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72話
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ドレインがトリュースを連れてイールズ商会を訪れたのは、それから二日後。
「ミヒア様ご機嫌いかがですか」
顔色を窺うように入ってきたドレインと、すらりとした金髪の男。
ドレインへの当てつけに、視線をそらしてやろうと考えていたミヒアの目は、後から入ってきた男に目が吸い付いて離せなくなった。
(すごいわ、何ていうか、薔薇の花びらが舞っているように見える・・・)
「・・・ヒアさ・・・?」
「え?」
「ミヒア様、こちらが先だってお話ししました私の仕事を手伝ってくれるトリュースです」
ドレインはポーカーフェイスを保ちつつ、ニヤけた視線を送る。ミヒアはムッとしたが、何故かトリュースの前で苛つく自分を晒したくないと自制した。
(見ればみるほど麗しいわ・・・でも誰かに似てる?)
ミヒアは先日のドレインの言葉にヒントを探して頭を巡らせていた。
そういえば。
『イールズ商会はさっきのトルグス子爵や・・・ホングレイブ伯爵と付き合いはありますか?』
(ホングレイブ伯爵?・・・・)
現ホングレイブ伯爵はミヒアも何度か会ったことがある。
先代伯爵とは違い、金払いの良いゲイザードは新たな良い筋の客と認識されていた。
似てるかしら?
あまりじろじろと見ると失礼なのだが、見なければ評価はできないと、ミヒアは自分に言い訳をして。トリュースの視線を跳ね返して見てみると、ゲイザードの面影はあるが、似ているというほどではないと結論づけた。
でもホングレイブ伯爵家の縁戚には違いないだろう。
「ミヒア様、こちらが例のトリュースです」
「トリュース?それは本名かしら?」
「・・・いえ、一井で暮らすための名です」
心地よいアルトの声がミヒアの耳に響く。
トリュースはその麗しい容貌に相応しい声で、さらに続けた。
「既におわかりかと存じますが、私には一度捨てた名がございます」
「そうね、どちらの家門かは、たぶんわかったと思うわ」
「では胸にお止めください」
「・・・・名がある方がいろいろ役に立つのではなくて?」
「かも知れませんが、今はその名を名乗りたくないのです」
毅然とした目をしていた。
別れさせ屋などという、貴族の風上にもおけないような裏稼業に身を窶しているとは思えない目。
ミヒアはその強く美しい瞳に魅入られた。
「わかったわ。ではそこは詮索しない。ドレイン、トリュースに何をさせるつもりか、どこまで話しているかを説明して。ここに連れて来たというのは何かしてほしいことがあるからなのでしょ?」
鋭い指摘に頭を掻いたドレインはぺこりと頷くと口を開いた。
「先日お話したように、まず彼にはエランディアを篭絡させ、アレンとの仲を壊してもらいます。エランディアたちに溝ができたら、何か証拠を隠していないか探してもらおうと考えています」
聞いていなかった話が出てきて、トリュースがドレインを睨むように見つめる。
「証拠を見つけられたら、それを元にエランディアとアレンを治安部に通報して罪を問います」
ミヒアの冷たい視線に晒される。
汚名返上するはずが、その作戦はミヒアの気に入らないものだったようだ。ドレインは呆然となった。
「まったく!貴方の考えそうなことね。エランディアを篭絡ですって?」
不愉快そうな顔を見せたミヒアに、何かしくじったことに気づくも時すでに遅し。
「それで。貴方本当は何をどうしたいの?トリュースに裏仕事をさせて、その手柄を横取りかしら」
ミヒアは立ち上がると、ドレインに扇子の先を突きつけた。
「よろしくないわね」
トリュースに向き直ったミヒアは、彼にも告げたのだが、トリュース本人が異を唱える。
「何故でしょうか?私には数多の恋を引き裂いてきた実績があり、自信もあります。それに今回のターゲットは私か何かの証拠を掴めば投獄できるということですよね?今までの誰よりも後腐れがなくていいではありませんか」
そうミヒアを一蹴した。
勿論そうなのだろう。
ミヒアは、素晴らしく美麗でありながら怜悧な瞳を持つトリュースに、汚れ仕事をさせたくないと思っただけ。
しかし本人がやると言うなら仕方ない。
「そう、そう言うなら・・・手を貸しましょう。エランディアは強欲で我の強い女だから気をつけなさい」
渋々ながら、トルグス子爵家を訪ねられるようイールズ商会の印章が彫られた指輪をトリュースに与えてやる。
「え!これ、よろしいのでしょうか?」
「ええ。悪用・・・、この場合は今回の用途以外の!という意味だけど、そういうことをしなければ構わないわ。この方が貴方の行動に目が行き届きやすいと思うし。うちの支店が各地にあるのはご存知かしら?」
「はい勿論」
「じゃあ、そこを連絡拠点になさい。臨時雇いの調査員として各所に通達しておくから、物や金が足りない時は、そこを訪ねて頼むといいわ」
破格中の破格の待遇にドレインのほうが驚き、口を挟んできた。
「そんな、よろしいのですか?」
「ええ、トリュースに渡した分は、ちゃあんとドレインに請求するから安心なさいな」
ミヒアが出してやるというわけではなかったのだ。
ドレインの口から「ああっ」と漏れた。
「あら、いやなの?それじゃあトリュース、私があなたを雇おうかしら!そう、その方がまだるっこしくなくていいわね、そうしましょう!」
これはトリュースにとって、最高の後ろ盾だが。
「えっあのミヒア様、それはちょっと」
「何よ。ドレイン、あなたは自分の失敗が挽回できればいいんでしょう?チャラにしてあげるから、おとなしく彼をイールズに渡しなさい」
どう返しても言い負けそうだとドレインは肩を落とす。
仕方なくトリュースに断ってもらおうと見ると、意思の疎通が叶ったようにミヒアとトリュースは頷き合っていた。
「ほら、トリュースもイールズに属した方がいいそうよ」
ドレインは為す術もなく、ミヒアの執務室をひとりで出て行く羽目になったのだった。
「ミヒア様ご機嫌いかがですか」
顔色を窺うように入ってきたドレインと、すらりとした金髪の男。
ドレインへの当てつけに、視線をそらしてやろうと考えていたミヒアの目は、後から入ってきた男に目が吸い付いて離せなくなった。
(すごいわ、何ていうか、薔薇の花びらが舞っているように見える・・・)
「・・・ヒアさ・・・?」
「え?」
「ミヒア様、こちらが先だってお話ししました私の仕事を手伝ってくれるトリュースです」
ドレインはポーカーフェイスを保ちつつ、ニヤけた視線を送る。ミヒアはムッとしたが、何故かトリュースの前で苛つく自分を晒したくないと自制した。
(見ればみるほど麗しいわ・・・でも誰かに似てる?)
ミヒアは先日のドレインの言葉にヒントを探して頭を巡らせていた。
そういえば。
『イールズ商会はさっきのトルグス子爵や・・・ホングレイブ伯爵と付き合いはありますか?』
(ホングレイブ伯爵?・・・・)
現ホングレイブ伯爵はミヒアも何度か会ったことがある。
先代伯爵とは違い、金払いの良いゲイザードは新たな良い筋の客と認識されていた。
似てるかしら?
あまりじろじろと見ると失礼なのだが、見なければ評価はできないと、ミヒアは自分に言い訳をして。トリュースの視線を跳ね返して見てみると、ゲイザードの面影はあるが、似ているというほどではないと結論づけた。
でもホングレイブ伯爵家の縁戚には違いないだろう。
「ミヒア様、こちらが例のトリュースです」
「トリュース?それは本名かしら?」
「・・・いえ、一井で暮らすための名です」
心地よいアルトの声がミヒアの耳に響く。
トリュースはその麗しい容貌に相応しい声で、さらに続けた。
「既におわかりかと存じますが、私には一度捨てた名がございます」
「そうね、どちらの家門かは、たぶんわかったと思うわ」
「では胸にお止めください」
「・・・・名がある方がいろいろ役に立つのではなくて?」
「かも知れませんが、今はその名を名乗りたくないのです」
毅然とした目をしていた。
別れさせ屋などという、貴族の風上にもおけないような裏稼業に身を窶しているとは思えない目。
ミヒアはその強く美しい瞳に魅入られた。
「わかったわ。ではそこは詮索しない。ドレイン、トリュースに何をさせるつもりか、どこまで話しているかを説明して。ここに連れて来たというのは何かしてほしいことがあるからなのでしょ?」
鋭い指摘に頭を掻いたドレインはぺこりと頷くと口を開いた。
「先日お話したように、まず彼にはエランディアを篭絡させ、アレンとの仲を壊してもらいます。エランディアたちに溝ができたら、何か証拠を隠していないか探してもらおうと考えています」
聞いていなかった話が出てきて、トリュースがドレインを睨むように見つめる。
「証拠を見つけられたら、それを元にエランディアとアレンを治安部に通報して罪を問います」
ミヒアの冷たい視線に晒される。
汚名返上するはずが、その作戦はミヒアの気に入らないものだったようだ。ドレインは呆然となった。
「まったく!貴方の考えそうなことね。エランディアを篭絡ですって?」
不愉快そうな顔を見せたミヒアに、何かしくじったことに気づくも時すでに遅し。
「それで。貴方本当は何をどうしたいの?トリュースに裏仕事をさせて、その手柄を横取りかしら」
ミヒアは立ち上がると、ドレインに扇子の先を突きつけた。
「よろしくないわね」
トリュースに向き直ったミヒアは、彼にも告げたのだが、トリュース本人が異を唱える。
「何故でしょうか?私には数多の恋を引き裂いてきた実績があり、自信もあります。それに今回のターゲットは私か何かの証拠を掴めば投獄できるということですよね?今までの誰よりも後腐れがなくていいではありませんか」
そうミヒアを一蹴した。
勿論そうなのだろう。
ミヒアは、素晴らしく美麗でありながら怜悧な瞳を持つトリュースに、汚れ仕事をさせたくないと思っただけ。
しかし本人がやると言うなら仕方ない。
「そう、そう言うなら・・・手を貸しましょう。エランディアは強欲で我の強い女だから気をつけなさい」
渋々ながら、トルグス子爵家を訪ねられるようイールズ商会の印章が彫られた指輪をトリュースに与えてやる。
「え!これ、よろしいのでしょうか?」
「ええ。悪用・・・、この場合は今回の用途以外の!という意味だけど、そういうことをしなければ構わないわ。この方が貴方の行動に目が行き届きやすいと思うし。うちの支店が各地にあるのはご存知かしら?」
「はい勿論」
「じゃあ、そこを連絡拠点になさい。臨時雇いの調査員として各所に通達しておくから、物や金が足りない時は、そこを訪ねて頼むといいわ」
破格中の破格の待遇にドレインのほうが驚き、口を挟んできた。
「そんな、よろしいのですか?」
「ええ、トリュースに渡した分は、ちゃあんとドレインに請求するから安心なさいな」
ミヒアが出してやるというわけではなかったのだ。
ドレインの口から「ああっ」と漏れた。
「あら、いやなの?それじゃあトリュース、私があなたを雇おうかしら!そう、その方がまだるっこしくなくていいわね、そうしましょう!」
これはトリュースにとって、最高の後ろ盾だが。
「えっあのミヒア様、それはちょっと」
「何よ。ドレイン、あなたは自分の失敗が挽回できればいいんでしょう?チャラにしてあげるから、おとなしく彼をイールズに渡しなさい」
どう返しても言い負けそうだとドレインは肩を落とす。
仕方なくトリュースに断ってもらおうと見ると、意思の疎通が叶ったようにミヒアとトリュースは頷き合っていた。
「ほら、トリュースもイールズに属した方がいいそうよ」
ドレインは為す術もなく、ミヒアの執務室をひとりで出て行く羽目になったのだった。
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