いて魂が抜けたようなセラを見て、国王の下す沙汰の重みをひしひしと感じた。
「私は気楽な末子で良かったわ。エル兄様、絶対に王太子になってくださいね。私、応援致しておりますわ」
「うん?なんだ急に」
「誰よりもエル兄様が国王に相応しいって思っただけですわ」
国王が担う重責のほんの一部を目にしただけだが、とても割り切れそうにない重圧に臆して、責任軽めを目指そうと決心した王女である。
だからといって双子王子のような体たらくはできない性格だから、手っ取り早くその座に長兄を据えてしまえばいいと。
─そう、全力で応援よ!─
しかし。エルロールの立太子には婚約者が必要なのに、どうしても見つからず。
リリアンジェラだけではない、テューダーも、国王夫妻だって、皆エルロールに良さげな令嬢の話を耳にすると、茶会や夜会に招いて出逢わせようとしたというのに。
何年かかっても、うんともすんとも言わなかったエルロールの運命は、誰の手によることもなくあっさりと訪れた。
・・・強いて言うなら視察の予定を組んだテューダーの功績?かもしれないが。
運命の令嬢が現れたことは、暫く極秘とされていたが、今まで文句も言わずに何となくやっていた双子王子の執務を断るようになったり、髪を染めて頻繁に出かけたり、専属のパティシエに大量の菓子を焼かせていたりと、怪しい素振り満載で、リリアンジェラの耳にもその噂が届くようになっていた。
いよいよかと期待するも、そのあと一向に婚約という話が出て来ない。
リリアンジェラはテューダーを呼び出して訊ねてみたが、どうも要領を得ず、次に母を王女の庭のティータイムに招き、噂の真偽を訊いてみることにした。
「ここの薔薇は新しい品種なのかしら」
久しぶりに娘の宮の庭に来た王妃は、見慣れない薔薇をいくつか持ち帰りたいと所望しながら席についた。
「はい、私の庭師はかけ合わせを得意としていて、色や大きさを変えたものを生み出しておりますの。先程お母様が希望された物を売り出せば、小さな事業となるでしょう」
リリアンジェラは王家から割り当てられる予算も勿論潤沢に持っているが、少し前に傾いた商会を買い取って王都に小さな可愛らしい店を用意し、王女御用達品と銘打って、自分が作らせたものを売っている。誰にも管理されずに使える金を作ることに熱心な王女は、薔薇だけでなく、王女御用達の化粧品や石鹸などもその効果や香り、パッケージまで吟味を尽くしたものを販売し、利益を上げ始めていた。
メンジャー侯爵家の断罪を目の当たりにしたことで、リリアンジェラは机上の空論に終わらせることなく地面を踏みしめようと、少し方向性を変えた。
王女自ら金を稼ぐことで、漸く知識と経験と見識が合致したのだ。
何か一つでも上手くいくと、アイデアが面白いように湧き出し、今リリアンジェラは商売に夢中だった。
見透かしたように王妃が釘を刺す。
「それより貴女もそろそろ婚約者探しをなさいな」
「え?あ、はいそうですね、考えておきますわ。それよりエル兄様はどうなさったのですか?」
本題を忘れるところだったと、自分に向けられたものを、兄に押し戻して。
「エル?エルが何か?」
「見つけられたのではありませんの?」
「・・・まだよ。言えるほど固まるには時間がいるわ」
「では、いらっしゃるのは間違いないのですね?」
娘の期待に満ちた視線を受けて、是とも否とも気取らせない表情で、王妃は温まった茶を飲み干した。
「じきにわかるでしょうけれど。そうね、もうエルロールのための茶会は不要よ。自分のことを考えなさい」
自分の宮へ戻っていく母を見ながら、何故ここまで秘密にするのかと、リリアンジェラは首を傾げていた。
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