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33:反省会

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「友達とは、嘘はつかないものか?」

「……時には、必要な嘘もあるとは思います」

戸惑いの表情を浮かべているマリーに、マストは真顔のまま言う。

「違う、と言えば信じるか?」

「他に納得のいく理由を教えてもらえれば、信じるかもしれません」

「……そうか。他の理由は思いつかないな」

マストはふぅっと一息ついてから続ける。

「そうだ。母上に、婚約者を招き子作りをしなければマリーを追い出すと言われた」

マリーは衝撃を受けた。

「もっ……申し訳ありません! まさか私の存在が、旦那様のご迷惑になるなんて……!!!」

狼狽えるマリーを見て、マストは"ふっ"と小さく笑う。

「気にするな。想定範囲内の出来事だ」

マリーが眉間に皺を寄せたままな様子を見て、マストは付け足す。

「母上が男児に拘っているのも知っているしな……。ところで、結婚していた頃に母上に嫌がらせを受けるなどしていたか?」

マリーは、今度はポカンとした顔になる。

「えっ……嫌がらせだなんて……。嫌味を言われていたくらいです」

咄嗟に馬鹿正直に答えてしまい、マリーは"ハッ"と口に手をやった。

(しまったわ! 使用人の分際で大奥様の悪口を言うなんて……)

マリーが自分の発言を悔いていると、マストは全く気にしていない様子で言う。

「そうか……やはり、色々と言われていたのか……。最初の妻の時は色々と不平不満を私に言ってきていたが、君は全く言って来なかったから、そう言った類のことはないのだと思っていた……。君は子どもも産んでくれていたし……」

「……」

渋い顔のマストを見ながら、マリーは悶々としていた。
その様子にマストはすぐに気づく。

「気にせずに言いたい事を言って良いぞ」

その言葉に、マリーはずっと抱いていたモヤモヤを口にせずにいられなかった。

「大奥様は、一度もフリージア様とリリー様のことを気にかけて下さったことはありません」

「えっ……」

「旦那様のいる前では笑顔で話しかけるなどしていますが、いらっしゃらなければ、見向きもせずにいないものとして扱います」

マストは驚いている様子だ。

「……男児ではなく残念がっているのはわかってはいたが、孫には違いなく可愛がっているものと思っていた……」

「……旦那様の前ではそう見えるように振る舞っていらっしゃいましたから……」

マリーはふと、ベッドで仲良く手を繋いで眠っている二人の子どもを見た。
天使の寝顔に胸が痛くなる。

「……なので余計に、私は子ども達を置いて屋敷を去りたくはなかったのです……」

「そうか……。なぜ、小言を言われていることを私に言わなかったのだ?」

「……最初の方は、お義母様の悪口を旦那様に言いたくなかったのです。家族の愚痴は聞きたいものではありませんから……。しかし途中からは、単純に言う気にならなかっただけです。旦那様に"想いを伝えよう"、"わかってもらおう"とする気力が無くなっておりました……」

マリーは膝の上でギュッと握った自分の拳を見つめた。

(ああ、私はわかってもらうことを諦めていたのね……。それなのに、夫婦関係がうまくいっていない理由を全てを旦那様のせいにして不満ばかり募らせて……)

マリーは過去の自分に羞恥心を覚える。

「そうか……。結婚当初はマリーが誘ってくれて一緒に出掛けたりもしたな。しかし子どもが産まれてからは、すっかり子ども中心の日々になってしまった」

マストは苦い顔で、下を向いているマリーをジッと見つめる。

「はい……。子ども中心の日々となることは仕方のないことですし、当然のことだと思います。ただ、私たちは夫婦の時間をもっと大切にするべきだったと思います」

「このように、話す時間をもっと作るべきであった……」

マリーは顔を上げてマストを真っ直ぐに見た。

「はい。お互いのことをわかり合おうと、もっと努力をするべきでした」

少しの沈黙が二人の間に流れた。
視線を逸らさずにマリーは続ける。

「……私は結婚している間ずっと、旦那様を責めていました。夫婦関係が私の思い描いていたものから程遠いのを、旦那様のせいにしていました」

「……実際、私のせいであったのだろう? こんなに口下手で……」

視線を先に逸らしたマストは、バツの悪そうな顔をしている。

「そうですね。旦那様はとても口下手で、必要最低限のことも口にしては下さらず、それにも関わらずきつい言葉はバンバン投げかけて来る……。いつもとても悲しかったです。なぜその様なものの言われ方をしないといけないのかと……」

(最初は腹を立てていたけれど、段々と悲しく思う様になったのよね……)

マストと夫婦だった頃を思い出すと同時に当時の辛かった気持ちも思い出し、マリーは胸が苦しくなった。

「……ああ、言い方がきついのは私の悪いところだ。申し訳なかった」

申し訳なさそうな顔でそう言うマストを見て、マリーは驚いた。

「謝ることは出来ない性格なのだと思っておりました……」

「えっ?」

「いいえ……。私も、自分のことは棚に上げて旦那様のせいにばがりしていました」

再び少しの沈黙が流れ、今度はマリーが先に口を開いた。

「……本当に、もっと腹を割って話すべきでしたね。お互い……」

しみじみ言うマリーを見ながら、マストは言う。

「ああ……。しかし、今だからこそ、このような話が出来るのかもしれない」

「……もう夫婦ではないからですか?」

「離縁がきっかけで、私は自分で自分が変わったと思う」

「……何か心境の変化がおありになったのですか?」

「ああ……まあ、そうだな」

そう微笑んで言うマストを見て、マリーはローラの顔が浮かんだ。

(変化の原因はローラ様かしら?)

マリーはそう思うと、今までしんみりしていた気持ちが一気に冷静さを取り戻す。

「なんだか反省会のようになってしまいましたね」

「これから私たちは新しい関係を築くのだ。反省会は有意義な時間だった」

そう笑顔で言うマストに、マリーは胸がが"ギューっ"と締め付けられたのだった……

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