王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第11章 壊れかけのラメルシェル

5 補給部隊との顔合わせ

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「っ!?地震か!?」
「噴火!?」

 いきなり襲い掛かってきた揺れは足元を大きく揺らした。
 クリスやアイラは体をビクッと震わせて窓から火山の方角を急いで覗く。

「いや……普通の地震じゃないの。これは空間の歪みか。だが……」

 火山のほうは普段どおり煙が出ているだけで噴火しているようには見えず、普通の地震では感じないような感覚があった。
 揺れ自体は、例えるなら震度4から5くらいだが、ローエンディッシュが渋い顔で呟いたとおり普通の地震じゃないことは確かだ。

「まるで広範囲を転移魔術で転移させたような……でも、これは……?」

 王鍵による転移のように直接つながりのある空間転移は周りに大きな影響が出ない。空間の揺らぎこそ起きるものの魔力はあまり漏れないため、部屋の近くにいない限り分からないくらいだ。
 逆なのは転移用の魔術具や術式による転移の場合だ。転移する二箇所を繋ぐために大きな魔力が発生し、それにあわせて空間の揺らぎも大きくなる。百人程度を転移させようとしても街の中であれば気付くくらいになる。

 だが、今感じたのはそのような規模じゃない。
 とても遠くに感じるのにはっきりと空間の揺らぎや魔力の乱れが知覚できた。
 よっぽど大きな転移か困難な場所同士を繋いだのか、あるいは超遠距離とも言える場所同士を繋いだのか。
 そのような類の特殊な乱れ方だ。

「ふむ……嫌な予感がするの」

 ローエンディッシュは空を見上げながら、ふと呟いた。

 その後、地震などが再び起きることはなかった。
 幸い事件なども起きることが無く、武具や物資の再確認などを行い夜には温泉で体を休めて出発の日を迎えることができたのだ。

 出発の日の朝、私たちは西門前の広場に集まっていた。
 荷物は既に馬車に積まれていて各馬車を護衛する兵士たちもこの場に集まっている。
 護衛の中には元からラメルシェル王国の兵士もいれば冒険者や傭兵として雇われている人もいるそうだ。
 基本的には冒険者や傭兵などの知り合い同士で小隊を組み、開いた部分に兵士を入れているらしい。

 何人かは私たちとローエンディシュたちのやり取りを見ている人もいるようで顔を合わせると挨拶を返してくれる人も多い。

 だが、中には私たちを知らない人もいるわけで、物珍しそうに眺める人や怪訝な表情で見つめてくる人もいた。

「けっ……見ない顔だと思ったら全員女。しかも一人はガキだと?これは遊びじゃないんだ。とっとと帰んな!」

 その怪訝な顔をしていたうちの一人である男性が舌打ちしながら近付いてきた。傭兵たちでまとまっている小隊のリーダらしき人だ。
 今まで様々な場所で共闘することはあったが、このようなことを言ってくる人はいなかった。とても新鮮で面白く感じ、ついにやけそうになる。

「私たちは正式にローエンディッシュ様より依頼を受けています。とやかく言われる筋合いはありません!」

「はっ!んなもん知らねんだよ!」

 アイラが前に出て反論するが相手も引き下がるつもりはないようだ。

「アル!少しは抑えろ!四人が遊撃役として参加するのは既に決まったこと。実力も俺やローエンディッシュ様、アンクリース様が確認している……何も問題はない」

 このまま喧嘩になるかと考えているとクリスが仲裁しようとする。

「クリス!俺はお前だって認めてねんだよ!お前たち冒険者は魔物専門、俺たち傭兵は対人専門だ。今のような戦争は俺たちの本職だ」

「だったら模擬戦でもすればよかろう。一回手合わせするくらいの時間をあるでの」とローエンディッシュが近付いてきた。

「模擬戦だ?ぼけちまったのか爺さんや。こいつら相手に本気なんて出せねえし甚振る趣味なんてねんだよ」

 アルが私たちだけでなくクリスにも噛みついていると、ローエンディッシュがやってきた。隣にはアンクリースもいて私たちの見送りに来たのだろう。
 そして、アルのように私たちを認めない人がいることも想定していたのかもしれない。
 ローエンディッシュが何かを企んでいるかのようなにやけて、アンクリースは仕方がないと言ったかのように肩をすくめていた。

「それは安心していいぞアルよ?お主が言い争っているアイラ嬢が相手なら互角な戦いになるじゃろう。そして他の三人が相手であればお主が負ける。まぁ手加減してもらえるだろうから死にはしないじゃろうがな」

「あ!?俺がこの三人……しかも、この小せえガキにも負けるってのか!?」

 さらっと煽るローエンディッシュが一瞬だけ私に目線を向けてきた。きっと先に実力を示しておけとでも考えていそうな目だった。

「私は構いませんよ?出発前ですが怪我しても治してあげますし」

 だから、私もローエンディッシュの言葉に乗ることにした。
 部隊長はクリスだが緊急時には私たちから指示を出すことがあるかもしれない。その時になって面倒なことになるくらいなら、今のうちにはっきりさせておいた方が気持ちが楽だ。

 私が誰もいない少し空いたスペースに歩みを進めるとアルも舌打ちしながら歩いてくる。

「いつでもかかってきなさい」

「っ……!何があっても恨むんじゃねぇぞ!?」

 アルはその言葉を最後に剣を向けて突撃してきた。 
 相当な速度で突きを放とうとするアルの攻撃は、まともに当たればかなりの威力だろう。

 でもそれは、まともに当たればの話だ。

「なぁ!?」

 私は足に魔力を込めて地面に対して魔術を行使した。
 術式を介さない簡単な下級の地属性魔術だが、アルが踏み込もうとした地面を押し上げた。それは、ジャンプ台のようになって、ものすごい勢いで突っ込んできたアルを上空へ打ち上げる。

「体力は温存しないといけないのでね……新しい戦い方の練習台になってもらいます」

 私は両手を合わせて前に突き出す。
 先程、打ち上げるために使った地面を切り離して、土製の槍へと加工してから空を飛んでいるアルに向けて放った。

「ちっ!?舐めるな!」
「へぇ?」

 これで決めるつもりだったが予想外のことが起きる。
 アルは不安定な姿勢で空を飛んだまま剣を振るってバランスを整えた。そして、私が放った土の槍を剣で弾いて攻撃を逸らしたのだ。

「油断してたつもりはないけど……やるじゃない。でも」

 アルがいる位置よりもさらに上空に魔力を集めた。そのまま集めた魔力を雷光属性へと変質させて一気に撃ち落とした。

「あ!?」

 どこからもなく強く照らし出した光にアルが顔を上げる。空から降り注ぐ一条の雷光は、アルの顔を照らした。
 アルは顔に驚きを見せて、そのまま光に包まれた。
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