【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

文字の大きさ
50 / 77
異世界の環境改革

願い

しおりを挟む
次の日、エネルの魔法でゼル族とアラン族の村の境に広場が整えられた。

木々を編んだ祭壇と、石を積み上げた台座が並び、両部族の特色が一つの場に溶け合うように配置されている。



「……これが“祭り”か」

アラン族の族長、グラズが腕を組み、不満げに吐き捨てる。

「派手さが足りんな。神は力を示す者を好まれる」



「神は静寂を愛される。騒ぎ立てては祈りが届かぬ」

ゼル族の族長、プーラもまた険しい顔で応じた。



――始まる前から、火花が散っていた。



エミリは二人の間に立ち、ぱん、と手を叩いた。

「はいはい!両方のやり方を大事にしましょうよ。祈りも舞も、全部“神さまへの気持ち”なんですから!」



広場には両部族の人々が集まり、祭りは静かに幕を開けた。


先陣を切ったのはゼル族。


森に響き渡るのは澄んだ歌声。

川のせせらぎと風の音が重なり、世界そのものが祈りに耳を傾けているかのようだった。



続いてアラン族。


太鼓を打ち鳴らし、力強く地を踏み鳴らす。

雄叫びのような声が夜空を突き抜け、火を焚いた炎が舞いに応えるように揺らめいた。



しかし互いに視線を交わすたび、険悪さは増していく。



「うるさいだけだ」

「静かすぎて眠くなる」



囁きが飛び交い、空気がぴりぴりと張りつめていった。



「どちらも素敵なのに、意地を張りすぎてるんですよね……」

エミリは思わずため息を漏らした。



そのときだった。



子どもたちが小さな声でゼル族の祈り歌を真似しながら、アラン族の太鼓に合わせて楽しげに跳ね回り始めたのだ。



「ほら、どんどん!」

「お歌もいっしょー!」



歌と太鼓。

本来なら交わらないはずの旋律と鼓動が、ぎこちなく、けれど不思議と心地よく重なっていく。



エミリは目を丸くして呟いた。

「……素敵」



「……あぁ。悪くないな」

エネルも、不意に口を開いていた。






両部族の大人たちは驚いたように顔を見合わせた。

だが、その目にはまだ警戒と意地が宿り、誰も先に声を上げようとはしない。

「我らのやり方が正しい」――その思いに縛られて、動けずにいた。



けれど、子どもたちは違った。

歌に合わせて跳ね回り、太鼓のリズムに手を叩き、笑顔で輪を広げていく。

互いの違いなど気にする様子もなく、ただ楽しいという気持ちのままに。



やがて若者たちが、その輪に加わった。

大人よりも縛りが薄い彼らは、面白がるように声を合わせ、自然に体を揺らす。



子どもたちの無邪気さと若者たちの軽やかさが混じり合い、広場に新しい調和が生まれつつあった。



子どもたちの歌と太鼓が夜空へ響き渡る。

笑い声と手拍子が重なり、広場は熱気に包まれていった。




その時、
突如として冷たい風が吹き抜け、広場の熱気を切り裂いた。
耳をつんざくような鳴き声が、夜空から響き渡る。


「……鳴き声?」


誰かの呟きと同時に、空から甲高い声が降ってきた。



夜空を切り裂いて舞い降りたのは、巨大な鳥型の魔獣。

黄金色に輝く羽根が月光をはじき、羽ばたくたびに暴風が巻き起こる。



「な、なんでこんなところに……!」

「きっと、歌と太鼓に誘われたんだ!」



魔獣は敵意を持っているわけではない。

ただ楽しげな音に惹かれ、好奇心のまま広場へ近づいてきたのだ。



しかし、その巨大な翼が巻き起こす突風は容赦なく――

ごうっ、と暴風が広場を駆け抜け、編んだ木々の祭壇と積み上げた台座が大きく揺れ、崩れかけた。


「やめろっ!」

ゼル族の族長が叫び、瞬時に数人の若者が前に出る。

彼らの詠唱とともに、透明な壁のような防御魔法が広場全体を包み、祭壇と台座を必死に支えた。



「守ることは任せろ!」

ゼル族が声を張り上げる。



「ならば、追い払うのは俺たちの役目だ!」

アラン族の戦士たちが答えるように飛び出した。

槍を構え、太鼓のリズムを踏むように地を蹴り、魔獣を威嚇する。

炎や風の魔法を巧みに操り、傷を与えぬよう、しかし確実に遠ざけるよう動き回った。



暴れる鳥の魔獣は、二つの力に挟まれ、やがて怯んだように翼をはためかせ、夜空へと飛び去っていく。



暴風が広場を駆け抜けたその瞬間――。




「……あれは……!」

誰かが指差した。



崩れかけた祭壇から、古びた紙片が何枚も宙に舞い上がっていた。

それは、長年にわたり人目を忍んで書き残され、隠されてきた手紙や願いの数々。



――「アランの友ともう一度語らいたい」

――「ゼルの娘と森で踊りたい」

――「どうか、この壁がなくなりますように」



風に乗って翻る紙片は、月明かりを受けてきらめきながら、広場に集まった両部族の上へ降り注いでいく。



大人たちは目を見開き、言葉を失った。

子どもたちは手を伸ばし、紙片を掴むと無邪気に読み上げる。



「ねえ!これ、仲良くしたかったって!」

「ほら、こっちもだ!“また一緒に歌いたい”って!」



静まり返る広場。

ゼル族もアラン族も、その紙に綴られた想いの前では、ただ意地を張り合うことがいかに空しいことかを突きつけられていた。



エミリは胸に手を当て、ぐっと前に出る。


「……見えましたよね? これが、みなさんの先祖や仲間が本当に残した“祈り”です。

どちらが正しいとか間違ってるとかじゃなくて――“分かり合いたい”って、ずっと願ってきたんです」



風に舞った祈りの紙は、最後の一枚まで両部族の手の中に降り落ちていた。

まるで、神が両者を導くように。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【書籍化&コミカライズ】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます【2/20取り下げ予定】

橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化&コミカライズ企画進行中】 フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… 第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます! 皆様の応援のおかげで書籍化&コミカライズ決定しました✨ 詳細は近況ボードにて。 2026.1.20追記

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

処理中です...