雪を溶かすように

春野ひつじ

文字の大きさ
183 / 183
番外編

キケナの花 5 side悠

しおりを挟む
 さっきまでの騒がしさが嘘のように、シーンと静かになる。俺はすぐに薫に頭を下げる。

「薫、ごめん! 勘違いしてた!」

 薫は怒るかと思ったら、俺の予想に反してふふっと笑う。

「いいよ。僕の旦那さんの嫉妬するところが見えたから」

 それよりも、と言って俺を部屋の外に連れて行く。

「目を瞑っててね」

 そう言われて、手を繋ぎながら薫の部屋に入る。ふわりと甘い香りが漂ってくる。

「いいよ」

 可愛らしい声に目を開けると、部屋の中は花びらでいっぱいだった。

「ハッピーバースデー、悠。いつもありがとう」

 照れ臭そうに俺を見つつ、にっこりと笑う。可愛すぎる。

 ぐるりと部屋を見渡すと、部屋中に色とりどりの花が飾ってある。

「この花は少し捺ちゃんに分けてもらったんだ」

 ああ、なるほど。捺は植物を育てるのが好きで、大きな庭にたくさんの花を植えている。

「そのために捺と話していたのか」

「うん。それと、悠の妹さんに会ってみたいなっていうのもあって」

 月の光に照らされている薫に見惚れていると、薫は、あっ、と声をあげる。

「見て、悠! 花が咲いてる!」

 薫の指差す方向をみると、二人で楽しみに待っていた、以前新と一緒に行った店で買った花が咲いている。

「ええっ!?」

 その花を見て俺は驚く。この花ってもしかして……。

「ちょっとここで待っててくれないか?」

「うん」

 不思議そうに頷く薫。俺は急いで自室に戻り、ある二つのものを持って薫の部屋に行く。

「これ!」

 俺が持ってきた二つのもののうちの一つを見せると、薫が目を丸くする。

「おんなじ花……」

「セヒナの花を取りに行った時に、その山を歩いていたら偶然見つけたんだ」

「緑色の花って珍しいね」

「実はな……、俺と薫の瞳の色と一緒だなと思って持って帰ってきたんだ」

 自分で言ってて照れ臭い。顔が熱を持っているのを感じる。

 すると、薫は俺の方に走ってきて、俺に抱きついてきた。

「僕も同じこと考えてた!」

 きらきらした瞳で、笑いながら興奮したように言う薫。ぎゅっと抱きしめて、俺もプレゼントがあるんだ、と言う。

「えっ、僕誕生日じゃないのにプレゼントがあるの?」

 驚いている顔。

「ああ。あの花が咲いたら渡そうと思ってたんだ」

 なるほど、前に言ってたのはそのことなんだね、と納得した様子。

「あの時はバタバタしていて渡せなかったけど、お揃いのものを身につけておきたくて……」

 俺がポケットから取り出したのは、結婚指輪。緑色のターコイズの石が埋め込まれている。

「うわぁ……」

 薫の手を取り、細い指に通す。薫はありがとう、と小さく呟き、手を胸の方に持っていき、ぎゅっとする。よかった、気に入ってもらえたようだ。

 俺は自分の指にも通す。薫とお揃い。それだけで何倍も輝いて見える。

 薫がこちらを見つめて、へにゃりと笑う。

 窓から夜空を見上げると、春の夜らしい、優しい月の光が降り注いでいる。これからもずっと二人で時を重ねていきたい。そんな思いを胸に抱きつつ、愛しい人を抱きしめた。



             キケナの花・完
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

ひじき
2021.09.17 ひじき

面白い!ぜひマイクロ=コール=オンライン読んでみてください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

2021.09.17 春野ひつじ

感想をありがとうございます(*^^*)
紹介していただいた作品、読んでみます!

解除
2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.19 春野ひつじ

お気に入り登録、ありがとうございます(*^^*)
応援していただき、大変励みになります!
やっと完結まで書き終えたので、毎日更新する予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

解除
花雨
2021.08.09 花雨

お気に入り登録しました(^^)

2021.08.10 春野ひつじ

お気に入り登録していただき、本当にありがとうございます(*^^*)
とても嬉しいです!
これからもこまめに更新しますので、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。