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34:似た境遇同士
しおりを挟むマストとの関係性に変化が見られる中、マリーにはもう一つ意外なことが生じていた。
ローラとの距離が近くなってしまったのだ。
(ローラ様は、私が旦那様の前妻で子ども達の実の母親だと知らないわ。騙しているようなものだし、適度に距離をとらなきゃ!)
マリーはそう思っていたのだが、意外にもローラはマリーに心を開いてしまったのだ。
ローラ付きの侍女アリスは、ローラはあまり口数は多くないと言う。
しかしローラは、マリーの前ではとてもよく話した。
子どもという癒しが、ローラの心を解して口を軽くさせるのかもしれない。
「マリー、今日もローラ様が訪室したいと言っているわ。いつもの時間に良いかしら?」
「はい、わかりました。いつもの時間で大丈夫です」
訪問の伺いに来たアリスに、マリーは苦笑いで答えた。
いつもローラは、きちんと訪問の許可を取ってから来てくれる。
最近は週に2~3回程度の訪問頻度だ。
「マリー、今日もお邪魔するわよ」
そう言って笑顔でローラは訪室して来る。
ローラの笑顔に、いつもマリーは複雑な気持ちになる。
(今日も素敵な笑顔だわ)
取り敢えずは、今日も元気そうなローラにホッとする。
マリーは昔の自分と重なるからか、ローラが辛そうにしているのを見ると胸が痛むのだ。
政略結婚や子ども産むための道具として扱われる辛さは、マリーにはとてもよくわかるからだ。
「フリージア、今日は何をして遊んでいるの?」
「これー」
すっかりローラに慣れたフリージアは、ぬいぐるみをローラに手渡そうと差し出す。
すふとそのぬいぐるみを、横に座っていたリリーが奪った。
「リリーがとったー! えーん!」
最近のリリーは人のものをやたらと欲しがるのだ。
リリーは食事の食べもよく、母乳を飲む量がどんどん減っていた。
そのことにマリーは、ここでの居場所がなくなる恐怖感を微かに抱いてもいるのだった……
「リリーも一緒に遊びましょう」
ローラはリリーを膝の上に乗せ、リリーと一緒にぬいぐるみをフリージアに差し出した。
もうすっかり二人の扱いに慣れているローラを、今日も複雑な気持ちでマリーは少し離れたところから立って見つめている。
そして最近ローラは、子ども達と暫く遊びフリージアが昼寝をし出すと、マリーに話しかけて来る。
フリージアの相手は会話片手に出来るものではないからだ。
リリーが一人遊びをしているのを見守りながら、時々相手もしながら、ローラはマリーに話し掛けるのだ。
訪問の目的にマリーと話すこともあるのではないか?と思うほど、ローラはマリーに毎回話しかけて来る。
「マリー、相変わらず伯爵様は全く私を訪ねて来ては下さらないの。城へ来てもう2ヶ月よ。最近は、ローレル様の小言も始まったわ……」
ローラは、はあっとため息をついた。
マストが全然ローラを訪問していないことを知ったローレルの機嫌が悪いことは、使用人達の間で噂になっている。
「……それはお辛いですね」
「ええ。伯爵様に見向きもされていないだけで辛いのに、ローレル様にまでよく思われていないなんて……。そりゃ、子供を産まない私なんて用無しなのはわかるけれど……」
綺麗な顔を歪めて自嘲気味に言うローラに、マリーは切ない気持ちになる。
「そんなことはありません!」
普段は基本聞き役のマリーが珍しく声を上げたため、ローラは一瞬驚いた顔をした。
「旦那様はいつも、考えがあっての行動をされています。ローラ様はとても素敵です。子どもを産もうが産ままいが、ローラ様はローラ様です! 自信をもってください!」
マリーはつい、熱くなってしまった。
"自分自身を見て欲しい"
それは、この屋敷に嫁いで来た時から、ずっとマリーが思い続けていたことだ。
不仲で自分勝手な両親に育てられたマリーは、自己肯定感がとにかく低かった。
それが結婚生活を拗らせた原因だということを、最近は自覚もしていた。
「ええ、伯爵様なりの考えがあるということはわかっているわ……。伯爵様には3ヶ月待って欲しいと言われたの。だからあと2ヶ月ね。2ヶ月後に何を言われるのかしら?」
ローラは不安そうな表情を見せる。
「……ご実家が心配ですか?」
「……ええ、そうね」
ローラは苦笑いを浮かべて続ける。
「貧乏男爵家の長女は辛いわよ。下に小さい妹が五人もいるの。私が希望しない結婚をしてでも、お金を作らなければならないのよ……」
自分と似た境遇のローラを、マリーは放ってはおけなかった。
「……旦那様は口下手で不器用ですけれど、根は良い方です」
ピシッと直立して真顔でローラを見てそう言うマリーに、ローラは笑顔で言った。
「わかっているわ」
その凛々しい笑顔にマリーがドキッとしてしまう。
「……実はね、私……伯爵様に一目惚れだったの……」
その言葉を聞いた瞬間、マリーはさっきとは違う意味で心臓が"ドキッ"としたのだった……
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