5 / 7
05.よし、旅行に行くか
しおりを挟むそれから数日後の昼下がり、屋敷のテラスでハニーパイを堪能していると豪奢な馬車が凄い勢いでやってくる。
もちろん乗っていたのはカルジーニだった。
玄関先で執事見習いのロバートと一緒に出迎えると、颯爽と現れた彼は、例の魔具を取り出して言う。
「レジェ、魔具が直ったぞ、お前の部屋に行ってもいいか?」
「僕の? いいけど――っ?」
言い終わると同時に、またもや、僕は誘拐される。
だだだっと人の屋敷へ駆け上がり、カルジーニは、僕の部屋へと入ると、ごくりと喉を鳴らし、血走った目で魔具を手の平に乗せる。
――あ、直ってる?
粉々になってしまった魔具が、元通り戻っていることを確認した僕は、やっと十七歳に戻れる! と、うきうきする。
あの時、体験した時と同じように、白、赤、青、緑と順番に色を変えると魔具は最後にピカーと光る。
でも待って欲しい、それは僕が元に戻るために必要なはず……? 何故カルジーニが魔具を使用しているのか分からなくて、「ねぇ?」と声を掛けた瞬間。
「えぇ……? えぇぇえ?」
まばゆい光と共に、カルジーニがどんどん縮んでいく。
「どうだ?」
「どう……ってカルジーニ! 小さくなってる!」
一大事が起きて気が動転している僕に彼は、「しずかにしゅろ」と命令してくる。いきなり小さくなったせいで、ろれつが回らないようだった。
十歳どころか、五歳くらいまで縮んでしまったカルジーニを抱き上げると、中心でプランとアレが揺れる。
それを見て軽い敗北感を覚えたが、ソコだけ大人のままなのかも知れないし……、と近くにあった布を巻きつけ、僕は敗北を無かったことにした。
「っ、ところで、カルジーニ、小さくなっちゃったよ? ど、どうするの?」
「よし、旅行に行くか……」
「何言ってるの!」
「俺が十歳になったら旅行に行くって言っただろ……」
確かに言ったけど、だからって別に子供の姿じゃなくてもいいのに、と言えばカルジーニが怒りだす。
「じゃあ、なんで子供になったらって言ったんだ!」
「あれは、例え話だよ、カルジーニが子供の姿になったら、僕は国王陛下から処罰を受けるかも知れないから、元に戻るまで旅行にいかないとね? って、そういう冗談なの!」
むうっと不貞腐れたカルジーニが、地団駄を踏む。
「騙したのか!」
「……まあ、結果的には……?」
ずんと落ち込むカルジーニを見て、そんなに僕と旅行に行きたかったのかと思うと、ちょっとだけ可愛いなと思ってしまって、慌てて頭を横に振る。
――なに、今の、カルジーニ相手に可愛いって! 絶対にない!
と普段の憎たらしいカルジーニを何とか呼び起こす。
でも、五歳になった彼は普段と違って、ふっくらした頬でぷにぷにだし、目もくりくりして可愛くなってるし、何より、自分より子供になってる時点で庇護欲が湧くし……、と何だか弟が出来た気分になる。
「見た目は可愛いのに、中身がカルジーニって思うと、なんか複雑……」
「はあ? どういう――ッ?」
仁王立ちで怒るカルジーニが突然、元の姿に戻り、中心のアレが僕の目の前でプランと揺れる。
――あぅ……、なんか眩しっ!
千差万別だし、彼のソレが標準ではないことくらい僕にだって分かってる。これは敗北とかではないし、と慌てて両手で目を隠す。
カルジーニは自身の両手を広げ、適切な大きさになったのを見て「え、戻った?」と小首を傾げる。
「う、うん、戻ってるね」
「はあ……、なんでだ……」
ガックリっと肩を落とすカルジーニは、凄く残念そうにしている。けれど、ここで僕が思うことは〝ひとつ〟だけだ。
「ねぇ、カルジーニは直ぐに戻ったのに、どうして僕は戻らないの?」
「知らん」
「えー、そんな……」
へなへなと力を失う僕をカルジーニが見下ろしてくる。しかも真っ裸で、中心のアレを隠しもせず、裸の王子様になった彼は言う。
「そんなことより、旅行だ」
「えー? そんなことより、僕を元に戻してよ……」
「いや、旅行に行って、そこで戻す」
「えー、どうして旅行に拘るの? ここで戻して欲しい」
そう、どうしてそんなに旅行に拘っているのか不思議に思っていると、ぼそぼそとカルジーニは口を動かし、「邪魔がいない所に行きたい」と言う。
理由はよく分からないけど、多分、王子様っていうのは日頃から人に囲まれているから、お忍び旅行に行きたいのかな? と思っているとロバートが部屋に入って来る。
「な、なっ、なんという恰好をレジェ様の前で!」
「あ……、ほら見ろ、邪魔な奴が来た」
そう言って彼は肩を竦めた。
ロバートは慌てて床に散らばっているカルジーニの服をかき集めると、彼に着るように要求した。
「いくら、レジェ様が可愛いからと言って、変態にまで成り下がるとは……、国の行く末が心配になりますね……」
「お前、本当に失礼だな」
ふぅ、と溜息を深く付いたロバートが、僕を抱き上げ目隠しをする。
今さら目隠しをされた所で、全てを見てしまったし……、もう意味はないのだけど、と思いつつ、カルジーニが服を着るのを待っていると、何事もなかったように、豪奢な衣装に着替え終えたカルジーニが……。
「よし、行くか……」
そう言ってカルジーニは両手を広げる。それを見ていたロバートが小首を傾げて言う。
「……その手は何ですか?」
「そいつを渡せって意味だ」
僕を抱きしめるロバートは大きな溜息を吐き出し、「お渡しできません」と丁寧に断りを入れる。
「ふぅん、じゃあ、レジェに決めさせよう」
「え……」
「俺と、そいつ、どっち取るんだ」
急に変なことを言い出すカルジーニを見ていると、魔具をちら見せしてくる。
――ひ、卑怯だ!
それを人質にするなんて、なんて知能犯なんだ。あれを出されたら、僕は従うしかない。
得意気な顔をするカルジーニの顔が、子供の頃の嫌な思い出を彷彿とさせるけど、元に戻るためには仕方ない。
「カルジーニと一緒に行く」
「レジェ様……」
「あのね、ロバート、大人になるためには必要なんだ」
ちょっとだけ、悟りを開いたように僕はロバートに告げる。
実際に必要なのは魔具だけど、カルジーニがどうしても僕を旅行に連れて行きたい見たいなので、ここは譲歩するしかない。
けれど、僕の『大人になる』発言を聞き、ロバートは愕然として涙を浮かべる。
「レジェ様が、いよいよ……大人に……」
「いよいよって言うか、元に戻るだけなんだけど……、皆、忘れてるようだけど、僕は身体だけ子供なだけだから、そこを間違えないで欲しい」
潤んだ瞳をぐいっと拭い去るとロバートは、「分かりました。お供します」と頷く、それを聞いたカルジーニは、「連れて行くわけないだろ!」と吠える。
本当に仲良しだな、と二人のやり取りを眺めているとカルジーニから魔具が落ちる。
それを見ていた僕は、慌てて魔具を落ちる前に受け止めた。
その途端、またもや、白、赤、青、緑と順番に色を変え、魔具が最後にピカーと光る。
「あ……」
そして魔具は粉々に砕け散った――。
97
あなたにおすすめの小説
死に戻り騎士は愛のために願う 〜10回だけの奇跡〜
湯川岳
BL
「一生苦しむがいい。その呪いは俺からのプレゼントだ」
幼い頃に出会った友から呪いを貰ってしまったユーリ。
時は流れ、シューベルト家次男のアルトを追って騎士団に入隊をし、副団長まで上り詰めたユーリ。
毎日アルトの世話をしていく内に心惹かれていく。
「キスしてみろよ。それでオレが嫌じゃなければ……考えてやってもいい」
ユーリはアルトに口付けをする。そして呪いがこの時を待っていたかのように発動してしまった。
意識が乗っ取られ、目を覚ませばそこにあったはずの幸せは鮮やかな赤で染まっていた。
その日を境に始まったのは、暗くて長い道のりだった。
※アルト編、ユーリ編。どちらから先に読まれても大丈夫です。
エンディング異なります。それもお楽しみ頂けたら幸いです。
※最後はハッピーエンド確定。4話までだいぶ暗めの話なので苦手な方はお気をつけ下さい。
※タイトル変えてみました。
旧:死に戻り騎士の願い
表紙素材:ぱくたそ
溺愛王子様の3つの恋物語~第1王子編~
結衣可
BL
生徒会副会長を務めるセオドア・ラインハルトは、冷静沈着で実直な青年。
学園の裏方として生徒会長クリストフを支える彼は、常に「縁の下の力持ち」として立場を確立していた。
そんなセオドアが王城へ同行した折、王国の次期国王と目される 第一王子レオナード・フォン・グランツ に出会う。
堂々たる風格と鋭い眼差し――その中に、一瞬だけ垣間見えた寂しさに、セオドアの胸は強く揺さぶられる。
一方のレオナードは、弟クリストフを支える副会長の聡明さと誠実さに興味を抱く。
「弟を支える柱」として出会ったセオドアに、いつしか彼自身にとっても特別な存在となっていく。
どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる