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<最終章>お花屋さんと森の記憶
沈黙の羽音
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オルガが目を覚まし、寝台から上半身だけを起こすと、昨日魔物に攻撃された肩を数回まわし、手を開いたり閉じたりして調子を確かめた。
あの後すぐにギルドからギルド長マッシモと魔法師セレンが駆けつけ、回復魔法を施してくれたおかげで、命に別状はなかった。
台所からは、包丁の乾いた音と、バターの甘い香りが漂ってくる。
その音に耳を傾けているうちに、ふたたび瞼が落ちかけ、オルガはそれを振り払うようにして立ち上がった。
その気配を感じたのか、台所の主—レオニダスが包丁の手を止め、無言のままオルガのもとへ歩み寄る。
そして、言葉もなく、強く抱きしめた。
「あれー? 来てたんだ。今日は非番じゃないよね?」
オルガの問いかけに、レオニダスは何も返さない。
ただ、その腕にもう一度、強く力をこめる。
「……もう無理はしないと誓ってくれ。
他の誰かを庇って、オルガが死ぬなんて—俺は許さない」
「自分だってそうするくせに……」
オルガが少し不貞腐れたように呟くと、レオニダスはまた無言のまま、きつく、きつく抱きしめた。
キッチンから漂うバターの香りと、焼きたてのパンの香り。
そんな温かな匂いに包まれながらレオニダスの胸に抱かれていると、両親がいなくなってから、ずっと一人でいることに慣れていたオルガの瞳に、静かに涙がにじんだ。
朝食を食べた後、レオニダスは本を開げ、ソファーに足を伸ばし、オルガは昨日怪我した肩の様子をみるため、生成本をながめながら手当たり次第に種を生成する。
それぞれ思い思いに過ごしているが、会話がなくとも存在を感じれる距離が心地よい。
レオニダスは手に持つ薬草図鑑を閉じると、集中して種を作り続けるオルガを見つめた。
まるでこの世界の神であるかのように、オルガの小さな手から金色の光がベールのように現れ、色とりどりの種ができあがる。
オルガが作る種はレオニダスからみて全て美しいが、やはり自分の胸元に光るオルガの髪色と同じ種が一番素晴らしい。
胸元の種を握りしめながらそんなことを考えていると、オルガが窓にふと視線をやり、急に立ち上がると、家の扉に向かった。
「あ!!久しぶり!!」
外に出たオルガは、久しぶりに会う白いカラスに向かって笑顔を向けた。
手のひらに置いた、先ほど生成したばかりの種を見つけると、カラスは翼を震わせながら降り立ち、あっという間に食べてしまう。
「お腹空いてたの?」
オルガが覗き込むと、いつも真っ白だった羽はところどころ灰色に汚れ、少し焦げたようにも見えた。
その足には、乾いた黒い土のようなものがこびりついている。
「おまえ、ちょっと汚れてるな。どこで遊んでたんだ?」
レオニダスが声をかけると、カラスは答えるように短く鳴き、低く風を切って飛び去っていった。
その羽ばたきに混じって、微かに焦げ臭い匂いが残る。
その羽音はいつもより重く、沈んで聞こえる。
風が一瞬ざわめき、オルガの頬を撫でる。
(……今、誰かが……呼んだ?)
言葉にはならない微かな声。
けれど確かに、何かが耳の奥で囁いたような気がした。
オルガは胸に手を当て、空を見上げる。
空は青く晴れているのに、どこか光が薄く、遠く霞んで見えた。
「……風の声?少し悲しい……」
その呟きに、レオニダスは何も返さず、ただ彼女の横顔を見つめていた。
あの後すぐにギルドからギルド長マッシモと魔法師セレンが駆けつけ、回復魔法を施してくれたおかげで、命に別状はなかった。
台所からは、包丁の乾いた音と、バターの甘い香りが漂ってくる。
その音に耳を傾けているうちに、ふたたび瞼が落ちかけ、オルガはそれを振り払うようにして立ち上がった。
その気配を感じたのか、台所の主—レオニダスが包丁の手を止め、無言のままオルガのもとへ歩み寄る。
そして、言葉もなく、強く抱きしめた。
「あれー? 来てたんだ。今日は非番じゃないよね?」
オルガの問いかけに、レオニダスは何も返さない。
ただ、その腕にもう一度、強く力をこめる。
「……もう無理はしないと誓ってくれ。
他の誰かを庇って、オルガが死ぬなんて—俺は許さない」
「自分だってそうするくせに……」
オルガが少し不貞腐れたように呟くと、レオニダスはまた無言のまま、きつく、きつく抱きしめた。
キッチンから漂うバターの香りと、焼きたてのパンの香り。
そんな温かな匂いに包まれながらレオニダスの胸に抱かれていると、両親がいなくなってから、ずっと一人でいることに慣れていたオルガの瞳に、静かに涙がにじんだ。
朝食を食べた後、レオニダスは本を開げ、ソファーに足を伸ばし、オルガは昨日怪我した肩の様子をみるため、生成本をながめながら手当たり次第に種を生成する。
それぞれ思い思いに過ごしているが、会話がなくとも存在を感じれる距離が心地よい。
レオニダスは手に持つ薬草図鑑を閉じると、集中して種を作り続けるオルガを見つめた。
まるでこの世界の神であるかのように、オルガの小さな手から金色の光がベールのように現れ、色とりどりの種ができあがる。
オルガが作る種はレオニダスからみて全て美しいが、やはり自分の胸元に光るオルガの髪色と同じ種が一番素晴らしい。
胸元の種を握りしめながらそんなことを考えていると、オルガが窓にふと視線をやり、急に立ち上がると、家の扉に向かった。
「あ!!久しぶり!!」
外に出たオルガは、久しぶりに会う白いカラスに向かって笑顔を向けた。
手のひらに置いた、先ほど生成したばかりの種を見つけると、カラスは翼を震わせながら降り立ち、あっという間に食べてしまう。
「お腹空いてたの?」
オルガが覗き込むと、いつも真っ白だった羽はところどころ灰色に汚れ、少し焦げたようにも見えた。
その足には、乾いた黒い土のようなものがこびりついている。
「おまえ、ちょっと汚れてるな。どこで遊んでたんだ?」
レオニダスが声をかけると、カラスは答えるように短く鳴き、低く風を切って飛び去っていった。
その羽ばたきに混じって、微かに焦げ臭い匂いが残る。
その羽音はいつもより重く、沈んで聞こえる。
風が一瞬ざわめき、オルガの頬を撫でる。
(……今、誰かが……呼んだ?)
言葉にはならない微かな声。
けれど確かに、何かが耳の奥で囁いたような気がした。
オルガは胸に手を当て、空を見上げる。
空は青く晴れているのに、どこか光が薄く、遠く霞んで見えた。
「……風の声?少し悲しい……」
その呟きに、レオニダスは何も返さず、ただ彼女の横顔を見つめていた。
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