捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

文字の大きさ
20 / 21

20 ルグラン領のその後(マルク視点)

しおりを挟む
「どうして、こんな簡単な作業もできないのですか? マリーなら鼻歌まじりに終えていた作業ですよ」

 父上から領主権限を取り上げられた俺は、薬草学校に雑用として雇い入れられた。
 だが、そこで待っていたのは薬草の選定や素材の下処理、それに書類の仕訳といった地味な仕事ばかり。
 しかも、なにをやっても褒められることはなく、少しでも手を抜くと俺が捕まえそこなったマリーとかいう女と比較される毎日。

「くそっ! これでどうだ!?」

「はあ~、そんな雑に扱わないでください。ポーションの素材はあなたが思っているよりも貴重で、手がかかっているのですよ」

 くそ、こいつはいちいち文句を言わないと死ぬ病気にでもかかってるのか?

「では、こちらでポーションを作ってください。どうもあなたはポーションの価値がわかっていないようですからね」

「はあっ!? なんで俺が!?」

「これもモーリス様からの指示ですよ。ポーションを自分が成り上がるための道具としか考えてない、その価値観を叩き割れとのね」

 くそっ! 父上は一体何をさせようというんだ! 俺だって、薬草学校に通っていた時期はあるんだぞ! 初級ポーションくらい作れるに決まっているだろ!
 とはいえ、だいぶ昔のことだから、思い出しながら自分で選定した素材を刻み、火にかけていく。

「はっ、どうだ!」

「……これは? マルクさん、あなた本当に薬草学校を卒業しているのですか?」

「なっ!? どういう意味だっ!」

「どういうもこういうも、これは低級ポーションではないですか。初級ポーションの素材を使って、低級ポーションしか作れない人を卒業させるわけがないでしょう」

「は?」

「ですから、薬草学校の卒業条件は初級ポーション用の素材から、きちんと初級ポーションを作り出すことだと言っているんですよ」

 こいつの言っている意味が分からない。初級ポーション用の素材を使ったんだ。ポーションになったなら、それは初級ポーションだろう?

「難癖をつけるのは止めろ! きちんとポーションになっているだろう!」

「そこからですか。確かにポーションにはなっています。しかしポーションは素材ではなく、効能によって等級がわかれるのですよ……って、こんなの初歩中の初歩ですよ?」

「だ、だから! これが初級ポーションだろ!」

「残念ですが鑑定魔法でも低級と出ていますよ。……まったく、マリーなら同じ素材で中級ポーションを作りますよ」

「はあっ!? 初級ポーション用の素材だろっ!? 中級ポーションが作れるはずがないっ!」

「本当に薬草学校で何を学んでいたのですか? マリーだけでなく、私もモーリス様も同じように初級素材から中級ポーションは作りますよ」

 嘘だろ? 確かに薬草学校からは中級ポーションが多く販売されていたが、それは中級用の素材を育てているからじゃないのか?

「なら! なんでもっと中級ポーションを増やさなかったんだっ! 中央から求められていたんだぞ!」

「本当に……いえ、あなたの在学中に担当していた教員を調べることにしましょう。質問の答えですが、初級ポーション用の素材から中級ポーションを作るのには魔力が必要だからですよ」

「……魔力?」

「ええ、素材に魔力を通して効力を引き上げる。文字にすると簡単ですが、熟練の薬師でも難しい技です。そうそう本数を作れるわけがないでしょう?」

「……」

 こいつの言っていることが本当だとすれば、マリーとかいう女は……あの上級ポーションを作った女は父上並みの腕前だというのか?
 そんなバカな! だとしたら、やはり是が非でも監禁してポーションを作らせるべきだった!
 なぜ父上はそんな逸材をみすみす逃がすような真似をしたのか!

「バカな考えが透けて見えますよ。言っておきますが、薬師を監禁してもポーションを無理やり作らせるなんてできませんよ。だって、私たちは意志を持った人間なのですから」

「は?」

「あなたもわかったでしょうが、ポーションの作成は手順も複雑で素人では正規の手順かどうかも確認は不可能。だったら、手抜きも異物の混入も容易だとは思いませんか?」

「ぐっ!」

 確かに俺の考えが浅はかだったのはわかる。だが、そんなもの暴力で脅せば……。

「ほーら、また浅い考えが透けて見えますよ。暴力で脅せば簡単に言うことを聞くと思っているでしょう? 薬師なんですよ。ポーション用の素材があれば毒薬だって簡単に作れるんですよ。それも皮膚にかかっただけで体調不良にするレベルのね」

「はっ!?」

「ま、あなたへの罰はそういうことを理解することです。これからもじっくりと薬師について教えて差し上げますよ。あなたが音を上げても終わらない学習地獄です」

 こうして俺は昼は薬草学校の雑用として、放課後から夜にかけては自分がいかに物を知らなかったか、考えなしだったかをじっくりと教え込まれることになった。
 なんでだ? 俺には領主として輝かしい未来が待っていたのではなかったのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

何度時間を戻しても婚約破棄を言い渡す婚約者の愛を諦めて最後に時間を戻したら、何故か溺愛されました

海咲雪
恋愛
「ロイド様、今回も愛しては下さらないのですね」 「聖女」と呼ばれている私の妹リアーナ・フィオールの能力は、「モノの時間を戻せる」というもの。 姉の私ティアナ・フィオールには、何の能力もない・・・そう皆に思われている。 しかし、実際は違う。 私の能力は、「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」。 つまり、過去にのみタイムリープ出来るのだ。 その能力を振り絞って、最後に10年前に戻った。 今度は婚約者の愛を求めずに、自分自身の幸せを掴むために。 「ティアナ、何度も言うが私は君の妹には興味がない。私が興味があるのは、君だけだ」 「ティアナ、いつまでも愛しているよ」 「君は私の秘密など知らなくていい」 何故、急に私を愛するのですか? 【登場人物】 ティアナ・フィオール・・・フィオール公爵家の長女。リアーナの姉。「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」能力を持つが六回目のタイムリープで全ての力を使い切る。 ロイド・エルホルム・・・ヴィルナード国の第一王子。能力は「---------------」。 リアーナ・フィオール・・・フィオール公爵家の次女。ティアナの妹。「モノの時間を戻せる」能力を持つが力が弱く、数時間程しか戻せない。 ヴィーク・アルレイド・・・アルレイド公爵家の長男。ティアナに自身の能力を明かす。しかし、実の能力は・・・?

嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。 色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。 それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。 王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。 しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。 ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

処理中です...