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第6話 ふたりの先生
第6話・3 激闘! 影と幻覚
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セセラは歯を食いしばり、素早く懐から閃光弾を取り出す。
──カチッ……
「目、潰させてもらうぜ」
白光が路地を染める。
「……ッ!!」
──その瞬間、“影”が苦しげに身を捩った。
そこへ、別方向からの気配。
黒いワンピースの少女が現れる。
「下がれセセラ。今度は私が出よう」
そう告げて、シエリが歩み出る。
その目が、夜闇の奥を鋭く射抜いた。
路地の静寂を切り裂くように、シエリが一歩、また一歩と前に出る。
黒いワンピースの裾が、夜風になびいた。
その姿を見た“影”は咆哮のようなノイズを発する。
「──ギギギギギギギギッ……!!」
「…………」
理解不能な音。
しかし、シエリは怯まない。
「……見た目は奇怪だが、中身は未熟な龍因子だな。読みやすい」
その小さな背に、ふわりと現れる漆黒の影。
その影が変質し、バサリ──と、背中から蝙蝠のような翼が大きく広がる。
細く白い手足の中に宿された異質な筋力。
パキッと音がして、右手の指を鳴らす。
次の瞬間──。
その腕が“影”の頭部を掴んでいた。
「大人しくしていれば、もう少し観察してやったのに」
グ、ググ……と力強く捕らえられ、抵抗しようと暴れる“影”。
敵のその圧力は、人間の子どもの体では到底耐えられるものではない。
──だが、シエリは小さくとも人間の子どもではない。微動だにしない。
「……ちょっとチクッとするぞ」
ズブリ、と聞こえる音と共に、シエリの牙が“影”の首元へと突き立つ。
吸血ではない。
これは捕食──龍の本能だ。
「この程度……浅い精神干渉と、空虚な執着。それだけか」
握りしめた腕に力が入る。
ぐしゃり、と“影”の輪郭が歪んだ。
「……セセラ」
「おう」
シエリの合図に、セセラが再び閃光弾を構える。
「あと一発で終わらせるぞ。照らして」
「合図頼むわ」
「──今」
──パァンッ!!
白光が夜を裂き、“影”は悲鳴のような音を立てて溶けていった。
風が吹く。
路地には、シエリとセセラだけが残されていた。
──“影”は、確かに存在した。
だが、その本体はまだ霧の奥にある。
「……これで終わりじゃねえな」
「そうだね」
ふたりは静かに頷き合い、現場の空気を背に受けながら、歩き出した。
◇
数時間後──。
龍調査機関・本部指令室。
夜が明ける前。
セセラとシエリは既に端末の前に座り、分析と報告の資料をまとめていた。
「……やっぱり、あれは本体じゃなかった。薄皮一枚、分離体みたいなモンだ」
「主となる“核”は別にある。今回の反応パターンを見る限り、最低でもCランク以上の精神濁乱型。正式な任務として立て直す必要がある」
セセラは深く頷き、通信装置を指先で操作する。
「こちら薊野。……明日、戦闘班の招集を」
『かしこまりました。紫苑レイラ、紅崎リル、両名とも呼び出し可能な状態にあります』
「了解。ただし、あくまでアイツらは戦場の表側。今回の主人公はこっち──俺たちだ」
その赤い瞳に、不敵な光が宿る。
シエリは横で静かに笑った。
「キミ、いつになくやる気だな」
「そりゃあな。……後ろから仕留めるのが、俺たちの役目だろ」
壁面モニターには、影の分離体が現れたエリアを中心に、円状に拡がる微細な干渉波のデータが映し出されていた。
「……次は、影の本体を追う。第2段階に入るぞ」
セセラの低い声音が浸透する夜明け前の研究施設。
ふたりの目には、戦場の“裏”を支配する者たちの意志が、確かに燃えていた。
◇
そして夜明けを超え、昼の頃合い。
龍調査機関・分析棟・第三観測室。
少しの仮眠だけを取っていたセセラ。大型モニターを睨みながら、ホログラム状に浮かび上がる都市地図に視線を走らせていた。
「……ここだな。分離体が出現したポイントを中心に、最も濃い残留波が重なってる」
円形に波及する精神干渉の波。だが、その中心は僅かにズレていた。
「つまり、本体は生徒が通る道とは別の、少し離れた位置から干渉を撒いてる。動いていない……いや、動けない可能性もある」
それを聞いたシエリが隣で頷きながら指先を動かし、記録映像を早送りで再生する。
「地下……?」
「ビンゴ。商店街の裏手、地下水道跡。都市計画に吸収されず、閉鎖された区画が残ってる」
「やれやれ……。薄暗く、人気が無く、監視も甘い。……敵にとっては絶好の“根城”というワケか」
セセラは端末を閉じて、椅子から立ち上がった。
「俺が先に潜る。戦闘要員は遠隔待機だ。……もし何かあっても、巻き込みたくない」
「……わかった。キミの判断に任せる」
静かに目を閉じるシエリ。
「ただしセセラ、合図は忘れるな。万が一“龍”の本性を持つ存在だった場合、交渉も無意味だ」
「……そのときは」
セセラは白衣のポケットに突っ込んだ手に力を込めた。
「──潰す」
静かに、決意が場を支配する。
次なる舞台は、街の“下層”──闇の底だ。
◇
数時間後、夜。
地下通路の最深部では濃密な靄が広がる中、セセラは静かに息を整えていた。
足元を踏みしめながら、通信機に触れる。
「こちら薊野。確認できた。例の男、精神干渉型──前回のあれだ。外見もほぼ同一。やっぱり本体は逃げ延びていたようだ」
その瞬間、別方向の通路に新たな気配が走る。
「薊野さん、応答を確認。戦闘班、到達済み」
──リルの声。
「目標、目視確認。突入する」
「……今日であいつを、仕留めるよ」
続けてレイラの声が響いた。力強く、鋭く、しかしどこか凛とした音色。
ふたりがセセラと合流した、その靄の先に──あの“男”がいた。
人間の姿。だが、皮膚は黒く爛れ、目はまるで龍のような縦長。
精神干渉の濃度がセセラの計測端末を赤く染め上げる。
「全員、交戦モード。リル、レイラ、お前たちの判断で構わねえ。だが冷静にな……。討伐を目指すぞ」
「了解」
レイラはフード付きの黒い上着を翻し、前線へ駆ける。
リルのボロボロのマントが、靄の中で一瞬たなびく。
ふたりの姿が、音も無く“影”の中心へと飛び込んでいった。
そしてその全てを、静かに見守るセセラ。
──今回は、いつものように“遠くから”ではない。
彼は、戦場のただ中にいた。
(……終わらせる。アイツが、この街の影であり続ける前に)
戦闘班と“影”の本体。
最終局面へと、突入する。
◇
──同時刻、機関の監視室。
複数のモニターに囲まれた空間で、シエリは無言のままセセラの映像とバイタルを見つめていた。
示されるセセラの心拍数は上昇している。脳波にも異常なパターン。
「冷静に見えるが……既に幻術……受けているな」
隣に控えるラルトが、心配そうに問いかける。
「大丈夫……なんでしょうか……」
「……あの子は、弱くない。私が知っている“薊野セセラ”はな」
シエリの声は静かだが、しっかりと確信に満ちていた。
「でも、これ以上は──」
ラルトが口にしかけたそのとき、通信機から小さなノイズが走った。
『途中報告……こっちは問題無い。まだ続行する』
セセラの声。
やや掠れてはいるが、明瞭な意志がそこにあった。
「やっぱり……すごいな、薊野さん……」
柔らかく微笑むラルト。
「当然だ。私の血は伊達じゃない」
シエリの口元にも、微かに満足気な笑みが浮かんでいた。
モニターの中で、セセラは再び“影”の奥へと歩みを進める。
誰もが見逃した敵の核へ。
これは表には映らない戦場。
だが、確かに“戦っている者”がここにいるのだった。
◇
靄の中。
レイラとリルが同時に斬り込んだ。
刹那、男の両目が光る。
「またお会いできて光栄です。さあ──幻を見ろ」
次の瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。
レイラの足元が崩れ、視界が反転する。
「なっ……!?」
リルはすぐに前転して躱すが、既に龍化した両手で振り下ろした爪は虚空を切った。
「テメェ……また幻術か……!」
男の体が影へと溶け、複数に分裂する。
「影を喰らえ……影に呑まれろ……」
「!!」
囁くような声が空間中に響き渡った。
即座に対応するセセラ──。
「レイラ、リル、聴覚を信じろ。視覚は幻だ。こっちの座標をナビする。動きは俺の指示で補完する……」
レイラは息を整えるが、眼帯の奥が微かに疼いた。
「……ッ、わかった……」
リルは舌打ちをしながら後退。
「やべえな……コイツ、前よりも強い……」
男の幻術は進化していた。
精神干渉だけではない。
まるで周囲の空間そのものを歪めるような、思考と反応を奪う力。
攻撃が空を切り、数手分の遅延を生む──それは死に直結する。
セセラは端末を睨みながらも、冷静に声を出す。
「敵、分裂形態。だが実体はひとつだ。レイラ、右斜め前15度、リルはそれを囲うように……今は耐えろ。攻撃するな」
「……了解」
「チッ……わかったよ……」
ふたりの背が、互いを庇うように動く。
敵は確実に優勢だった。
このままでは、戦闘は崩れる。
だが、セセラの声が途切れることは無かった。
「俺がここにいる限り迷わせねえ。タイミングが来たら正面から殴れ」
戦場の風が、冷たく吹く。
「フフ……お前たちに見えるか? 本当の姿が……」
その中で男の声が空間中に響いた。
幻影が更に増殖し、四方八方からレイラとリルを嘲笑うように歩み寄る。
「幻に、何を託す……何を信じる……? お前たちの“真実”とは何だ?」
言葉が直接、脳に響いてくるようだった。
「……っ……!!」
レイラの意識が、僅かに乱れる。
(──なに、言って……)
その隙だった。
“本体”が背後から音も無く現れ、鋭い影の爪でレイラの脇腹を一閃した。
「ッ!!」
──ドシュッ……!!
鈍く重たい斬撃音。
レイラの体が大きく弾かれ、倒れる。
「……あ゙ッッ…………!!!」
漆黒の布が裂け、血が──鮮やかな鮮血が、地面を染めた。
「レイラッ……!!」
リルが叫ぶ。
セセラの端末がけたたましく警告音を鳴らした。
「……え……」
出血量、危険域。
視界に映るのは、滴る濃い赤。
──幻術ではない。
「…………!!」
これは、現実だ。
(……あっ……)
鼻腔に、強烈な鉄の匂い。
生の、温かい血液の匂い。
それがセセラの視界を一瞬で奪う。
「…………ッ……!!」
指が震える。
冷静だった指示が止まる。
胃の奥が、裏返るような──吐き気。
「……ゔ……、ッ…………!!」
(……何でだ……! 多少は慣れたはずなのに……!!)
──否、違う。
“現場”にいる。
目の前で仲間が斬られた。
これは、初めて直接見たレイラの血だった。
「……ぐ……ゔッ……、……っ……!!」
セセラの動きが、止まる。
“敵”は、冷笑を浮かべながら更に歩み寄っていた──。
戦場に、冷たい緊張が走る。
──カチッ……
「目、潰させてもらうぜ」
白光が路地を染める。
「……ッ!!」
──その瞬間、“影”が苦しげに身を捩った。
そこへ、別方向からの気配。
黒いワンピースの少女が現れる。
「下がれセセラ。今度は私が出よう」
そう告げて、シエリが歩み出る。
その目が、夜闇の奥を鋭く射抜いた。
路地の静寂を切り裂くように、シエリが一歩、また一歩と前に出る。
黒いワンピースの裾が、夜風になびいた。
その姿を見た“影”は咆哮のようなノイズを発する。
「──ギギギギギギギギッ……!!」
「…………」
理解不能な音。
しかし、シエリは怯まない。
「……見た目は奇怪だが、中身は未熟な龍因子だな。読みやすい」
その小さな背に、ふわりと現れる漆黒の影。
その影が変質し、バサリ──と、背中から蝙蝠のような翼が大きく広がる。
細く白い手足の中に宿された異質な筋力。
パキッと音がして、右手の指を鳴らす。
次の瞬間──。
その腕が“影”の頭部を掴んでいた。
「大人しくしていれば、もう少し観察してやったのに」
グ、ググ……と力強く捕らえられ、抵抗しようと暴れる“影”。
敵のその圧力は、人間の子どもの体では到底耐えられるものではない。
──だが、シエリは小さくとも人間の子どもではない。微動だにしない。
「……ちょっとチクッとするぞ」
ズブリ、と聞こえる音と共に、シエリの牙が“影”の首元へと突き立つ。
吸血ではない。
これは捕食──龍の本能だ。
「この程度……浅い精神干渉と、空虚な執着。それだけか」
握りしめた腕に力が入る。
ぐしゃり、と“影”の輪郭が歪んだ。
「……セセラ」
「おう」
シエリの合図に、セセラが再び閃光弾を構える。
「あと一発で終わらせるぞ。照らして」
「合図頼むわ」
「──今」
──パァンッ!!
白光が夜を裂き、“影”は悲鳴のような音を立てて溶けていった。
風が吹く。
路地には、シエリとセセラだけが残されていた。
──“影”は、確かに存在した。
だが、その本体はまだ霧の奥にある。
「……これで終わりじゃねえな」
「そうだね」
ふたりは静かに頷き合い、現場の空気を背に受けながら、歩き出した。
◇
数時間後──。
龍調査機関・本部指令室。
夜が明ける前。
セセラとシエリは既に端末の前に座り、分析と報告の資料をまとめていた。
「……やっぱり、あれは本体じゃなかった。薄皮一枚、分離体みたいなモンだ」
「主となる“核”は別にある。今回の反応パターンを見る限り、最低でもCランク以上の精神濁乱型。正式な任務として立て直す必要がある」
セセラは深く頷き、通信装置を指先で操作する。
「こちら薊野。……明日、戦闘班の招集を」
『かしこまりました。紫苑レイラ、紅崎リル、両名とも呼び出し可能な状態にあります』
「了解。ただし、あくまでアイツらは戦場の表側。今回の主人公はこっち──俺たちだ」
その赤い瞳に、不敵な光が宿る。
シエリは横で静かに笑った。
「キミ、いつになくやる気だな」
「そりゃあな。……後ろから仕留めるのが、俺たちの役目だろ」
壁面モニターには、影の分離体が現れたエリアを中心に、円状に拡がる微細な干渉波のデータが映し出されていた。
「……次は、影の本体を追う。第2段階に入るぞ」
セセラの低い声音が浸透する夜明け前の研究施設。
ふたりの目には、戦場の“裏”を支配する者たちの意志が、確かに燃えていた。
◇
そして夜明けを超え、昼の頃合い。
龍調査機関・分析棟・第三観測室。
少しの仮眠だけを取っていたセセラ。大型モニターを睨みながら、ホログラム状に浮かび上がる都市地図に視線を走らせていた。
「……ここだな。分離体が出現したポイントを中心に、最も濃い残留波が重なってる」
円形に波及する精神干渉の波。だが、その中心は僅かにズレていた。
「つまり、本体は生徒が通る道とは別の、少し離れた位置から干渉を撒いてる。動いていない……いや、動けない可能性もある」
それを聞いたシエリが隣で頷きながら指先を動かし、記録映像を早送りで再生する。
「地下……?」
「ビンゴ。商店街の裏手、地下水道跡。都市計画に吸収されず、閉鎖された区画が残ってる」
「やれやれ……。薄暗く、人気が無く、監視も甘い。……敵にとっては絶好の“根城”というワケか」
セセラは端末を閉じて、椅子から立ち上がった。
「俺が先に潜る。戦闘要員は遠隔待機だ。……もし何かあっても、巻き込みたくない」
「……わかった。キミの判断に任せる」
静かに目を閉じるシエリ。
「ただしセセラ、合図は忘れるな。万が一“龍”の本性を持つ存在だった場合、交渉も無意味だ」
「……そのときは」
セセラは白衣のポケットに突っ込んだ手に力を込めた。
「──潰す」
静かに、決意が場を支配する。
次なる舞台は、街の“下層”──闇の底だ。
◇
数時間後、夜。
地下通路の最深部では濃密な靄が広がる中、セセラは静かに息を整えていた。
足元を踏みしめながら、通信機に触れる。
「こちら薊野。確認できた。例の男、精神干渉型──前回のあれだ。外見もほぼ同一。やっぱり本体は逃げ延びていたようだ」
その瞬間、別方向の通路に新たな気配が走る。
「薊野さん、応答を確認。戦闘班、到達済み」
──リルの声。
「目標、目視確認。突入する」
「……今日であいつを、仕留めるよ」
続けてレイラの声が響いた。力強く、鋭く、しかしどこか凛とした音色。
ふたりがセセラと合流した、その靄の先に──あの“男”がいた。
人間の姿。だが、皮膚は黒く爛れ、目はまるで龍のような縦長。
精神干渉の濃度がセセラの計測端末を赤く染め上げる。
「全員、交戦モード。リル、レイラ、お前たちの判断で構わねえ。だが冷静にな……。討伐を目指すぞ」
「了解」
レイラはフード付きの黒い上着を翻し、前線へ駆ける。
リルのボロボロのマントが、靄の中で一瞬たなびく。
ふたりの姿が、音も無く“影”の中心へと飛び込んでいった。
そしてその全てを、静かに見守るセセラ。
──今回は、いつものように“遠くから”ではない。
彼は、戦場のただ中にいた。
(……終わらせる。アイツが、この街の影であり続ける前に)
戦闘班と“影”の本体。
最終局面へと、突入する。
◇
──同時刻、機関の監視室。
複数のモニターに囲まれた空間で、シエリは無言のままセセラの映像とバイタルを見つめていた。
示されるセセラの心拍数は上昇している。脳波にも異常なパターン。
「冷静に見えるが……既に幻術……受けているな」
隣に控えるラルトが、心配そうに問いかける。
「大丈夫……なんでしょうか……」
「……あの子は、弱くない。私が知っている“薊野セセラ”はな」
シエリの声は静かだが、しっかりと確信に満ちていた。
「でも、これ以上は──」
ラルトが口にしかけたそのとき、通信機から小さなノイズが走った。
『途中報告……こっちは問題無い。まだ続行する』
セセラの声。
やや掠れてはいるが、明瞭な意志がそこにあった。
「やっぱり……すごいな、薊野さん……」
柔らかく微笑むラルト。
「当然だ。私の血は伊達じゃない」
シエリの口元にも、微かに満足気な笑みが浮かんでいた。
モニターの中で、セセラは再び“影”の奥へと歩みを進める。
誰もが見逃した敵の核へ。
これは表には映らない戦場。
だが、確かに“戦っている者”がここにいるのだった。
◇
靄の中。
レイラとリルが同時に斬り込んだ。
刹那、男の両目が光る。
「またお会いできて光栄です。さあ──幻を見ろ」
次の瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。
レイラの足元が崩れ、視界が反転する。
「なっ……!?」
リルはすぐに前転して躱すが、既に龍化した両手で振り下ろした爪は虚空を切った。
「テメェ……また幻術か……!」
男の体が影へと溶け、複数に分裂する。
「影を喰らえ……影に呑まれろ……」
「!!」
囁くような声が空間中に響き渡った。
即座に対応するセセラ──。
「レイラ、リル、聴覚を信じろ。視覚は幻だ。こっちの座標をナビする。動きは俺の指示で補完する……」
レイラは息を整えるが、眼帯の奥が微かに疼いた。
「……ッ、わかった……」
リルは舌打ちをしながら後退。
「やべえな……コイツ、前よりも強い……」
男の幻術は進化していた。
精神干渉だけではない。
まるで周囲の空間そのものを歪めるような、思考と反応を奪う力。
攻撃が空を切り、数手分の遅延を生む──それは死に直結する。
セセラは端末を睨みながらも、冷静に声を出す。
「敵、分裂形態。だが実体はひとつだ。レイラ、右斜め前15度、リルはそれを囲うように……今は耐えろ。攻撃するな」
「……了解」
「チッ……わかったよ……」
ふたりの背が、互いを庇うように動く。
敵は確実に優勢だった。
このままでは、戦闘は崩れる。
だが、セセラの声が途切れることは無かった。
「俺がここにいる限り迷わせねえ。タイミングが来たら正面から殴れ」
戦場の風が、冷たく吹く。
「フフ……お前たちに見えるか? 本当の姿が……」
その中で男の声が空間中に響いた。
幻影が更に増殖し、四方八方からレイラとリルを嘲笑うように歩み寄る。
「幻に、何を託す……何を信じる……? お前たちの“真実”とは何だ?」
言葉が直接、脳に響いてくるようだった。
「……っ……!!」
レイラの意識が、僅かに乱れる。
(──なに、言って……)
その隙だった。
“本体”が背後から音も無く現れ、鋭い影の爪でレイラの脇腹を一閃した。
「ッ!!」
──ドシュッ……!!
鈍く重たい斬撃音。
レイラの体が大きく弾かれ、倒れる。
「……あ゙ッッ…………!!!」
漆黒の布が裂け、血が──鮮やかな鮮血が、地面を染めた。
「レイラッ……!!」
リルが叫ぶ。
セセラの端末がけたたましく警告音を鳴らした。
「……え……」
出血量、危険域。
視界に映るのは、滴る濃い赤。
──幻術ではない。
「…………!!」
これは、現実だ。
(……あっ……)
鼻腔に、強烈な鉄の匂い。
生の、温かい血液の匂い。
それがセセラの視界を一瞬で奪う。
「…………ッ……!!」
指が震える。
冷静だった指示が止まる。
胃の奥が、裏返るような──吐き気。
「……ゔ……、ッ…………!!」
(……何でだ……! 多少は慣れたはずなのに……!!)
──否、違う。
“現場”にいる。
目の前で仲間が斬られた。
これは、初めて直接見たレイラの血だった。
「……ぐ……ゔッ……、……っ……!!」
セセラの動きが、止まる。
“敵”は、冷笑を浮かべながら更に歩み寄っていた──。
戦場に、冷たい緊張が走る。
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そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
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