捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

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「おいっ! 横入りするなっ! ちゃんと並べよ!」

「うるさい! こっちはダンジョンに行くのに時間がないんだよっ! 下級冒険者はひっこんでろ!」

「はいはい! 店を開けますから、静かにしてくださいね。あと、そこの初見さん。うちの店では例えA級冒険者でも列に並べない人はお断りですから、一番後ろに並ぶか、それが嫌なら帰ってくださいね」

「そういうわけだ。後ろに並び直しな」

「クソッ!」

 ロイクに連れられてラット帝国にまで来た私だったけど、無事に薬屋を開業して、今では冒険者相手にポーションを販売して生活している。
 私の薬屋のモットーは平等。下級冒険者であろうと、上級冒険者であろうと、貴族であろうと、平民であろうと、きちんと並んでお金を払えばポーションを買えるというもの。

 はじめのうちは文句を言ったり、ずるをしようとする人もいたけど、ラット帝国でも数少ないA級冒険者であるロイクが後ろ盾になっていることを知ると皆が従った。
 現にさっきまで横入りしようとしていた人も、周りからそのことを指摘されたのか青ざめた顔で素直に並んでいる。

「はい、本日は初級ポーションと中級ポーション、それに解毒薬と抗麻痺軟膏を販売しますよ~」

「マリーちゃん、上級ポーションは売ってくれないのか~?」

「上級ポーションを買いたかったら、自分で素材を採ってきてくださいね」

 この辺もいつものやり取り。最初は中級ポーションだけを販売していたのだけど、ロイクがシカール領の特産品は冒険者と言っていただけあって、初級ポーションの販売を求める声が多かった。
 なので、低級ポーション用の素材から初級ポーションを、初級ポーション用の素材から中級ポーションを作成して販売、それに併せてダンジョンから多く採れた素材でポーション以外の薬も販売している。
 もちろん、上級ポーションを求める声もあるけれど、いまだに上級ポーション用の素材からしか上級ポーションを作れないので、上級ポーションが欲しい人は自分で素材を持ってくること、としている。

「いや~、助かるよ。新規層に毒持ちの魔獣が増えているって報告があったからさぁ」

「そうそう。それに、そこに行くまでに麻痺毒を持った毒草地帯があるからな」

「ふふ。解毒薬と抗麻痺軟膏の素材を提供してくれたのはロイクなんです。ギルドで毒や麻痺にやられた冒険者が多く出ているからって」

「やっぱりロイクの旦那か」

「さっすがA級冒険者! 横入りするような自称上級とは一味も二味も違うぜっ!」

 ああ、もう。さっき横入りされそうになったことに、まだ怒っているのね。とはいえ、私もズルをする人は嫌いだから、あえて止めはしないけど。
 一番後ろに並び直したさっきの人は、他の人の言葉に身を縮こませているけれど、それでもポーションが欲しいのか列から離れることはなかった。

「さて、最後はあなたですね」

 あれから新しいお客さんは増えなかったから、横入りしようとしていた上級冒険者の人が最後のお客だった。
 お店の中には買い物を済ませた常連さんたちが残っていて、最後のお客さんが暴れないかを注視している。
 ま、最初にズルをしようとしてのは、この人だから仕方ないことだけど、それもあって最初と全く印象が違う様子になっている。

「……中級ポーションをもらいたい」

「はい、何本ですか? 今日の在庫はあと四本ですけど」

「なっ!? 四本しかないのかっ!?」

「はい。私一人で経営している薬屋ですので、申し訳ありませんが在庫は多くないのです」

 あからさまにガッカリしている様子だけど、私一人で作れる量には限りがあるし、ない袖は振れない。
 暴れる様子のないことから、私も常連さんも気が緩んだ瞬間に、男は一瞬にして私に詰め寄ってきた。

「そうだ! あんたが俺たちのパーティーの専属になればいい! こんな寂れた薬屋で働くよりも何倍も稼げるぞ!」

「おいっ! 俺の大切なマリーになんてこと言いやがる!」

 あっ、と思った瞬間、疾風のように店内に入ってきたロイクが男の首根っこを掴んで店の外に放り出す。
 私の大切なお店を寂れた、なんて評した男に同情する気はないけれど、さすがにやりすぎじゃない?
 と思っていたけど、周りにいた冒険者も同じように店外に放り出された男に詰め寄って、文句を言っているから大丈夫……なのかな?

「マリー、何かあったら俺を呼べと言ってあるだろう?」

「クレームの一つや二つでA級冒険者の手は借りれないでしょう? それくらいなら私で対処するわよ」

「だが、現に引き抜かれそうになっていただろ」

「貴方が来なければ、私の方できちんとお断りしていたわよ」

「それでも、お前が心配なんだ。些細なことでも言ってほしい……お前を守りたいんだ」

 誠実すぎるロイクの言葉に顔が赤くなっていくのが自覚できる……本当に、この男は私の心を揺さぶるのが得意なんだから。

「ヒューヒュー、お二人さん。式はいつだい?」

「そうそう。ロイクの旦那もマリーちゃんも気持ちは通じてるんだから、とっととくっつきゃいいのに」

「~~~。うるさいっ! ほら、あなたたちはとっとと、その人を詰め所に連れていきなさい! 営業妨害をしたんだからねっ!」

「マリー、俺はいつまでも返事を待っているからな」

「~~~。……もう少し、もう少しだけ考えさせて」

 私はロイクに対して、そう言ったけれど、自分でもわかっている。近いうちにロイクの言葉に堕ちてしまうことを。
 ロイクと家族になるかもしれないと思うようになってから、私はペルヴィス家のことを思い出すことが増えた。
 私を捨てた家族のことを。ねえ、貴方たちは幸せに暮らしていますか? それとも苦労しているのかしら? まあ、私には関係ないことね。
 私が言えるのは捨ててくれてありがとう。捨てられた私は、遠いこの地で幸せになるということだけよ。
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