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10 元勇者の襲来
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「あ~~、もう!」
ウィルに慰められたあの日から、あたしの心の中には嵐が吹き荒れている。
少しでも手を止めてしまうと、ウィルのことを考えて嬉しいやら恥ずかしいやら、よくわからない気持ちが襲ってくるから、ずっと薬を作り続けていて。
そのおかげで、研究していた薬はだいぶ完成に近づいたけど、こんな状態で研究を続けるのが身体的にも精神的にもまずいということはわかる。
「やっと見つけたよ、サラ」
自分の生活について見つめなおしていると、扉が突然開いて男から声をかけられた……誰?
「えーと、どちら様ですか?」
「ふざけるのは良くないよ。僕だ、ジョーだよ」
ジョー……ジョー…………あっ! 勇者……もとい、元勇者か。別れてから半年近く経っているし、存在すら忘れていたわ。あ~、よくよく見れば、隣には魔女もいるじゃん。
「あ~、お久しぶり?」
「まさかサラが、こんな辺境にいるなんてね。探すのに苦労したよ」
「探してたの?」
あたしを追放したのは、そっちなのに? という気持ちを込めて言ってみたけど、元勇者には何も響かなかったらしい。
「もちろんさ。僕から離れることがショックだったんだろう? だから、こんな遠くまで」
「は?」
離れることがショック? あり得ないでしょ。自分のことを追放した人間に対して、そんな強い感情なんて抱くわけないでしょ。
あたしがあの時に思ったのは、やらかしてくれたな! って気持ちだけよ。
「だが、安心してほしい。こうして迎えに来てあげたからね。もう一度、僕らと一緒に魔王を討伐に行こうじゃないか」
「いや、行かないけど」
「意地を張らなくてもいいんだよ。確かに、あの時はサラよりも聖女を優先してしまったけれど、すぐに気づいたんだ。僕らにはサラが必要だってね」
元勇者の頭の中では自分勝手なストーリーが出来ているのか、こちらの心情を勝手に脚色して話を進めてくる……誰が意地を張ってるってのよ。
「訳のわからないことを言うわね。……で、そっちでだんまりの魔女さんも同じ意見なわけ? パーティーから追い出すときには散々な言いようだったけれど?」
「っ! ……そうよ。私たちには貴女が必要なの」
「ふーん。ま、それでも答えは変わらないけれど。お断りよ」
「……サラ」
「そっちの中では勝手にストーリーが出来てるみたいだけど、パーティーから追放したのはあんたたち。で、あたしはそれに納得して出ていった」
「だが、離れる際には名残惜しそうだったじゃないか!」
「そりゃ、二年近く一緒にいたのに、そっちの勝手で追い出されたんだから、恨み言の一つや二つはあるでしょ? でも、それを引き合いに出されて名残惜しそうだったなんて、勝手な解釈をされちゃ困るわ」
「「……」」
「そもそも、あたしがあんたのパーティーに入ったのだって、あんたの母親から頼まれたから。あんた自身に何かがあってついて行ったわけじゃない。だから、追放されたってショックなんか受けない」
これだけは間違えちゃいけない。あたしは幼馴染のジョーにも、勇者にも人間的に惹かれたわけではない。
幼馴染として、薬草師として、ジョーの母親から旅に出る息子の助けになってくれ、と頼まれたにすぎないのよ。
「母さんがっ!?」
「勇者に認定されて、旅に出ることになった。でも、あんたは回復役すらまともに連れずに旅に出ようとしてる……親が心配しないとでも思ったわけ?」
「だったら……だったら、なおのこと、もう一度パーティーに参加すべきだろう!」
「愛想が尽きたって言ってるのよ。それに、あたしよりも優秀な回復役を探せるようになったんでしょ? だったら、あたしの役割は終わりよ」
あたしがパーティーに参加していたのは、あくまでも回復役がいなかったから。幼馴染の情もあったからパーティーに参加していたけれど、自分たちで回復役が探せるなら、お役御免だ。
「うるさいっ! いいから僕たちの役に立てばいいんだよっ!」
あたしの言い分にキレたのか、元勇者が声を荒げて迫ってきた。
「そこまでだ!」
元勇者が、あたしの腕に掴みかかろうとした瞬間、ウィルが元勇者の肩を掴んで止めに入った。
「な、なんだ、お前は!」
「ここの領主だよ、元勇者様」
「無礼なっ! 僕は勇者だぞっ!」
え? もしかして、この人、自分が勇者を解任されていることを知らないの?
「無礼って言われてもな、国王から頼まれてるんだよ。前線から逃げ出した元勇者を発見した場合には、捕まえて王宮に連れてくるようにってな」
「はっ!?」
「というわけだ。お前ら、拘束しろっ! 二人とも魔法を使うから、魔封じの腕輪を忘れるなよっ!」
ウィルが宣言すると、扉から次々と兵士が入ってきて、あっという間に元勇者と魔女を拘束してしまう。
魔女はもちろん、元勇者も教会から認定されたときに魔法の素養が認められていた……ま、パーティーに参加していた時は、剣技ばかり磨いていて、まともに魔法を使うところを見たことないけど。
「怖い思いをさせたな、サラ」
「ウィル……別に、あたしだって冒険をしていたんだから、大丈夫だったわよ」
「そうか? そうだな、サラは心が強いからな。だが、辺境の領主としては辺境で起きた事件に巻き込んだことは謝罪させてほしい。すまなかった」
そう言って、ウィルは頭を下げる。元勇者や魔女が何をしてきても、自作の薬が大量にある薬屋で負けることはなかったと思うけど、それでもウィルの気遣いが嬉しい。
「サラ! 僕を助けてくれっ!」
「そうよ! 仲間でしょ!」
「あたしを追放したのは、あんたたちでしょ? 都合が悪くなった時だけ助けてくれって言われても、もう遅いわよ」
「そうだな。というか、恥ずかしくないのか? 自分たちから捨てたくせに、いざとなったら助けろなんて」
元勇者と魔女はあたしに助けを求めてくるけれど、あたしとウィルは冷静な声で反論する。
まったく、自分から捨てたくせに、いまさらになって助けてほしいだなんて遅いのよ。
ウィルに慰められたあの日から、あたしの心の中には嵐が吹き荒れている。
少しでも手を止めてしまうと、ウィルのことを考えて嬉しいやら恥ずかしいやら、よくわからない気持ちが襲ってくるから、ずっと薬を作り続けていて。
そのおかげで、研究していた薬はだいぶ完成に近づいたけど、こんな状態で研究を続けるのが身体的にも精神的にもまずいということはわかる。
「やっと見つけたよ、サラ」
自分の生活について見つめなおしていると、扉が突然開いて男から声をかけられた……誰?
「えーと、どちら様ですか?」
「ふざけるのは良くないよ。僕だ、ジョーだよ」
ジョー……ジョー…………あっ! 勇者……もとい、元勇者か。別れてから半年近く経っているし、存在すら忘れていたわ。あ~、よくよく見れば、隣には魔女もいるじゃん。
「あ~、お久しぶり?」
「まさかサラが、こんな辺境にいるなんてね。探すのに苦労したよ」
「探してたの?」
あたしを追放したのは、そっちなのに? という気持ちを込めて言ってみたけど、元勇者には何も響かなかったらしい。
「もちろんさ。僕から離れることがショックだったんだろう? だから、こんな遠くまで」
「は?」
離れることがショック? あり得ないでしょ。自分のことを追放した人間に対して、そんな強い感情なんて抱くわけないでしょ。
あたしがあの時に思ったのは、やらかしてくれたな! って気持ちだけよ。
「だが、安心してほしい。こうして迎えに来てあげたからね。もう一度、僕らと一緒に魔王を討伐に行こうじゃないか」
「いや、行かないけど」
「意地を張らなくてもいいんだよ。確かに、あの時はサラよりも聖女を優先してしまったけれど、すぐに気づいたんだ。僕らにはサラが必要だってね」
元勇者の頭の中では自分勝手なストーリーが出来ているのか、こちらの心情を勝手に脚色して話を進めてくる……誰が意地を張ってるってのよ。
「訳のわからないことを言うわね。……で、そっちでだんまりの魔女さんも同じ意見なわけ? パーティーから追い出すときには散々な言いようだったけれど?」
「っ! ……そうよ。私たちには貴女が必要なの」
「ふーん。ま、それでも答えは変わらないけれど。お断りよ」
「……サラ」
「そっちの中では勝手にストーリーが出来てるみたいだけど、パーティーから追放したのはあんたたち。で、あたしはそれに納得して出ていった」
「だが、離れる際には名残惜しそうだったじゃないか!」
「そりゃ、二年近く一緒にいたのに、そっちの勝手で追い出されたんだから、恨み言の一つや二つはあるでしょ? でも、それを引き合いに出されて名残惜しそうだったなんて、勝手な解釈をされちゃ困るわ」
「「……」」
「そもそも、あたしがあんたのパーティーに入ったのだって、あんたの母親から頼まれたから。あんた自身に何かがあってついて行ったわけじゃない。だから、追放されたってショックなんか受けない」
これだけは間違えちゃいけない。あたしは幼馴染のジョーにも、勇者にも人間的に惹かれたわけではない。
幼馴染として、薬草師として、ジョーの母親から旅に出る息子の助けになってくれ、と頼まれたにすぎないのよ。
「母さんがっ!?」
「勇者に認定されて、旅に出ることになった。でも、あんたは回復役すらまともに連れずに旅に出ようとしてる……親が心配しないとでも思ったわけ?」
「だったら……だったら、なおのこと、もう一度パーティーに参加すべきだろう!」
「愛想が尽きたって言ってるのよ。それに、あたしよりも優秀な回復役を探せるようになったんでしょ? だったら、あたしの役割は終わりよ」
あたしがパーティーに参加していたのは、あくまでも回復役がいなかったから。幼馴染の情もあったからパーティーに参加していたけれど、自分たちで回復役が探せるなら、お役御免だ。
「うるさいっ! いいから僕たちの役に立てばいいんだよっ!」
あたしの言い分にキレたのか、元勇者が声を荒げて迫ってきた。
「そこまでだ!」
元勇者が、あたしの腕に掴みかかろうとした瞬間、ウィルが元勇者の肩を掴んで止めに入った。
「な、なんだ、お前は!」
「ここの領主だよ、元勇者様」
「無礼なっ! 僕は勇者だぞっ!」
え? もしかして、この人、自分が勇者を解任されていることを知らないの?
「無礼って言われてもな、国王から頼まれてるんだよ。前線から逃げ出した元勇者を発見した場合には、捕まえて王宮に連れてくるようにってな」
「はっ!?」
「というわけだ。お前ら、拘束しろっ! 二人とも魔法を使うから、魔封じの腕輪を忘れるなよっ!」
ウィルが宣言すると、扉から次々と兵士が入ってきて、あっという間に元勇者と魔女を拘束してしまう。
魔女はもちろん、元勇者も教会から認定されたときに魔法の素養が認められていた……ま、パーティーに参加していた時は、剣技ばかり磨いていて、まともに魔法を使うところを見たことないけど。
「怖い思いをさせたな、サラ」
「ウィル……別に、あたしだって冒険をしていたんだから、大丈夫だったわよ」
「そうか? そうだな、サラは心が強いからな。だが、辺境の領主としては辺境で起きた事件に巻き込んだことは謝罪させてほしい。すまなかった」
そう言って、ウィルは頭を下げる。元勇者や魔女が何をしてきても、自作の薬が大量にある薬屋で負けることはなかったと思うけど、それでもウィルの気遣いが嬉しい。
「サラ! 僕を助けてくれっ!」
「そうよ! 仲間でしょ!」
「あたしを追放したのは、あんたたちでしょ? 都合が悪くなった時だけ助けてくれって言われても、もう遅いわよ」
「そうだな。というか、恥ずかしくないのか? 自分たちから捨てたくせに、いざとなったら助けろなんて」
元勇者と魔女はあたしに助けを求めてくるけれど、あたしとウィルは冷静な声で反論する。
まったく、自分から捨てたくせに、いまさらになって助けてほしいだなんて遅いのよ。
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