王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第11章 壊れかけのラメルシェル

6 西部戦線への旅立ち

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 私が放った雷光はアルごと地面へと叩き落した。
 ズシンと重く低い音を響かせて土煙とともに衝撃を撒き散らす。

「ふむ……かなり繊細な技じゃな。雷が落ちる前に魔装を地面張り巡らせおったか」

「あとで直してもいいですけど……あまり壊すのも気が進まないので」

 この辺りは硬く押し固められただけの舗装もされていない地面だ。
 最初の魔術で少し欠けた部分くらいなら許容範囲内だろうが、雷撃で地面を抉ってしまうのは流石に気が引ける。

「それよりも……今の攻撃をまともに受けて意識を保っているのは意外ですね」

 土煙が晴れるとアルが仰向けになって息を荒くしていた。体が痺れて上手く動けないようだが気を失ってはいないらしく目があう。

「はっ……手加減してこの様かよ……こりゃ認めるしかねえだろ」

 荒療治だったがアルも私のことを認めてくれたようだった。傭兵として粗野で乱暴な性格っぽいが根はいい奴なのだろう。

 周りで私たちの模擬戦を見学していた人たちも無言でコクコクと頷いている。

 とりあえずは護衛たちからの不信感は払拭できたはずだ。

「皆にも彼女の実力を理解してもらえたようでなによりだ。全身揃っているようなので出発前の最終確認を始める!」

 アルが部隊の仲間から治癒を受けて立ち上がるとクリスが前に出て声を上げた。

「俺はクリス!この補給部隊の部隊長を務めるBランク冒険者の剣使いだ。よろしく頼む……」

「私はアイラ・アルステードです。数年前に襲われて、やっとここに戻ってくることができました。魔術による支援が主になると思いますがよろしくお願いします」

「私はティア、アイラの友人で力を貸すためにここにいます。魔術使いです」

「私は紫陽と申します。桜華皇国から縁あってアイラさんの力になるためにいます。剣術は基礎を、得意なのは霊術ですね。よろしくお願いします」

「私は黒羽。紫陽様に仕えている刀使いだ。よろしく」

 クリスに続いて私たちも簡単な自己紹介をした。
 私が自己紹介で魔術使いとしたのは、しばらくの間魔術を戦闘の主軸に置くためだ。
 これまで何度か戦って感じたが近接戦闘は魔力の消費が少ない分、体への負担が大きい。対して、魔術戦闘は魔力の消費が大きくなるが他の負担が少ないのだ。
 今の私は魔力量に余裕がある。昔と同じで収束魔術も兼ねれば長期の戦闘でも魔力切れは起こさずに済むだろう。

「俺は傭兵のアルだ……1番馬車の護衛隊長をすることになった」

 私たちに続いて自己紹介をするのは馬車の護衛を務める部隊の隊長たちだ。

「私は2番馬車担当のサティナ。元々領地に属していた騎士で槍使いよ。よろしくね」

 サティナは全身を白銀の鎧で覆っている見るからに騎士然とした女の人だ。とても大きな槍を背負っていて、鎧とあわせると厳つく見える。
 だが、兜を外している今はとても優しそうに微笑んでいる表情が印象を和らげていた。

「僕は3番馬車付きのクロ。Dランクの冒険者の魔術使いだね」

 クロは私のような魔術を練りこんだ服を着ていて杖を背負っている。
 短く纏めた赤い髪と人懐っこい笑みを浮かべたクロは日焼けしていることも合わさって、とても元気の良い少女といった印象だ。

「私は4番馬車付きのオルフェル……よろしく」

 オルフェルの低い声が響いた。
 全身を重厚な鎧で覆っていて顔も隠している謎の多い男だが、アンクリースによると元々王宮務めの騎士だったらしい。魔力が少ないが剣の腕はとても凄いそうだ。。
 唯一の欠点があるなら人見知りであまり話さないことだろう。

「俺は5番馬車担当のオステガ。元傭兵で今はローエンディッシュ様に雇われている。二槍使いで魔術もそれなりだ。よろしく頼む」

 最後に挨拶をしたのはローエンディシュが目をかけていて傭兵から引き抜いたオステガだ。
 オステガは鎖を編んだ軽量な鎧と等身大の二つの槍を持つ槍使いで聖属性の魔術も扱えるらしい。
 治癒魔術は数人使えるが聖属性による治癒は私とオステガしか扱えないだろう。

「これで護衛隊長も全員紹介できたな……では、改めて。俺たち補給部隊はこれから山道を抜けて西部戦線の前線都市へ向かう。誰一人も欠けることなく、全員無事に物資を届けるぞ!」

 クリスの言葉に全員で「おーっ!」と返事をする。
 ここにいる人とは今日初めて対面して話した人も、数日前に初めて親しくなった人もいる。
 だけど、初めて一丸になって全員の気持ちが一緒になったような気がした。

「お主たちの頑張りによって西部戦線の未来に繋がるじゃろう。頼む!」

「皆さん。どうかご無事に。西の皆さんのこと、よろしくお願いします」

 ローエンディッシュやアンクリースからも檄をもらうと馬車はゆっくりと動き出す。
 それにあわせて私たちも街の外へと歩き始めるが周りに集まっていた住民や騎士達、衣食住を支えてくれている職人たちからも「がんばれー」や「気をつけるんだよ!」と言った応援が聞こえてくる。

 こうして、西部戦線への旅路が始まるのだった。
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