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コヨタ

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第11話 ただいま、おかえり

第11話・5 ありがとう!楽しかったね

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 ──深夜。

 一同はそれぞれの寝間着に着替え、先程までの宴の余韻をまだ少し残しつつ、広めのベッドが並ぶ大部屋に戻ってきていた。

「……兄様、よく寝てるね」

 小さな声で、静かに声を漏らすラショウ。
 アシュラは既にベッドに移されており、ぐっすりと眠っている。

「……明日、何も覚えてねえんだろな」

 リルは少し呆れたように眉を下げた。

「……マジですごかったよな……」

「ね……」

 ふたりで小さく笑い合う。

 セセラは部屋の隅で煙草をくゆらせながら、ぽつりと零した。

「……なんか、泣けたな。あいつがああなるとは思わなかったけど。……人間らしさって意味じゃ……あれが本当のアシュラなんだろうな」

 その言葉に隣で頷くシエリ。

「私たちに見せてくれたんだよ。弱さも、素顔も。……ちょっと嬉しかったな、私は」

 レイラもベッドに腰を下ろしながら静かに話す。

「アシュ……泣きながら、ありがとうって言ってくれたんだよね。あんなの……嬉しくて……ちょっとこっちまで泣きそうだった」

「……レイラちゃん」

 ラショウが隣に座り、そっと手を添えた。

 リルは口を噤んでいたが──ふと、小さく呟く。

「……オレも……アシュラに……たまにはありがとうって、言いてぇな」

 一瞬、全員がその言葉に驚いてリルを見た。

「いっ……言わねーけどな。絶対、言わねえ」

 リルは目を逸らし、照れ隠しのように枕を取ってベッドに転がる。

「ふふ……ツンデレ♡」

 セセラはあざとい声音で言いながらくすっと笑い、煙を吐き出した。

 ──部屋の照明が少しずつ落とされ、それぞれがベッドに潜り込んでいく。

 ほんの少しだけ開いた窓から、外の風が心地よく吹き込んでいる。

 シエリが、最後に小さく呟いた。

「……起きたら、温泉もう1回入ろうか」

「賛成です♪」

「うん……!」

 ──旅は、まだ続く。
 だが今夜だけは、このぬくもりの中で。

 静かな、穏やかな夜が、深く降りていく。


 ◇


 ──翌朝。

 鳥のさえずりが微かに聞こえる、清々しい朝。

 柔らかな光がカーテン越しに射し込む部屋で、一番に目を覚ましたのはラショウだった。

(……ん、朝……)

 静かに身を起こし、隣をそっと見ると──。

「……えッ……!!?」

 思わず小さく声が漏れた。

 視界にはすっかり眠り込んでいるセセラの姿。
 まるで添い寝のような位置。

(……な、な、何で私、薊野さんのところに……!?)

 混乱するラショウ。

 ……ラショウは非常に寝相が悪く、寝ながら手足を思いっきり投げ出したり歩き回ったりと、もはや寝相とは言い難い行動を起こすことがある。

 今回もそれが発動し、無意識のうちにセセラのベッドに潜り込んだのだろう。

(……も、もう……私の……ばか…………)

 申し訳なさそうに自分のベッドへと静かに戻っていくラショウ。
 自分の隣のベッドで寝ていたアシュラは、まだ布団にくるまったまま静かに寝息を立てていた。

(……よかった。まだ寝てる……)

 昨日のぐずぐず酔いの記憶が、ふわりと蘇る。

(……あの様子、さすがに覚えてないよね……)

 ラショウは小さく微笑むと、控えめに身支度を整え始めた。

 ──そして、ほどなくして起きてきたのはレイラ。

「……ふわ……あれ、ラショウ……?」

「あ、おはようレイラちゃん。……あのね、朝風呂、入りに行かない?」

「えっ……行く……!!」

「うん! 行こう♪ シエリ先生は……」

「…………すや……すや…………」

「……寝てるね。……レイラちゃん、起こすのも申し訳ないから、ふたりで行こっか」

「……うん。……ごめんなさいっ先生……」

 まだ寝息を立てているシエリはそのままに、ふたりは連れ立って朝の涼しさが残る露天風呂へ。


 ◇


 ──浴場には誰もおらず、空はうっすらと白み始めていた。

「……朝の空、綺麗……」

「うん……」

 ふたりはお湯に肩まで浸かり、しばし無言で風と湯の感触を味わう。

「……昨日、すごかったね」

「ふふ……うん。兄様があんなに酔うなんて……ビックリさせちゃってごめんね」

「……えっ、ううん……大丈夫……!」

 レイラは湯に頬を沈めたまま、目を細めて──。

「……ラショウ……優しいね。アシュのこと、すごく大事にしてる」

「え? えへへ……。……うん……だって……兄様は、私にとって……ずっと大きな存在だから」

 ラショウの声は静かで、温かい。

「……レイラちゃんのことも、大好きだよ」

「……えっ……」

「いつも助けてくれて、支えてくれて……ありがとうね」

 湯気の中で、ラショウの瞳が柔らかく揺れている。

「……!」

 レイラは一瞬戸惑った表情のあと、照れくさそうに微笑んだ。

「……こちらこそ。ラショウ、ありがと」

 言葉では照れてしまうけれど──。
 お湯の温かさに包まれたその時間は、確かにふたりの心を近づけていた。


 ◇


 ──時刻は、朝食の少し前。

「……ぅ……ん゛ん……」

 唸り声を上げたのは、リル。
 目元を擦りながら、ベッドの上で軽く身を起こす。

「……あー……風呂……もう1回入りてぇ……」

 そう呟いた直後──。

「うッ、ああああッ──!!?」

 近くから、突如として声を上げながら跳ね起きる人影。

 ──アシュラだ。

「っ!? ど、どうした……!?」

 リルが驚いて振り返る。

 アシュラは寝乱れた髪のまま、顔を両手で覆って蹲り──。

「……なんだ……夢か……最悪な……」

「あーそれ夢じゃねえから」

 リルの即答が刺さる。

「……えっ」

「お前、昨日全員に抱きついてたぞ」

「……えっっ……!?」

「泣いて、叫んで、抱きついて、ラストは薊野さんに体預けて寝た」

「……んえ……!!?」

「あと、オレに『もっとお前に甘えたい……』って言ってた」

「わ゙あああああ!!」

 顔を真っ赤にし、アシュラは枕に突っ伏す。

「……おわった……」

「とっくにな」

 ──隅でそれを見ていたセセラは、歯磨きをしながら独り言をぼそっと。

「二日酔いの症状より恥ずかしさで潰れそうになってんじゃね、あれ」

 枕の隙間から顔を覗かせるアシュラ。

「……記憶がない…………皆と顔を合わせづらい…………」

「ほんとだな。オレまだ思い出し笑いできる」

「やめてくれリル……頼むから……」

 そんなこんなで、ぎゃあぎゃあ騒いでいるうちに、窓の外からそよ風が吹き込んできた。

「おはよ……いい天気だな」

 セセラはふたりへ向けて呟く。

「なぁ朝風呂、行こうぜ。寝汗かいたろ?」

「……はい……地獄を流してきます……」

 アシュラはふらふらと立ち上がり、タオルを手に取った。

「……倒れないよう気をつけてな?」

「……はい……」

 朝風呂へと向かう男子組。

 ──すると。

「…………フフ……」

 シエリの笑い声が小さく部屋に響いた。

 じつは起きていたシエリは、彼らのやり取りを聞いていたくて寝たフリをしていたのだ。

 そんなことは知る由もない男子組。
 その湯けむりの中で、まだ少しだけ──昨日の余韻が残っていた。


  ◇


「……ふー…………」

 ──朝風呂を終えたリルたち。
 全員すっかり目も覚め、脱衣所に用意された冷たい牛乳を飲み干す音が響いていた。

「ん゙ん゙ん゙……!!」

 リルはタオルで髪を拭きながら、満足げに伸びをする。

「……オレ、久しぶりにちゃんと休んだって感じする」

 セセラがその横で髪をぐしゃっとタオルで乾かしつつ、「お前がそう言うと、連れてきた甲斐あるわ」とニヤリ。

「……あの、昨日の件なんですけど……」

 もじもじしながら、誰とも視線を合わせずに話しかけるアシュラ。

「もういいって。なあ? 先生?」

「うん、いいよ。酔ってたんだしね?」

 シエリはくすっと笑っているが、どこかいたずらっぽい。

「でも、私には二度抱きついたけどね?」

「わあああああ!!」

「……おいシエリ先生、ここ……男湯の脱衣所……」


 ◇


 ──そして、朝食会場。

 和洋折衷の豪華な朝食が並び、炊きたてのご飯と焼き魚、温泉卵にフルーツまで揃っている。

「うわぁ……すごい……!」

 ラショウは目を輝かせた。

「朝からこれは豪華すぎないか……?」

 アシュラが恐縮しながら箸を取ると、シエリが首を振る。

「今日だけは全部忘れて、満喫しなさい」

「はい……ありがとうございます……!」

 リルは今日はパン派らしく、トーストにベーコンを乗せてもぐもぐ食べながら、「……オレ、朝からこんなに食っていいのかな……」と零していた。

「いいに決まってるでしょ、ほらお野菜も食べよ」

 レイラはリルの皿にサラダを追加していく。

 セセラはというと、さっそく2杯目のご飯に卵をかけていた。

「やっぱ温泉旅館のTKGは格が違ぇわ……」

「『TKG』だって!」

「……なんだよレイラ……卵かけご飯てぃーけーじーって言うだろ」

「言わないよ!」

 そのやり取りで、またテーブルが穏やかな空気に包まれる。

 窓の外には穏やかな陽射しが降り注ぎ、鳥のさえずりと湯けむりの名残が、まだ空気に漂っていた。

 そして──シエリがふと、皆を見渡して話し出す。

「この旅がキミたちの力になってくれていたら……それだけで十分だよ」

 レイラとリルは、そっと目を合わせて微笑む。
 アシュラとラショウも、どこか柔らかい表情で朝を味わっていた。

 セセラは、湯呑みを手にしながら、ぽつりと。

「……帰ったらまた、忙しくなるぜ」

 それでも。

 誰も、不安げな顔はしていなかった。

「飯食い終わったら行くか。そろそろ帰るぞ。……でも、また来ような。……今度もまた、全員で笑おうな」

 そうセセラが言ったとき──。

「うん……! 薊野さん、本当にありがとう」

 レイラの心に、皆の心に、小さな約束が結ばれていた。



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