勇者パーティーを追放された薬草師

高坂ナツキ

文字の大きさ
11 / 12

11 気持ちの通じ合う日

しおりを挟む
「つい感情的になって、勝手に連れて行っちまったけど大丈夫か?」

 元勇者と魔女が連れて行かれた後、一人残ったウィルがあたしに話しかけてきた。

「あの二人のこと? だって、連行するように王様に言われているんでしょ?」

「いやでも、サラの仲間だったんだろ? 未練とか……」

「ないわよ! 大体、自分たちでいらないって捨てておきながら、困ったら迎えに来ただなんて言う人に未練なんかあるわけないでしょ!」

 ウィルの言うこともわからなくはないけど、あんな奴に未練があるだなんて屈辱以外の何物でもないわよ。
 確かに元勇者はそこそこのイケメンで旅先でも多くの女性が寄ってきていたけれど、あたしにとっては鼻水垂らしながら泣きついてきていた子供の印象が抜けない。
 成長した姿が見られたならともかく、困ったからってあたしに泣きつきに来る様子は、子供時代そのままで、なんのトキメキも抱かなかったのよね。

「……そうか、それは良かった。サラが元勇者について行ってしまったらと、気が気でなかったんだ」

「……貴重な薬草師だから?」

 ずるい聞き方をしてしまった。魔国との戦争が始まってから、薬草師は希少になっていて、どの領でも喉から手が出るほどに欲しい人材となっている。
 領主であるウィルからしたら、ようやく辺境に根付いてくれた薬草師を簡単に手放すわけにはいかないだろう。

「ち、違う! ……いや、その側面もないとは言い切れないが、俺がサラと離れたくなかったんだ!」

「あたしと?」

「ああ。……サラ、これは俺の本心だ。元勇者が現れたから、言うわけじゃない。俺はサラの傍にずっと居られたら良いと思っていたんだ」

「それって……」

 ウィルの言葉に、あたしの胸はどんどん高まっていく。それって、どういうこと?
 あたしが薬草師だから領にずっと居て欲しいってこと? それとも、あたし自身がウィルの傍に居て欲しいってこと?
 ……でも、そんな言葉は、簡単に口から出てはくれない。

「サラ、俺と結婚してほしい。サラがパトリックを……俺の弟を救ってくれた時から、どんどんサラのことが好きになっていっているんだ」

「……でも、あたしは貴族にはなれないわ」

 ウィルの言葉はうれしい。でも、ウィルはあたしとは違って、貴族であり、領主でもある。
 結婚という言葉に胸が高鳴る気持ちと、それでもウィルとは立場が違うと警鐘を鳴らす冷静な気持ちが同居する。
 貴族の世界なんて、お話の中でしか知らないあたしだけど、それでも簡単な気持ちで飛び込んでいい世界じゃないってことはわかってる。

「そうか、サラが心配しているのは貴族のことか。だったら、安心してほしい。元々この領の領主はパトリックが継ぐものだ。俺が領主になっているのは、パトリックが怪我をしたことが原因だ」

「?」

「片腕を失った人間は領主にはふさわしくない、ましてや死の間際ならなおさらって意見で、俺が領主をやっていたが、そのパトリックはサラが治してくれた。だから、俺が領主を続ける意味はないんだ。だから、サラが望むなら俺はただの騎士に戻る」

「で、でも、それじゃ貴族じゃなくなっちゃうよ?」

 貴族のことをろくに知らない、あたしでも知っている。もともとが貴族でも騎士になってしまえば、平民と同じ。

「領主になりたいなんて思ったことは一度もないから、これでいいんだよ。サラだって、俺の言葉使いや態度は領主らしくないって思うだろ?」

 ウィルの言葉にうなずいていいものか悩む。確かにウィルの言動は領主らしくない……というか、貴族らしくないとは思っていたけれど、それを素直に指摘していいのかな?

「あたしのせいで貴族を辞めるの?」

「違う。サラの存在はそれだけ、俺の中で貴重だってことだ。地位や名誉を捨ててでも、手に入れる価値がある」

「あたしが薬草師だから?」

「サラがサラだからだ。薬草師であることもサラの一部だから否定はしないが、サラが例え薬草を作ることができなくなっても、一緒に居たいと思っている」

 あたしの中にウィルの気持ちを受け入れられるだけの余裕がなくて、何度も薬草師だから? と聞いてしまうけれど、それでもウィルはあたしがあたしだから、好きだと言ってくれている。
 それに対して、あたしはどう答えるべき? ……ううん、あたしはどう答えたいんだろう?

「……あたしは」

「うん、サラの素直な気持ちを聞かせて欲しい。サラは俺と一緒に居たい?」

「あたしは……うん、あたしもウィルと一緒に居たい」

 初めて、あたしを大事に思ってくれた人。初めて、あたしを気遣ってくれた人。
 こんなに一緒にいて、ドキドキするのは後にも先にもウィルだけだって感じている。

「……本当? 本当に本当?」

 今度はウィルの方が疑問を重ねてくる番ね。ウィルの問いかけに対して、あたしはコクリと頷く。
 すると、喜びの声を上げたウィルは、あたしを抱えてクルクルと回り始める。
 こうして、あたしとウィルはお互いの気持ちを通じ合わせて、一緒にいることになった。

 勇者パーティーから追放された、あたしだったけれど、今から考えれば、それでよかったのかもしれない。
 だって、こんなに素敵なウィルと一緒にいることができることになったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される

希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。 しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。 全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。 王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。 だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

聖女だけど婚約破棄されたので、「ざまぁリスト」片手に隣国へ行きます

もちもちのごはん
恋愛
セレフィア王国の伯爵令嬢クラリスは、王太子との婚約を突然破棄され、社交界の嘲笑の的に。だが彼女は静かに微笑む――「ざまぁリスト、更新完了」。実は聖女の血を引くクラリスは、隣国の第二王子ユリウスに見出され、溺愛と共に新たな人生を歩み始める。

処理中です...