【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

文字の大きさ
87 / 103
<最終章>お花屋さんと森の記憶

約束の腕輪

しおりを挟む
「今回の魔物討伐は、ここから北の森を抜け、エイミル村を目指します。
この一帯では高位魔物の出現が相次いでおり、スタンピード発生の危険が高い」



レオニダスの低く引き締まった声が、冒険者ギルドの会議室に響く。

壁一面に貼られた地図には、赤い印で危険地帯が記されていた。

剣の柄を叩く音、鎧の擦れる音、誰もが緊張を胸に、次の言葉を待っている。



「討伐の中心部隊は騎士団が担いますが、――森の奥は地形が複雑です。
地理と魔物の習性に詳しい冒険者の協力が不可欠なので、皆さんよろしくお願いいたします。
ギルド長マッシモの指揮のもと、前衛・索敵・回復の三部隊に分かれて行動しましょう」



一拍置いて、レオニダスの視線が鋭くなる。



「そして――オルガも同行してもらいます。彼女には補助を任せ、直接戦闘には加わらない。……ですが、彼女を守るのはこの場にいる全員の責務だと思ってください」



一瞬、室内がざわめいた。

しかしそれは不満の声ではない。

むしろ安堵と覚悟が混じり合ったような、静かな熱だった。



「……寄生花の時、オルガがいなきゃ俺たちは全滅してた」

「命を拾われた恩、返す時だな」

「嬢ちゃんを守れるなら、それで充分だ!」



笑い混じりの声がいくつか上がる。

その空気に、オルガは頬を少し染め、視線を落とした。

レオニダスはそんな彼女をちらりと見やり、口元をわずかに引き締める。



「任務は明確です――スタンピードを阻止し、誰一人欠けずに帰還すること」



その言葉が重く空気を打ち、部屋に沈黙が広がる。次の瞬間、全員の視線と意志がひとつになった。


******




会議が終わると、レオニダスとオルガはギルド長マッシモの執務室に移動した。

いつも受付で冒険者たちを捌いているミーナが、珍しく時間が空いたのか、香り高いハーブティーを三人の前に置く。


ミーナの恋人—S級冒険者カエサルも魔物討伐遠征に参加するのだが、心配する様子もなくいつも通りだ。



「……なるほどな、精霊樹へ案内してくれる、その“つかい”とやらは見当がついてるのか?」

マッシモは、オルガから一通り、かつての側妃エメリナから聞いた話を聞くと、興味深そうに顎に手を当てる。



オルガはカップを両手で包みながら、少し考えるように首を傾げた。

「ついてるような、ないような?」



かなり前から自分の近くに付かず離れずいる“あの子”しかいない気がしている。

けれど、姿を見せてはいるのに肝心の場所へは決して導かれない――その矛盾が、オルガの心に迷いを残していた。



「そもそも、魔物の異変はセオドルが精霊樹に何かしたのが原因と考えるのが妥当なので、一番異変が報告されている今回の討伐地のどこかに、その場所に行ける何かがあるかもしれないと考えています」



レオニダスが淡々と補足する。

本来なら“精霊のつかい”が別次元にある精霊樹へ導くのだろう。だが、セオドルが何か干渉したことによって、その“つながり”に支障が起きている――レオニダスの推測だ。



「とりあえず行ってみてから、また考えるよー」

オルガの気の抜けた返事に、マッシモは小さくため息をつく。



その時、執務室のドアから控えめなノックの音が響いた。



「入っていいぞ」



扉が開くと、マルタが嬉しそうに顔を覗かせた。



「オルガさん!こちらに来てるってミーナさんから聞いて、いてもたってもいられず来ちゃいました!」



寄生花に寄生されて眠っていた頃よりも健康的に頬が色づき、柔らかな笑顔が咲く。

オルガも思わず立ち上がり、マルタの手を取った。



「ミーナがね、マルタが採取した薬草はどれも完璧だって褒めてたよ!冒険者たちに教えてあげてほしいってさ」

「えー!まだ教えるなんてできませんよー、私まだ新米ですよ!」



開け放たれた扉の向こう、ギルドの荒々しい男たちが二人のやり取りを見て苦笑している。

硬い空気が和らぎ、まるで喫茶店のような穏やかな空気が流れた。



「今日はオルガさんに渡したいものがあって来たんです」



マルタは肩から下げている小さな袋を探ると、色とりどりの糸で編まれた短い紐を取り出す。

陽の光に反射して、まるで小さな虹のように輝いた。


「……きれい。これ、腕輪?」


「はい。私の村ではお守りなんです。家族や大切な人に渡すもの。
私は討伐には行けませんけど……そのかわり、これを持って行ってほしくて」



オルガはゆっくりと腕輪を受け取ると、胸に抱きしめた。

その瞳に映るのは、確かな絆と、これから向かう道への小さな勇気。


「うん……ありがとう、マルタ。ちゃんと持っていくね」



オルガの言葉に、マルタは満面の笑みを浮かべた。

窓の外、夕陽がギルドの壁を黄金に染め、戦いの前の静かな時間を優しく包み込んでいた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...