捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

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12 暗い未来(義兄視点)

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 本当に俺はバカだった。金の生る木だった、マリーを捨てて、それで良いことをした気になっていた。
 実際はマリーが出ていったその日から、徐々にペルヴィス家の財政は傾き、果てには爵位まで没収されるまでになってしまった。
 部屋に引きこもってばかりいる地味なだけの義妹と思っていたが、ペルヴィス家への貢献度合いでいえば、俺たち以上だったってわけだ。

 何のとりえもないと思っていたから、探せばすぐに見つかると思っていたが、それも無理なことがすぐにわかった。
 旅商人や冒険者から集めた情報は膨大で、茶髪あるいは茶目の女薬師など、この国のみならず他国でも石を投げれば当たるほど。
 お父様の言うように、集まった全ての場所に人をやれば残り少ないペルヴィス家の全財産をなげうっても足りないほどで、かといってマリーと断定できるほどの確定的な情報も集まらない惨状だ。

「まったく、本当に貴方が領主をやっていた時期があるのですか? 領政など何一つわかっていないではないですか」

 追い出した義妹のことを考えてしまうのは、王宮からやってきた執政官に俺が詰められているのも関係しているかもしれない。
 俺自身は、うまく領を回している気になっていたが、実際はマリーにおんぶにだっこで、何もできていなかったし、何も知らなかったことを突きつけられているのだ。

「じ……実務は義妹が行っていたもので」

「ええ、マリー・ド・ペルヴィス。ペルヴィス家の唯一の跡取りですよね。現在は魔法契約が解消されて平民になっているとか。アラン殿も商売のことはわかるのに、貴族のことはわからないとみえる」

 執政官の居丈高な態度にカチンとくる。確かに俺は領政のことなど知らぬが、マリーが唯一の跡取り?
 ふざけるな! お父様から領主の座を譲られたのは俺だぞ!?

「お言葉ですが、跡取りに指名されたのは俺ですよ?」

「はあ、貴族のルールも理解していないとは。貴族はね、貴族の屋敷で生まれないと名乗れないんですよ」

「……は?」

「母親が貴族なら医師の立ち合いと出産証明で認められますが、現・ペルヴィス夫人はもともと平民。ゆえに外で生まれた貴方も貴方の妹も貴族ではないのですよ。現時点でのペルヴィス家で貴族はアラン殿だけです」

 は? いや、ちょっと待ってくれ。だって、俺は領主に任命されたじゃないか!

「だって、俺は領主に……」

「それはアラン殿が勝手に行ったことです。本来は領主権限の委譲は陛下の裁可が下りてからですが、書類を送った時点で独断で権限を委譲したようですね」

「なっ!?」

「まったく、どこの馬の骨かもわからない人間を養子にすること自体問題なのに、領主に据えるなんて」

「ま、待て! 養子でも貴族になれるだろっ!?」

 そうだ、養子から貴族になり、領主になっている事例もあるはずだ!

「ええ、可能ですよ。実績の能力があり、当主と貴族管理課の大臣、それに陛下が認めればね。貴方はペルヴィス家の当主であるアラン殿が認めているだけです」

「う……嘘だ」

「はあ、そもそも領政すらわかっていないのに、領主になってどうするというのですか。領主というのは領民を導くものなのですよ。そんな事では、これから苦労するでしょうね」

「……苦労?」

「だって、数年後にはペルヴィス家は平民になるのですよ? 領政もわからない貴方では文官にもなれないでしょうし、そんな貧弱な体では兵士も無理……将来どうするかくらい考えておいた方が良いですよ?」

「将来……」

「時間はあるように見えますが、一から何かを学ぶには短いものです。特に貴方のように成人した男性はね」

 何も考えていなかった。確かにペルヴィス家が貴族でなくなるなら、今までのように働かずに遊んでいるわけにもいかないだろう。
 ただ、俺に何ができるのか、金が稼げるのか、なんて考えたことがなかった。

「ああ。そういえば、貴方にもできる仕事はありましたよ」

「……本当かっ!?」

「ええ、男娼です。美人顔で華奢な体つき、きっと貴族受けが良いですよ? 男女どちらでもね?」

「はっ!? 俺は男だぞ!?」

「暇を持て余した貴族には関係ありませんよ。噂によると、好事家たちの間では金で買った男娼に鞭を入れたり、お気に入りの小間使いに犯させるのが流行っているとか……貴方もそうならなければいいですね?」

 じょ、冗談じゃない! 鞭だって!? それに小間使いに犯させるって、俺は男だぞ!?
 お父様に助けを……本当に助けになるか? 実の娘を儲かるからって、屋敷に軟禁してポーションづくりばかりさせていた男だぞ?
 俺が金になるとわかったら、簡単に娼館に売るか、貴族に貸し出すかもしれない。

 クソっ! そんな未来を避けるためにも、何か……そう、何かをしなければ!
 だが、これまで楽ばかりして他人に責任を押し付けてきた俺にとって一から何かを学ぶというのは難しく、タイムリミットが迫るばかりだった。

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