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03.もぅ、いつも勝手なんだから……
しおりを挟む応接室には、父、母、執事、執事見習い、それから何故か、カルジーニ。
皆が僕を取り囲むように座っている。
母が言う。
「レジェ……、何てことなの、また育てることが出来るなんて、今度こそ完璧な紳士に育てて見せるわ……」
父は言う。
「レジェ……、何と言うことだ、一緒に酒が飲めるまで、また十年かかるのか……」
執事のトムと、執事見習いのロバートは言う。
「レジェ様、お可愛い……」
と、言うわけで、全員、僕のことをちゃんと認識している見たいなので、良かったと思う。
呆れた顔をしているカルジーニは、「お前の家は平和だな」と言うが、確かに、魔具の犠牲者が自分で良かったと思った。
「これ、カルジーニだったら、すっごく大変なことになってたね」
「ああ、まず、母上は倒れるだろうな」
王妃様が倒れる場面を想像して、ひぃっと僕は自分の顔面が引き攣るのを感じる。カルジーニが十歳になってしまったら、まずは王室には連れて戻れないと思った。
絶対に自分は処罰を受けるだろうし、我が家の存続にも関わる。どれだけカルジーニが悪くても僕が罰を受けるのだから、世の中って本当に弱者に厳しい。
「もしカルジーニが十歳になったら、僕はカルジーニを連れて旅に出なきゃ行けなくなってたかも?」と冗談交じりに言うと。
「……それは本当か?」
「え?」
「だから、俺が十歳になったら一緒に旅行に行くのか?」
「うん?」
「分かった、直ぐにこの魔具を直してくる」
直してくれるのは当然だ。うんうん。と思っていると、カルジーニは、「今の約束忘れるなよ」と言い、父と母に向かって華麗に挨拶をした。
「アルカンタ伯爵、夜更けの訪問を許してくれてありがとう。私はこれから、この魔具を直し、レジェと旅行に出掛けようと思う。それでは失礼する」
――あれ……? 魔具を直して……、あれ?
よく分からないけど、魔具を直す所まではあってるし、そうして欲しいけど、その後の展開と言うか、どうして旅行? と僕の頭では理解が追い付かず。
屋敷から出て行こうとするカルジーニを追いかけた。
全力で走ったけど、短すぎる足では全然追い付かなくて、大声で「まって! カルジーニ」と声を出した瞬間、バタンと屋敷の扉が閉まった。
「もぅ……、いつも勝手なんだから……」
「レジェ様、夜も更けていますので、お休みになられた方が……」
「あ、うん、ねぇ、ロバート、さっきカルジーニが言ってたことって」
「ご安心ください、世迷言です」
キリっとした目に、ギリっと下唇を噛むロバートを見て、決して世迷言には思えなかったけど、取りあえず、夜も更けているし、子供は寝る時間だし、と促されるまま就寝することにした。
自分の部屋に戻ると、ロバートが、「保管しておいて正解でした」と微笑みながら、僕が子供の頃に来ていた寝着を持って来る。
「よくそんな物とってあったね?」
「当たり前です。レジェ様の物は全て大切に保管してあります」
「へぇ……」
「初めての、おしゃぶり、初めての、爪切りの爪、初めての、おねしょ」
――え、何……最後の……?
全部おかしいけど、最後のは特におかしい……、それにロバートとは三歳しか違わないのに、どうしてそんな物を持っているの? と謎でしかない。
「ロバート……、どうして……」
「何でしょうか?」
「あ、うん、僕の初めての物を、どうしてそんなに持っているの?」
「神様からの贈り物です」
――答えが絶妙過ぎて、聞き返し難い……。
まあ、いいか。どうせ適当な物を拾って、ロバートが勝手にそうだと思い込んでいるに違いないし、と僕はロバートの収集癖を無かったことにした。
ベッドに寝かされて、ぽんぽんと胸の辺りを優しく叩かれて、そのまま僕のおでこに唇をあてて「おやすみなさい」と彼が言う。
「あのね、僕は身体が縮んだだけで、心も頭も十七歳だからね?」
「そうでしたね、うっかりしてました」
「うん、じゃあ、おやしゅみ……」
つい、噛んでしまったが、それを聞いたロバートは、キラっと瞳を輝かせ「ごちそうさまです」と意味不明なことを言って部屋を出て行った。
翌日――。
起きてから自分が縮んでいることを忘れ、ベッドから落っこちる。
「痛いー!」
ゴンと頭を打ち付けた僕を助けに来たロバートに、抱っこされ、額をふーふーされる。
十歳で生きるって結構大変なんだと知るが、いや、考えて見れば、十七歳という年齢に見合った部屋の作りなのだから、全てが十歳には向いていないのだ。
ロバートが持って来た昔の子供服に袖を通していると、「レジェ様、本日はお買い物に行きましょう」と言われる。
「買い物……?」
「はい、服のデザインが少々古臭いですし、それは私のお宝ですので、汚れると困ります」
「そうなの? でも、汚れたら洗えばいいのに……」
「っ、いいえ! そんなことは出来ません、その服は、初めてレジェ様が私と出会った時の記念の服ですので!」
ロバートの収集魂に火が付いてしまったようで、初めて出会った日のことを永遠と語られてしまう。
初めて会った日に会話したした内容を一語一句間違えることなく語られ、このままでは朝食を食べる時間がなくなりそうだと思い、「お腹が空いた」と訴えた。
「それはいけません、早く朝食を頂きましょう」
「うん、そうしよう」
何とか昔話しを終わらせることが出来たと安堵して、ダイニングルームへ向かうと、既に父も母も朝食を取っていた。
母上から、「子供はこんな早起きしなくてもいいのよ」と言われて、まるっきり十歳の子供扱いをされていると、父上に久しぶりに抱っこされる。
「さあ、口を開けなさい」
「う、うん……」
ぱかっと口を開けて、父上から食べ物を放り込まれてから思う。
皆、勘違いをしているけど、体が十歳になったからと言って、脳内は十七歳なわけで、こんな扱いを受けるのは心外だし、納得がいかないのだけど? と口に放り込まれた食べ物を咀嚼する。
まあ、それもカルジーニが魔具を直すまでの間かな、と考えていると、昨日の彼の言っていた『旅行』の言葉を思い出した。
――そうだった、何のことか聞き出さないと……。
昨日の奇妙な発言の確認がしたい僕は、「今日は王宮に行きたいです」と父上に訴えて見る。
ふむ、と父から深い溜息が吐き出されると、魔具のことを知りたいのかと聞かれて頷き、自分の思いを告げた。
「はっきり言ってカルジーニ王子に、このまま任せて置けません」
「気持ちは分かるが、私達としても、これは新たな試練だと思っている」
急に真顔になった父から修行僧のような発言をされて、「試練?」と僕は聞き直した。
「お前を育て直すという機会を、神は我々に与えたのだろう」
神妙な面持ちで、そんなことを言う父を見て、いや、父上はそんな信仰深い人じゃないでしょうが、と突っ込みたくなる。
しかも育て直すって何? 失敗作見たいな言い方してるけど、出来上がった人格はもう取り返しが付かないんだからね、と恨めし気に父を見上げる。
けれど、もし、魔具が直らず、また十歳からやり直すことになるなら、背が伸びる運動とか、癖毛が直る努力をして見ようかなって密かに思う。
あと、第一王子のマクシムの側で働けるように、今から根回しとかしておきたいな、と更なる邪念を胸に抱き、はっとする。
「ロバート!」
「はい、レジェ様!」
「マクシム王子の側で働くにはどうすればいい?」
「……そんな必要はございません」
爽やかな笑顔には似合わない、冷たい口調で却下される。
「私がいれば、レジェ様を路頭に迷わすことなどありません。今から貯蓄をしておりますので、老後の心配には及びません」
そう言って僕の提案を、ばっさりと切り捨てた。
そもそも、執事見習いのロバートに相談しても仕方ないことに気が付き、王宮の誰かと繋がりを持った方が早いことに気が付く。
ああ、もちろん、カルジーニ以外で! これは絶対だ、と志を立てる。
「とにかく、父上、僕を王宮に連れて行って下さい!」
うるっと瞳を潤ませて父を説得し、なんとか王宮へ向かうことにした――。
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