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異世界の環境改革
きっかけはよそ者から
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「皆さん、お忙しい中またお集まりいただきありがとうございます」
翌日、エミリはエネルに頼み、ゼル族とアラン族の族長、そしてそれぞれの有力者を一堂に集めた。
「もうこれ以上、関わりを持ちたくないのだが」
「それはこちらのセリフだ!」
両部族の若者たちが口々に小競り合いを始める。だがエミリは一歩も引かず、声を張った。
「みなさん、私の世界には“祭り”という行事があります。もともとは神さまやご先祖さまに感謝や祈りを捧げるためのものでした。
でも、時が経つにつれて、人々が集まって歌ったり踊ったり、屋台を出したりする“楽しみの場”にもなったんです。
祈ることもあるし、子どもや若者が交流することもできる、だから信仰心がある人も、そうでない人も一緒に過ごせるんです。
同じように、ゼル族の祈りもアラン族の祈りも大事にして、一つの祭りにできたら……神に祈りを捧げながら、お互い交流もできると思います……いかがでしょう?やってみませんか?」
「なぜ俺たちが、やつらとそんな訳のわからぬ真似をしなければならん!」
「そうだ!こっちから願い下げだ!」
「関わりたくもない!」
飛び交うヤジ。場が再び荒れ始めた、その時だった。
エミリの冷たい声が会場を切り裂く。
「――みなさん。私が誰か、ご存知でそんなことを言っているのですか?」
不穏な気配に、ざわついていた若者たちも息を呑み、沈黙する。
訝しげにゼル族の族長プーラが声を上げた。
「ただの人間風情が、なにを言う」
「いいですか?……神託の勇者とは、私のことです」
エミリは胸を張って宣言した。
「つまり――神託の勇者=神の次に偉い存在(どの神かは知りませんけどね)。
ということは、私の決定は絶対!」
堂々たる(というよりも半ば強引な)その言葉に、場は凍り付いた。
「……」
静寂の中、エネルは顔を覆い、ため息を吐く。
族長たちは顔を見合わせ、渋い表情を浮かべながらも黙り込んだ。
結局、エミリの勢いと“神託の勇者”という肩書きに押され、誰もそれ以上強く反論できなくなった。
「……まあ、神託の勇者とあれば話を聞かぬわけにもいかん」
「……神の意志に従うのも務めだからな……」
そんな呟きが漏れ、場の空気はしぶしぶながらも受け入れる方向へと傾いていった。
***
会合が終わり、外に出たエミリはぱっと明るい笑顔を浮かべ、エネルに向き直った。
「いやー、なんとかなりましたね!」
「……お前なあ……」
エネルはこめかみを押さえ、深々とため息をついた。
「よくあんな勢いで押し切れるな。見ていて魔王かと思ったぞ」
「えへへ。でも勢いって大事ですよ!だって、みなさんの巻物や紙片に“歌いたい”とか“踊りたい”とか書いてありましたよね?本当は両部族とも、そういうの好きなんですよ。だから祭りにすれば、絶対盛り上がると思ったんです。それで仲良くなれたら、一石二鳥じゃないですか!」
エネルは思わず口元をゆるめ、肩を揺らした。
「……なるほどな。確かにこれだけ長く揉めてりゃ、互いに引くに引けず意地を張ってるだけだ、何かのきっかけがあれば案外上手くいくかもしれないな」
「でしょ? しかも私、異世界から来た“よそ者”で……真実はどうあれ神託の勇者なんです。きっかけ作りにはぴったりじゃないですか?」
胸を張って言い切るエミリに、エネルはしばし無言で見つめ、それから小さく息を吐いて肩をすくめた。
「……まったく。お前のその無鉄砲さ、いつか命取りになるかもしれんが……」
ふっと笑みを浮かべ、言葉を継ぐ。
「今は、案外役に立つのかもしれないな」
エミリは嬉しそうに笑い返し、次に待つ“祭り”の準備を思い描いて胸を高鳴らせていた。
翌日、エミリはエネルに頼み、ゼル族とアラン族の族長、そしてそれぞれの有力者を一堂に集めた。
「もうこれ以上、関わりを持ちたくないのだが」
「それはこちらのセリフだ!」
両部族の若者たちが口々に小競り合いを始める。だがエミリは一歩も引かず、声を張った。
「みなさん、私の世界には“祭り”という行事があります。もともとは神さまやご先祖さまに感謝や祈りを捧げるためのものでした。
でも、時が経つにつれて、人々が集まって歌ったり踊ったり、屋台を出したりする“楽しみの場”にもなったんです。
祈ることもあるし、子どもや若者が交流することもできる、だから信仰心がある人も、そうでない人も一緒に過ごせるんです。
同じように、ゼル族の祈りもアラン族の祈りも大事にして、一つの祭りにできたら……神に祈りを捧げながら、お互い交流もできると思います……いかがでしょう?やってみませんか?」
「なぜ俺たちが、やつらとそんな訳のわからぬ真似をしなければならん!」
「そうだ!こっちから願い下げだ!」
「関わりたくもない!」
飛び交うヤジ。場が再び荒れ始めた、その時だった。
エミリの冷たい声が会場を切り裂く。
「――みなさん。私が誰か、ご存知でそんなことを言っているのですか?」
不穏な気配に、ざわついていた若者たちも息を呑み、沈黙する。
訝しげにゼル族の族長プーラが声を上げた。
「ただの人間風情が、なにを言う」
「いいですか?……神託の勇者とは、私のことです」
エミリは胸を張って宣言した。
「つまり――神託の勇者=神の次に偉い存在(どの神かは知りませんけどね)。
ということは、私の決定は絶対!」
堂々たる(というよりも半ば強引な)その言葉に、場は凍り付いた。
「……」
静寂の中、エネルは顔を覆い、ため息を吐く。
族長たちは顔を見合わせ、渋い表情を浮かべながらも黙り込んだ。
結局、エミリの勢いと“神託の勇者”という肩書きに押され、誰もそれ以上強く反論できなくなった。
「……まあ、神託の勇者とあれば話を聞かぬわけにもいかん」
「……神の意志に従うのも務めだからな……」
そんな呟きが漏れ、場の空気はしぶしぶながらも受け入れる方向へと傾いていった。
***
会合が終わり、外に出たエミリはぱっと明るい笑顔を浮かべ、エネルに向き直った。
「いやー、なんとかなりましたね!」
「……お前なあ……」
エネルはこめかみを押さえ、深々とため息をついた。
「よくあんな勢いで押し切れるな。見ていて魔王かと思ったぞ」
「えへへ。でも勢いって大事ですよ!だって、みなさんの巻物や紙片に“歌いたい”とか“踊りたい”とか書いてありましたよね?本当は両部族とも、そういうの好きなんですよ。だから祭りにすれば、絶対盛り上がると思ったんです。それで仲良くなれたら、一石二鳥じゃないですか!」
エネルは思わず口元をゆるめ、肩を揺らした。
「……なるほどな。確かにこれだけ長く揉めてりゃ、互いに引くに引けず意地を張ってるだけだ、何かのきっかけがあれば案外上手くいくかもしれないな」
「でしょ? しかも私、異世界から来た“よそ者”で……真実はどうあれ神託の勇者なんです。きっかけ作りにはぴったりじゃないですか?」
胸を張って言い切るエミリに、エネルはしばし無言で見つめ、それから小さく息を吐いて肩をすくめた。
「……まったく。お前のその無鉄砲さ、いつか命取りになるかもしれんが……」
ふっと笑みを浮かべ、言葉を継ぐ。
「今は、案外役に立つのかもしれないな」
エミリは嬉しそうに笑い返し、次に待つ“祭り”の準備を思い描いて胸を高鳴らせていた。
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