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外伝 リリアンジェラ
可愛いらしい王女はニヤリと笑う23 ─リリアンジェラ─
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「ほう、軽すぎたか。おまえには余の恩情は不要のようだ。
首謀者のメンジャー侯爵家は勿論相応の罰を与えるが、ソミルス!
申し出を断り、正しき道に生徒を引き戻すべきであったのにも関わらず、率先してテルア嬢の作品を盗作した。守るべき生徒の未来を金と引き換えに手折るようなおまえには、望み通り厳罰を与えてやろう。
牢に収監し、重罪の囚人と同じ勤労奉仕三年を申し渡す。
今後正しく努力した生徒たちの功績を、買収などで奪う愚か者が他に現れることがないよう見せしめにな」
「ひっ」
重罪の囚人は鉱石か岩の採掘と決まっている。三年もの間、老齢に差し掛かった貴族の学者が耐えられるとは思えない。
ソミルスの呻き声が漏れたが、これ以上何か言えばもっと刑罰が重くなりかねないと、口を手で閉じた。
「異論はないな。では確定だ」
国王は右手を払うような仕草で、前に踏み出していたソミルスを衛兵に下げさせると、セラに視線をやった。
「さて。メンジャー家セラ」
「は、はぃ・・・・」
「其方にも罪を償ってもらわねばならぬ」
冷たい声音にセラは震えていた。
「ほう、震えておるか。それは罰への恐れか?余への畏怖か?それとも貴族としての未来を失う恐怖か?」
そう言われて、セラはハッと顔を上げた。
「侯爵家を笠にきて、下位の貴族たちに暴言三昧だったと聞いておるが、その程度で止めておけばよかったものの。その年で教師を買収してまで他人の功績を掠め取る性根とはのう」
「そ、それはあれに作文が乗ると教養が高いと認められて、エルロール殿下の婚約者選定に有利になるって母が言ったのです。だから先生に頼んだだけで!私はだいそれたことをしようと思っていたわけでは」
当初メンジャー侯爵夫人は、エルロールの婚約者になりたいなら、文集の栄誉をつかむくらいに頑張れと言ったのだが、曲解したセラのせいで賄賂を渡す話になり、ソミルスが乗り気になったことで引っ込みがつかなくなったメンジャー家の歯車は大きく狂ってしまった。
─わたくしは悪くない!お母様が言ったのだもの。王女様に目をつけられたって、どこかに嫁がれればただの貴族になるんだから、エルロール殿下を諦めちゃダメって!家格とマナーと財力、そしてあれで教養を示せばわたくしが選ばれるのは間違いないってお母様が言うから!─
国王の前だというのに、セラは頭の中で自分を唆した母に怒りを覚えていた。
その目つき顔つきにほんの少しでも心からの悔恨や反省が見えれば、国王はまだ若いセラには罪を軽減してやってもよいと考えていたのだが。
「ほう、ことの重大性をわかっていないようだな?
あの文集は国をあげて優秀な者に日の目を当てるための事業である。
柵や派閥、身分に関係なく、門戸が開かれており、各学院から数名推薦された者が掲載される。あれに選ばれた者からは大臣や研究者、小説家などを多く輩出しており、また其方が言うように教養の高さを見込まれて、より良い家門からの縁組や、公爵や王族クラスの家庭教師に招かれることも多い。
位の低い貴族や、少ないとは言え平民などの出世の大切な糸口なのだ。それを理解もせず、己の欲のために利用したのか?」
国王の怒りはビリビリと空気を伝わり、室内にいるすべてを震え上がらせるほどだ。
「此度のことは由緒あるメンジャー侯爵家の威信と信用を著しく傷つけ、貶めた。其方の兄にメンジャー伯爵を継承させても、問題を起こした其方がいては再建もしづらいだろうし、そもそも屋敷に居辛いだろう。
貴族籍を抜いて北の修道院へ行くが良い。生涯を清貧に神に仕えれば、貴族でなくなることも乗り越えられようて。うら若き娘への余からの恩情と心得よ」
「貴族籍を抜く?北の修道院で生涯を?そ、そんな・・・そんな勝手な」
セラの口から漏れた言葉は、その場にいたすべての耳に届いた。
「勝手と言ったか?」
びくっとセラが震える。
メンジャー侯爵夫妻は、もう諦めているのか顔を上げようともしない。
「おまえがやったことは勝手ではないのか?それをよくも言うたものだ。しかも余に向かって!」
辛うじて無表情を保っていた顔だが、怒りに眉尻が上がる。
「おまえも恩情は不要のようだな」
「い、いえ、あの、どうか修道院に行かせ」
「いや!どうやらこの者に下した沙汰は甘すぎて不満があったようだ。ソミルスと同じように厳罰を望むとは殊勝なことよの」
ニヤリと口角をあげて笑う国王は、怒りに満ちた瞳でセラを睨みつけ、厳然と告げた。
「学生であったことを考慮したが、不要だったらしい。其方はその由々しき行為により国の事業の信頼を損なった。
言動を見るからに更正する見込みは低いと考えた。金山の砂金採りを一年のあと、北の修道院で生涯を過ごせ」
セラの迂闊な言葉に激怒した国王は、侯爵令嬢には耐えられないだろう砂金採りをその場で決めた。
エルロールの婚約者候補の動向は定期的に国王夫妻に報告されていて、元々セラの言動の様々も聞き及んでいた。良い印象がなかった上に犯罪行為、それなのに反省の見えない生意気な言動にキレたのだ。
慰謝料の額や勤労奉仕は法務大臣と協議して決めるつもりだったのだが。
「うそ・・・うそよ、いや」
膝をつき、項垂れたセラを手助けする者はいなかった。
首謀者のメンジャー侯爵家は勿論相応の罰を与えるが、ソミルス!
申し出を断り、正しき道に生徒を引き戻すべきであったのにも関わらず、率先してテルア嬢の作品を盗作した。守るべき生徒の未来を金と引き換えに手折るようなおまえには、望み通り厳罰を与えてやろう。
牢に収監し、重罪の囚人と同じ勤労奉仕三年を申し渡す。
今後正しく努力した生徒たちの功績を、買収などで奪う愚か者が他に現れることがないよう見せしめにな」
「ひっ」
重罪の囚人は鉱石か岩の採掘と決まっている。三年もの間、老齢に差し掛かった貴族の学者が耐えられるとは思えない。
ソミルスの呻き声が漏れたが、これ以上何か言えばもっと刑罰が重くなりかねないと、口を手で閉じた。
「異論はないな。では確定だ」
国王は右手を払うような仕草で、前に踏み出していたソミルスを衛兵に下げさせると、セラに視線をやった。
「さて。メンジャー家セラ」
「は、はぃ・・・・」
「其方にも罪を償ってもらわねばならぬ」
冷たい声音にセラは震えていた。
「ほう、震えておるか。それは罰への恐れか?余への畏怖か?それとも貴族としての未来を失う恐怖か?」
そう言われて、セラはハッと顔を上げた。
「侯爵家を笠にきて、下位の貴族たちに暴言三昧だったと聞いておるが、その程度で止めておけばよかったものの。その年で教師を買収してまで他人の功績を掠め取る性根とはのう」
「そ、それはあれに作文が乗ると教養が高いと認められて、エルロール殿下の婚約者選定に有利になるって母が言ったのです。だから先生に頼んだだけで!私はだいそれたことをしようと思っていたわけでは」
当初メンジャー侯爵夫人は、エルロールの婚約者になりたいなら、文集の栄誉をつかむくらいに頑張れと言ったのだが、曲解したセラのせいで賄賂を渡す話になり、ソミルスが乗り気になったことで引っ込みがつかなくなったメンジャー家の歯車は大きく狂ってしまった。
─わたくしは悪くない!お母様が言ったのだもの。王女様に目をつけられたって、どこかに嫁がれればただの貴族になるんだから、エルロール殿下を諦めちゃダメって!家格とマナーと財力、そしてあれで教養を示せばわたくしが選ばれるのは間違いないってお母様が言うから!─
国王の前だというのに、セラは頭の中で自分を唆した母に怒りを覚えていた。
その目つき顔つきにほんの少しでも心からの悔恨や反省が見えれば、国王はまだ若いセラには罪を軽減してやってもよいと考えていたのだが。
「ほう、ことの重大性をわかっていないようだな?
あの文集は国をあげて優秀な者に日の目を当てるための事業である。
柵や派閥、身分に関係なく、門戸が開かれており、各学院から数名推薦された者が掲載される。あれに選ばれた者からは大臣や研究者、小説家などを多く輩出しており、また其方が言うように教養の高さを見込まれて、より良い家門からの縁組や、公爵や王族クラスの家庭教師に招かれることも多い。
位の低い貴族や、少ないとは言え平民などの出世の大切な糸口なのだ。それを理解もせず、己の欲のために利用したのか?」
国王の怒りはビリビリと空気を伝わり、室内にいるすべてを震え上がらせるほどだ。
「此度のことは由緒あるメンジャー侯爵家の威信と信用を著しく傷つけ、貶めた。其方の兄にメンジャー伯爵を継承させても、問題を起こした其方がいては再建もしづらいだろうし、そもそも屋敷に居辛いだろう。
貴族籍を抜いて北の修道院へ行くが良い。生涯を清貧に神に仕えれば、貴族でなくなることも乗り越えられようて。うら若き娘への余からの恩情と心得よ」
「貴族籍を抜く?北の修道院で生涯を?そ、そんな・・・そんな勝手な」
セラの口から漏れた言葉は、その場にいたすべての耳に届いた。
「勝手と言ったか?」
びくっとセラが震える。
メンジャー侯爵夫妻は、もう諦めているのか顔を上げようともしない。
「おまえがやったことは勝手ではないのか?それをよくも言うたものだ。しかも余に向かって!」
辛うじて無表情を保っていた顔だが、怒りに眉尻が上がる。
「おまえも恩情は不要のようだな」
「い、いえ、あの、どうか修道院に行かせ」
「いや!どうやらこの者に下した沙汰は甘すぎて不満があったようだ。ソミルスと同じように厳罰を望むとは殊勝なことよの」
ニヤリと口角をあげて笑う国王は、怒りに満ちた瞳でセラを睨みつけ、厳然と告げた。
「学生であったことを考慮したが、不要だったらしい。其方はその由々しき行為により国の事業の信頼を損なった。
言動を見るからに更正する見込みは低いと考えた。金山の砂金採りを一年のあと、北の修道院で生涯を過ごせ」
セラの迂闊な言葉に激怒した国王は、侯爵令嬢には耐えられないだろう砂金採りをその場で決めた。
エルロールの婚約者候補の動向は定期的に国王夫妻に報告されていて、元々セラの言動の様々も聞き及んでいた。良い印象がなかった上に犯罪行為、それなのに反省の見えない生意気な言動にキレたのだ。
慰謝料の額や勤労奉仕は法務大臣と協議して決めるつもりだったのだが。
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