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05.よし、旅行に行くか
しおりを挟むそれから数日後の昼下がり、屋敷のテラスでハニーパイを堪能していると豪奢な馬車が凄い勢いでやってくる。
もちろん乗っていたのはカルジーニだった。
玄関先で執事見習いのロバートと一緒に出迎えると、颯爽と現れた彼は、例の魔具を取り出して言う。
「レジェ、魔具が直ったぞ、お前の部屋に行ってもいいか?」
「僕の? いいけど――っ?」
言い終わると同時に、またもや、僕は誘拐される。
だだだっと人の屋敷へ駆け上がり、カルジーニは、僕の部屋へと入ると、ごくりと喉を鳴らし、血走った目で魔具を手の平に乗せる。
――あ、直ってる?
粉々になってしまった魔具が、元通り戻っていることを確認した僕は、やっと十七歳に戻れる! と、うきうきする。
あの時、体験した時と同じように、白、赤、青、緑と順番に色を変えると魔具は最後にピカーと光る。
でも待って欲しい、それは僕が元に戻るために必要なはず……? 何故カルジーニが魔具を使用しているのか分からなくて、「ねぇ?」と声を掛けた瞬間。
「えぇ……? えぇぇえ?」
まばゆい光と共に、カルジーニがどんどん縮んでいく。
「どうだ?」
「どう……ってカルジーニ! 小さくなってる!」
一大事が起きて気が動転している僕に彼は、「しずかにしゅろ」と命令してくる。いきなり小さくなったせいで、ろれつが回らないようだった。
十歳どころか、五歳くらいまで縮んでしまったカルジーニを抱き上げると、中心でプランとアレが揺れる。
それを見て軽い敗北感を覚えたが、ソコだけ大人のままなのかも知れないし……、と近くにあった布を巻きつけ、僕は敗北を無かったことにした。
「っ、ところで、カルジーニ、小さくなっちゃったよ? ど、どうするの?」
「よし、旅行に行くか……」
「何言ってるの!」
「俺が十歳になったら旅行に行くって言っただろ……」
確かに言ったけど、だからって別に子供の姿じゃなくてもいいのに、と言えばカルジーニが怒りだす。
「じゃあ、なんで子供になったらって言ったんだ!」
「あれは、例え話だよ、カルジーニが子供の姿になったら、僕は国王陛下から処罰を受けるかも知れないから、元に戻るまで旅行にいかないとね? って、そういう冗談なの!」
むうっと不貞腐れたカルジーニが、地団駄を踏む。
「騙したのか!」
「……まあ、結果的には……?」
ずんと落ち込むカルジーニを見て、そんなに僕と旅行に行きたかったのかと思うと、ちょっとだけ可愛いなと思ってしまって、慌てて頭を横に振る。
――なに、今の、カルジーニ相手に可愛いって! 絶対にない!
と普段の憎たらしいカルジーニを何とか呼び起こす。
でも、五歳になった彼は普段と違って、ふっくらした頬でぷにぷにだし、目もくりくりして可愛くなってるし、何より、自分より子供になってる時点で庇護欲が湧くし……、と何だか弟が出来た気分になる。
「見た目は可愛いのに、中身がカルジーニって思うと、なんか複雑……」
「はあ? どういう――ッ?」
仁王立ちで怒るカルジーニが突然、元の姿に戻り、中心のアレが僕の目の前でプランと揺れる。
――あぅ……、なんか眩しっ!
千差万別だし、彼のソレが標準ではないことくらい僕にだって分かってる。これは敗北とかではないし、と慌てて両手で目を隠す。
カルジーニは自身の両手を広げ、適切な大きさになったのを見て「え、戻った?」と小首を傾げる。
「う、うん、戻ってるね」
「はあ……、なんでだ……」
ガックリっと肩を落とすカルジーニは、凄く残念そうにしている。けれど、ここで僕が思うことは〝ひとつ〟だけだ。
「ねぇ、カルジーニは直ぐに戻ったのに、どうして僕は戻らないの?」
「知らん」
「えー、そんな……」
へなへなと力を失う僕をカルジーニが見下ろしてくる。しかも真っ裸で、中心のアレを隠しもせず、裸の王子様になった彼は言う。
「そんなことより、旅行だ」
「えー? そんなことより、僕を元に戻してよ……」
「いや、旅行に行って、そこで戻す」
「えー、どうして旅行に拘るの? ここで戻して欲しい」
そう、どうしてそんなに旅行に拘っているのか不思議に思っていると、ぼそぼそとカルジーニは口を動かし、「邪魔がいない所に行きたい」と言う。
理由はよく分からないけど、多分、王子様っていうのは日頃から人に囲まれているから、お忍び旅行に行きたいのかな? と思っているとロバートが部屋に入って来る。
「な、なっ、なんという恰好をレジェ様の前で!」
「あ……、ほら見ろ、邪魔な奴が来た」
そう言って彼は肩を竦めた。
ロバートは慌てて床に散らばっているカルジーニの服をかき集めると、彼に着るように要求した。
「いくら、レジェ様が可愛いからと言って、変態にまで成り下がるとは……、国の行く末が心配になりますね……」
「お前、本当に失礼だな」
ふぅ、と溜息を深く付いたロバートが、僕を抱き上げ目隠しをする。
今さら目隠しをされた所で、全てを見てしまったし……、もう意味はないのだけど、と思いつつ、カルジーニが服を着るのを待っていると、何事もなかったように、豪奢な衣装に着替え終えたカルジーニが……。
「よし、行くか……」
そう言ってカルジーニは両手を広げる。それを見ていたロバートが小首を傾げて言う。
「……その手は何ですか?」
「そいつを渡せって意味だ」
僕を抱きしめるロバートは大きな溜息を吐き出し、「お渡しできません」と丁寧に断りを入れる。
「ふぅん、じゃあ、レジェに決めさせよう」
「え……」
「俺と、そいつ、どっち取るんだ」
急に変なことを言い出すカルジーニを見ていると、魔具をちら見せしてくる。
――ひ、卑怯だ!
それを人質にするなんて、なんて知能犯なんだ。あれを出されたら、僕は従うしかない。
得意気な顔をするカルジーニの顔が、子供の頃の嫌な思い出を彷彿とさせるけど、元に戻るためには仕方ない。
「カルジーニと一緒に行く」
「レジェ様……」
「あのね、ロバート、大人になるためには必要なんだ」
ちょっとだけ、悟りを開いたように僕はロバートに告げる。
実際に必要なのは魔具だけど、カルジーニがどうしても僕を旅行に連れて行きたい見たいなので、ここは譲歩するしかない。
けれど、僕の『大人になる』発言を聞き、ロバートは愕然として涙を浮かべる。
「レジェ様が、いよいよ……大人に……」
「いよいよって言うか、元に戻るだけなんだけど……、皆、忘れてるようだけど、僕は身体だけ子供なだけだから、そこを間違えないで欲しい」
潤んだ瞳をぐいっと拭い去るとロバートは、「分かりました。お供します」と頷く、それを聞いたカルジーニは、「連れて行くわけないだろ!」と吠える。
本当に仲良しだな、と二人のやり取りを眺めているとカルジーニから魔具が落ちる。
それを見ていた僕は、慌てて魔具を落ちる前に受け止めた。
その途端、またもや、白、赤、青、緑と順番に色を変え、魔具が最後にピカーと光る。
「あ……」
そして魔具は粉々に砕け散った――。
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