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04.魔具はどうなったの?
しおりを挟む父と一緒に王宮に到着し、カルジーニに会うために受付で申し込みをしていると、僕の麗しの王子様である、マクシム第一王子が、たまたま王宮の受付広場に顔を出した。
いつ見ても恰好が良くて、優しくて、優雅で、子供の頃からずっと彼に憧れていた。そんな彼が、こちらを見てニコっと笑顔を見せる。
――わあ、やっぱりカッコイイ……。
父と視線を交わし、挨拶をしたマクシム王子は、父と手を繋いでいる僕を見て「あれレジェ?」と言う。
「え……、僕だって分かるの?」
「当然だよ、この頃の君は本当に可愛かったからね。よく覚えている」
――え、じゃあ、僕ずっと十歳でいいかも!
「ところで、どうしてそんな姿に?」
「それが……」
あなたの弟に、こんな姿にさせられたのです! と、言うに言えない事実をどう伝えるべきか悩んでいると、風のように現れたカルジーニに抱えられ、僕は誘拐される。
「わぁああっ、カル、ジーニ?」
だだだっと走るカルジーニは、息も切れ切れになりながら声を絞り出す。
「おま、え……っ、はぁ、はぁ……」
宮殿内にある、ガーデン内の垣根に腰を落としたカルジーニは、「何で来たんだ!」と怒り始める。
「だって、魔具が直るか心配だったし、あ、あと旅行って言ってたから気になって……」
「は、はあ? そんなことを聞きに、わざわざ来たのか……」
「そんなことって重要だよ?」
「重要……、そ、そうだな、確かに重要だな、旅行の件は任せておけ、とっておきの場所を用意する」
僕が聞きたいことは旅行先じゃなくて、どうして〝旅行〟に行くことになっているのかを聞きたいのに……、なぜ上手く伝わらないんだろう? と思っていると、マクシム王子が、「レジェー?」と探しに来てくれた。
「僕ここ! ぅんぐっ」
「(馬鹿、声出すな)」
「(何で?)」
僕はカルジーニに羽交い絞めにされ、口を手で抑えられた。これは、どこからどう見ても誘拐犯に攫われる図だ。
まあ、その相手が第二王子だということで、それは成立しないのだけど……、と溜息を吐き、一番重要なことを聞くことにした。
「(ねぇねぇ、魔具はどうなったの?)」
「(ああ、心配ない、明日には直る)」
「(良かった、じゃあ、明日、うちに持って来てくれるの?)」
「(明日は駄目だ、まだ旅行先を決めてない)」
「(あ、あのね、その旅行――ッ)」
旅行のことを聞こうとした時、ガサっと背後で音がして、「みつけた」と子供のように嬉しそうな声を出すマクシム王子に見つかった。
「……っち、お前が大人しくしてないからだ」
「えー? 僕のせいなの?」
カルジーニから、僕のせいだと言われて、本当にこの人は子供の頃から全然変わらないなと思う。事あるごとに、『レジェが――』と言って、すぐ人のせいにする人だった。
別に慣れているからいいけど……、と下服についた泥をポンポンと叩き落としてから、はっとする。
――あ、ロバートのお宝なのに……。
下服の膝の部分がちょっと汚れてしまった。
些細な汚れなので、ぱっと見れば分からないと思うけど、相手はあのロバートだ。
汚れたのをバレないように入念に叩いて綺麗になったと自賛していると、マクシム王子に、どうして隠れているのかを聞かれて返答に困る。
「兄上、隠れていたわけではなく……、レジェがどうしても相談があると言うので」
「そうなの?」
――違うし……。
ぷくっと頬を膨らませていると、マクシム王子が僕に言う。
「レジェ、私では相談相手にはならない?」
なります! と言う予定だったのに、隣にいるカルジーニが耳に息を吹きかけてきたせいで、「なっぅ!」と変な声が出て恥ずかしい思いをさせられる。
邪魔ばかりしてくるカルジーニを睨み、マクシム王子に「今度、僕の悩みを聞いてください」と訴えると、「今聞いてあげるよ?」と微笑まれて、胸が、ずぎゅんと、ときめく。
「い、今は……、心の準備が……」
「何が、心の準備だ……」
「もう、カルジーニは、ちゃちゃ入れないでよ」
ああでもない、こうでもないと騒いでいると、僕を探しに来た父が、何をしているのかと割って入って来る。
父上はカルジーニを見つけると、せっかく面会の申請をしたのに、その意味がなくなったことに苦笑した。
「カルジーニ王子、いつもレジェを気にかけて頂きありがとうございます」
「いえ、レジェのことは俺に任せて下さい」
「そんなに目を掛けてくれるほど優秀な息子ではありませんが、今後も宜しくお願いします」
深々と頭を下げる父を見つめ、その人じゃなくて、その隣のマクシム王子に、お願いして欲しいと切実に思う。
父上は、「それで王子との話は、もういいのか?」と聞いて来るので、僕は小さく頷いた。カルジーニから魔具は明日には直ると聞いたし、旅行の件はまた今度聞けばいいかなって思う。
一応、当面の目標は達成したので、父上に「家に帰りましょう」と伝え、王宮をあとにした――。
屋敷に帰り、ほっとしたのも束の間、玄関先でロバートが、わなわな震えているのが目に留まり、どうしたのかな? と思っているとガっと自分の目の前に跪き、「な、な、なんてことを!」と泣き崩れる。
――あ、忘れてた……。
そう、王宮でカルジーニに誘拐された時、下服をちょっと汚してしまったことを思い出し、ロバートに謝る。
「ごめんね……ロバート……」
「っ、くぅ……、いいのです……」
思い出の服が汚れたくらいで、そんなに悲しまれると複雑な心境になる。
本体、つまり、僕より、服の方が価値があるみたいで、何だか傷つくけど、価値観なんて人によって違うからいいか、と僕は早々に諦める。
「大丈夫だよ、明日、ロバートが僕の服買ってくれたら、また、それが記念になるでしょう?」
「……レジェ様……」
はらりと涙を流すロバートを見て、色々な意味で大丈夫かなと不安になった。
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