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71話
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「探っていることを知られないように、まずは他を固めてからにしようと思っていますが、不都合でも?」
「・・・アレンに狙われないようにローズリーを匿っているんだ。このまま仕事を休ませ続けると疑われるかも」
「そうでしたか。どおりで居ないわけだ」
「ん?探したのか?それは悪かったな」
「いえ、聞いておかなかったこちらのミスですから」
なんてことないように言うが、調査を仕事にするドレインにはそれがどれほどトリュースの時間や労力を無駄にしたかよくわかる。
「これからは私が動いている、動こうとしていることは事前に知らせるようにするよ。以後は注意する」
「ぜひよろしくお願いします。ところでさっきの匿っている話ですが、では2週間だけ延ばせませんか?」
「2週間?それだけですべて終わらせられると」
「もう下調べは終わっていますからね。エランディアは私がアレン・ジメンクスから引き離しつつ、企みを聞き出して証拠を見つけたら、あなたが治安部に引き渡せばそれで終わりですよ。トロワー様ご存知ですか?女性は皆、舞台で繰り広げられる悲恋のヒロインに憧れているんです。それを逆手に取れば簡単ですよ」
彼はそうなのだろうが、自分では悲恋になどなりそうにないと、ドレインは内心不貞腐れながら、立ち上がった麗しいトリュースを眺めるのだった。
トリュースと別れたドレインは、ミヒアに相談に向かった。
実に行き辛いのだが、ここを突破しなくてはいつまでもこのまま、そしてせっかく手にした繋がりを失ってしまうだろう。
「ドレイン、お久しぶりね」
冷たい視線にも耐え、重い口を開いた。
「ご無沙汰しておりました、ミヒア様」
「今日は何の用?」
「はい、改めてお詫びと・・・汚名返上のために自費で調査を開始したのですが」
ツンとしていたミヒアが、チラッとドレインを見たが無言のまま。
「トリュース・・・という名で別れさせ屋をやっている男を雇いました」
「別れさせ屋?」
聞き慣れない言葉はミヒアの興味を引いた。
「はい、不都合な恋、道ならぬ恋を終わらせる裏稼業です」
「まあ!そんな仕事があるなんて知らなかったわ。その別れさせ屋が何をするの?」
「エランディアとアレンを別れさせ、エランディアが持つ証拠を得たいと思っています」
「あのエランディアが簡単に渡すかしら?」
「渡す・・・さなくとも、トリュースなら入り込んで隙をつき、探し出せると思いますよ」
「随分自信があるのね」
ミヒアが挑むように言うと、ドレインはニヤリと笑みを返した。
「一度別れさせ屋に会ってみませんか?実はトルグス子爵家に接触したいそうなんですが、伝手がなく」
「トルグス子爵?」
「アレですよ、アレンの亡くなった奥方の実家です」
「ああ!でもなぜトルグス子爵に」
「その辺は本人から聞いてみてはどうでしょう?」
胸を張るようなドレインが面白くないミヒアは、スンと鼻を鳴らした。
「いいわよ、連れてきてみなさいよ」
挑まれて喧嘩を買ったような言い方だが、別れさせ屋という不思議な仕事に就く男への好奇心に負けただけ。
「かしこまりました!彼の都合を聞いてすぐにお知らせします。あっ、ミヒア様。イールズ商会はさっきのトルグス子爵や・・・ホングレイブ伯爵と付き合いはありますか?」
「ホングレイブ伯爵?ええ、今の伯爵に代わられてからはよく利用してもらってるはずよ」
ニヤァとドレインが黒い笑みを浮かべた。
「それはよかった!それでは後ほどお知らせしますのでよろしくお願いします」
「よし、ホングレイブ伯爵家と付き合いがあるミヒア様なら、トリュースに会えば間違いなく興味を持つに決まってる!」
ミヒアをもう一度自分の側に引き込むのだと、挽回への道を歩き出していた。
「別れさせ屋ねえ、なんだか怪しいけど」
執務机に置かれたベルをチリリと鳴らす。
やってきたのは主任を務めるデリーだ。
「ミヒア様、お呼びでしょうか」
「ええ。ねえ別れさせ屋って知ってる?」
唐突なミヒアの問いに目をぱちくりしたあと、ふるっと首を横に振る。
「そうよねえ。どんな筋の人間がどんなことをやってるのか、念のために調べておいて。あとそのうちにドレインが子飼いの男を連れてくるそうだから、知らせが来たら調整しておいて」
「かしこまりました」
二日後、ミヒアはドレインに度肝を抜かれることになる。
トリュースことトリスタンの美麗さは、ミヒアの想像力を上回る破壊力だった。
「・・・アレンに狙われないようにローズリーを匿っているんだ。このまま仕事を休ませ続けると疑われるかも」
「そうでしたか。どおりで居ないわけだ」
「ん?探したのか?それは悪かったな」
「いえ、聞いておかなかったこちらのミスですから」
なんてことないように言うが、調査を仕事にするドレインにはそれがどれほどトリュースの時間や労力を無駄にしたかよくわかる。
「これからは私が動いている、動こうとしていることは事前に知らせるようにするよ。以後は注意する」
「ぜひよろしくお願いします。ところでさっきの匿っている話ですが、では2週間だけ延ばせませんか?」
「2週間?それだけですべて終わらせられると」
「もう下調べは終わっていますからね。エランディアは私がアレン・ジメンクスから引き離しつつ、企みを聞き出して証拠を見つけたら、あなたが治安部に引き渡せばそれで終わりですよ。トロワー様ご存知ですか?女性は皆、舞台で繰り広げられる悲恋のヒロインに憧れているんです。それを逆手に取れば簡単ですよ」
彼はそうなのだろうが、自分では悲恋になどなりそうにないと、ドレインは内心不貞腐れながら、立ち上がった麗しいトリュースを眺めるのだった。
トリュースと別れたドレインは、ミヒアに相談に向かった。
実に行き辛いのだが、ここを突破しなくてはいつまでもこのまま、そしてせっかく手にした繋がりを失ってしまうだろう。
「ドレイン、お久しぶりね」
冷たい視線にも耐え、重い口を開いた。
「ご無沙汰しておりました、ミヒア様」
「今日は何の用?」
「はい、改めてお詫びと・・・汚名返上のために自費で調査を開始したのですが」
ツンとしていたミヒアが、チラッとドレインを見たが無言のまま。
「トリュース・・・という名で別れさせ屋をやっている男を雇いました」
「別れさせ屋?」
聞き慣れない言葉はミヒアの興味を引いた。
「はい、不都合な恋、道ならぬ恋を終わらせる裏稼業です」
「まあ!そんな仕事があるなんて知らなかったわ。その別れさせ屋が何をするの?」
「エランディアとアレンを別れさせ、エランディアが持つ証拠を得たいと思っています」
「あのエランディアが簡単に渡すかしら?」
「渡す・・・さなくとも、トリュースなら入り込んで隙をつき、探し出せると思いますよ」
「随分自信があるのね」
ミヒアが挑むように言うと、ドレインはニヤリと笑みを返した。
「一度別れさせ屋に会ってみませんか?実はトルグス子爵家に接触したいそうなんですが、伝手がなく」
「トルグス子爵?」
「アレですよ、アレンの亡くなった奥方の実家です」
「ああ!でもなぜトルグス子爵に」
「その辺は本人から聞いてみてはどうでしょう?」
胸を張るようなドレインが面白くないミヒアは、スンと鼻を鳴らした。
「いいわよ、連れてきてみなさいよ」
挑まれて喧嘩を買ったような言い方だが、別れさせ屋という不思議な仕事に就く男への好奇心に負けただけ。
「かしこまりました!彼の都合を聞いてすぐにお知らせします。あっ、ミヒア様。イールズ商会はさっきのトルグス子爵や・・・ホングレイブ伯爵と付き合いはありますか?」
「ホングレイブ伯爵?ええ、今の伯爵に代わられてからはよく利用してもらってるはずよ」
ニヤァとドレインが黒い笑みを浮かべた。
「それはよかった!それでは後ほどお知らせしますのでよろしくお願いします」
「よし、ホングレイブ伯爵家と付き合いがあるミヒア様なら、トリュースに会えば間違いなく興味を持つに決まってる!」
ミヒアをもう一度自分の側に引き込むのだと、挽回への道を歩き出していた。
「別れさせ屋ねえ、なんだか怪しいけど」
執務机に置かれたベルをチリリと鳴らす。
やってきたのは主任を務めるデリーだ。
「ミヒア様、お呼びでしょうか」
「ええ。ねえ別れさせ屋って知ってる?」
唐突なミヒアの問いに目をぱちくりしたあと、ふるっと首を横に振る。
「そうよねえ。どんな筋の人間がどんなことをやってるのか、念のために調べておいて。あとそのうちにドレインが子飼いの男を連れてくるそうだから、知らせが来たら調整しておいて」
「かしこまりました」
二日後、ミヒアはドレインに度肝を抜かれることになる。
トリュースことトリスタンの美麗さは、ミヒアの想像力を上回る破壊力だった。
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