勇者パーティーを追放された薬草師

高坂ナツキ

文字の大きさ
10 / 12

10 元勇者の襲来

しおりを挟む
「あ~~、もう!」

 ウィルに慰められたあの日から、あたしの心の中には嵐が吹き荒れている。
 少しでも手を止めてしまうと、ウィルのことを考えて嬉しいやら恥ずかしいやら、よくわからない気持ちが襲ってくるから、ずっと薬を作り続けていて。
 そのおかげで、研究していた薬はだいぶ完成に近づいたけど、こんな状態で研究を続けるのが身体的にも精神的にもまずいということはわかる。

「やっと見つけたよ、サラ」

 自分の生活について見つめなおしていると、扉が突然開いて男から声をかけられた……誰?

「えーと、どちら様ですか?」

「ふざけるのは良くないよ。僕だ、ジョーだよ」

 ジョー……ジョー…………あっ! 勇者……もとい、元勇者か。別れてから半年近く経っているし、存在すら忘れていたわ。あ~、よくよく見れば、隣には魔女もいるじゃん。

「あ~、お久しぶり?」

「まさかサラが、こんな辺境にいるなんてね。探すのに苦労したよ」

「探してたの?」

 あたしを追放したのは、そっちなのに? という気持ちを込めて言ってみたけど、元勇者には何も響かなかったらしい。

「もちろんさ。僕から離れることがショックだったんだろう? だから、こんな遠くまで」

「は?」

 離れることがショック? あり得ないでしょ。自分のことを追放した人間に対して、そんな強い感情なんて抱くわけないでしょ。
 あたしがあの時に思ったのは、やらかしてくれたな! って気持ちだけよ。

「だが、安心してほしい。こうして迎えに来てあげたからね。もう一度、僕らと一緒に魔王を討伐に行こうじゃないか」

「いや、行かないけど」

「意地を張らなくてもいいんだよ。確かに、あの時はサラよりも聖女を優先してしまったけれど、すぐに気づいたんだ。僕らにはサラが必要だってね」

 元勇者の頭の中では自分勝手なストーリーが出来ているのか、こちらの心情を勝手に脚色して話を進めてくる……誰が意地を張ってるってのよ。

「訳のわからないことを言うわね。……で、そっちでだんまりの魔女さんも同じ意見なわけ? パーティーから追い出すときには散々な言いようだったけれど?」

「っ! ……そうよ。私たちには貴女が必要なの」

「ふーん。ま、それでも答えは変わらないけれど。お断りよ」

「……サラ」

「そっちの中では勝手にストーリーが出来てるみたいだけど、パーティーから追放したのはあんたたち。で、あたしはそれに納得して出ていった」

「だが、離れる際には名残惜しそうだったじゃないか!」

「そりゃ、二年近く一緒にいたのに、そっちの勝手で追い出されたんだから、恨み言の一つや二つはあるでしょ? でも、それを引き合いに出されて名残惜しそうだったなんて、勝手な解釈をされちゃ困るわ」

「「……」」

「そもそも、あたしがあんたのパーティーに入ったのだって、あんたの母親から頼まれたから。あんた自身に何かがあってついて行ったわけじゃない。だから、追放されたってショックなんか受けない」

 これだけは間違えちゃいけない。あたしは幼馴染のジョーにも、勇者にも人間的に惹かれたわけではない。
 幼馴染として、薬草師として、ジョーの母親から旅に出る息子の助けになってくれ、と頼まれたにすぎないのよ。

「母さんがっ!?」

「勇者に認定されて、旅に出ることになった。でも、あんたは回復役すらまともに連れずに旅に出ようとしてる……親が心配しないとでも思ったわけ?」

「だったら……だったら、なおのこと、もう一度パーティーに参加すべきだろう!」

「愛想が尽きたって言ってるのよ。それに、あたしよりも優秀な回復役を探せるようになったんでしょ? だったら、あたしの役割は終わりよ」

 あたしがパーティーに参加していたのは、あくまでも回復役がいなかったから。幼馴染の情もあったからパーティーに参加していたけれど、自分たちで回復役が探せるなら、お役御免だ。

「うるさいっ! いいから僕たちの役に立てばいいんだよっ!」

 あたしの言い分にキレたのか、元勇者が声を荒げて迫ってきた。

「そこまでだ!」

 元勇者が、あたしの腕に掴みかかろうとした瞬間、ウィルが元勇者の肩を掴んで止めに入った。

「な、なんだ、お前は!」

「ここの領主だよ、元勇者様」

「無礼なっ! 僕は勇者だぞっ!」

 え? もしかして、この人、自分が勇者を解任されていることを知らないの?

「無礼って言われてもな、国王から頼まれてるんだよ。前線から逃げ出した元勇者を発見した場合には、捕まえて王宮に連れてくるようにってな」

「はっ!?」

「というわけだ。お前ら、拘束しろっ! 二人とも魔法を使うから、魔封じの腕輪を忘れるなよっ!」

 ウィルが宣言すると、扉から次々と兵士が入ってきて、あっという間に元勇者と魔女を拘束してしまう。
 魔女はもちろん、元勇者も教会から認定されたときに魔法の素養が認められていた……ま、パーティーに参加していた時は、剣技ばかり磨いていて、まともに魔法を使うところを見たことないけど。

「怖い思いをさせたな、サラ」

「ウィル……別に、あたしだって冒険をしていたんだから、大丈夫だったわよ」

「そうか? そうだな、サラは心が強いからな。だが、辺境の領主としては辺境で起きた事件に巻き込んだことは謝罪させてほしい。すまなかった」

 そう言って、ウィルは頭を下げる。元勇者や魔女が何をしてきても、自作の薬が大量にある薬屋で負けることはなかったと思うけど、それでもウィルの気遣いが嬉しい。

「サラ! 僕を助けてくれっ!」

「そうよ! 仲間でしょ!」

「あたしを追放したのは、あんたたちでしょ? 都合が悪くなった時だけ助けてくれって言われても、もう遅いわよ」

「そうだな。というか、恥ずかしくないのか? 自分たちから捨てたくせに、いざとなったら助けろなんて」

 元勇者と魔女はあたしに助けを求めてくるけれど、あたしとウィルは冷静な声で反論する。
 まったく、自分から捨てたくせに、いまさらになって助けてほしいだなんて遅いのよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

【完結】義妹に全て奪われた私。だけど公爵様と幸せを掴みます!

朝日みらい
恋愛
リリアナは美貌の義妹イザベラにすべてを奪われて育ち、公爵アルノーとの婚約さえも破棄される。 役立たずとされて嫁がされたのは、冷徹と噂される公爵アルノー。 アルノーは没落した家を立て直し、成功を収めた強者。 新しい生活で孤立を感じたリリアナだが、アルノーの態度に振り回されつつも、少しずつ彼の支えを感じ始め――

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

妹に命じられて辺境伯へ嫁いだら王都で魔王が復活しました(完)

みかん畑
恋愛
家族から才能がないと思われ、蔑まれていた姉が辺境で溺愛されたりするお話です。 2/21完結

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...