婚約者を借りパクされました

朝山みどり

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天幕の中はしんとした。父も母も気まずそうだ。バージルを仕舞いたそうにしている。やっぱり、やっていることがおかしいのはわかっていたんだ。だが、お姉様を優先していたから・・・

「そうか、それはいいね。嬉しいね」とアミスト侯爵はバージルに向かって笑った。それから
「なるほど、なるほど、縁が切れて良かったんだ。アレクサンダー。お前は運がいいな」と言うと大声で笑いだした。

「そうですね。父上も」とアレクサンダー様も笑顔で言った。


「終わったかな?」と声がした。え?まさか!声の主を確認と同時にわたしは最上の礼を取った。


「あぁ楽にしてくれ。解決したかな?」

その声にわたしも周りも顔を上げた。

そして、話しかけられたアミスト侯爵に注意を向けた。


「はい、二組が破局。ひと組が成立する所です。そして我が家は断絶ですなぁ」とアミスト侯爵が答えたが、威厳たっぷりだった。


それに、「うん」と頷いた第二王子殿下は、おもしろそうにお姉様とマイケルを見ている。そして
「おぉしっかり衣裳で意志を主張してるんだな。両親も揃っているし。めでたい。心の通う同士の婚姻を寿ごう」
この瞬間、お姉様とマイケルの婚姻は決定した。

「アミスト侯爵!あからさまに嬉しそうにするな」と第二王子殿下が言うと
「いえ、宰相閣下の未来が楽しみで」
え?宰相?王子殿下が?こんなこと簡単に・・・
「自分の未来が嬉しいだけだろうが・・・」
「誤解でございます。わたくしは国の未来が明るいのが嬉しいのです」とアミスト侯爵は笑いを引っ込めて言った。
誰からともなく
「宰相とは・・・その・・・」と声が聞こえた。
「わたしが引き継ぐ。力不足だろうか?」と第二王子殿下が自信満々で謙遜している。

返事は返って来ずに、お互いの顔を見ている。貴族として反対したほうがいいのに・・・

そして別のことでもわたしは焦っていた。お姉様がわたしに借りたものを今回始めて返さなかったのだ。
今までは、一応、返って来ていた。今回始めて借りっぱなしになった。

別にいいけど・・・なんかこう、バッシっと言ってやりたかった。でも今、そんなことを持ち出したら間抜けだ。
あぁああ、もやもやするぅ・・・こうなって嫌じゃないけど!

デニスとアレクサンダー様は微笑みあっているし・・・

でもなんとか、なんとか取り乱さず、安心していられるのは、いつのまにか繋がれたデニスの手のおかげ?
「外の空気を吸いに行きましょう?腹黒がうっとうしい」とデニスは囁くとゆっくりと天幕を出た。

視線を感じた。そりゃ、興味あるよね。なかでなにが起こったか。なにを見たか、聞きたいだろうから。


説明しないといけないだろうか?これこそ力不足だ。無理。ううううっぅううと悩んだが

「さぁ秘密の語らいですね。レイ」と腰に手を回されると、全部が吹き飛んだ。


庭の隅のあずまやは、人目をさけることが出来ない。どこからも丸見えの場所だ。

「ここは秘密の語らいには最適だ。わたしたちに近づく者はすべて見える。こちらも見られているが・・・見られても困らない。声は聞こえないし。二人でいる所は見せたい気分だし」とデニスは言うと

「どこから話せばいいかな?最初からだけど。いつが最初なんだろう?」と遠い目をした。


「あのね。怖がらないでね」とデニスは言った。
わたしが戸惑いながら頷いたら
「僕は帝国で生まれて、アミスト侯爵家の遠縁なんだ。子供の頃アミストのうちに遊びに来て、偶然、君を見かけたことがあるんだ。郊外の湖で、夏。
僕はレイに一目惚れって言うのをしたんだ。それをアレクに言ったら自分が婚約しておくって言ったんだ。そしたら誰にもとられないだろう?
それで婚約を申し込んだんだ。ちゃんとレイチャルって申し込んだのに、クリスティーンに入れ替わっていたんだ。アミストのおじさんも言ってくれたんだが、レイはマイケルと婚約しているから無理だって言われたって・・・おじさんは忙しくてそれ以上は出来ないけど、自力でなんとかするなら手伝うって言ったそうだ。それでアレクは婚約者との付き合いは最低限にしていたそうで・・・僕がこちらに来れるようになったら、アレクは入れ替わりで帝国に言ったんだ。正直アレクは趣味の歴史研究をしてるよ」

「まぁ」

「だけどね、アレクが言うにはマイケルと君はすごく仲良しで、割り込む隙がないって。だけど僕は諦められないし、君の幸せの確認をしたくて来たんだ。そしたらなんと君がお世話係りになってくれた。偶然に感謝した。だけどアレクの話とは違っていた。だったら、僕がレイを守って幸せにすればいいって思った。レイ。僕を見てくれないか?レイの望みの通りの僕になる。あの王子を追い落として宰相にもなるし、騎士団団長だっていい。王位だって」
「そこまで!」なに調子に乗って言ってるの。デニスったら。

「今のままでいいわよ。かび臭い図書館に入るのも嫌じゃないし」

「それは嬉しい。それなら宰相はあの腹黒王子でいいな」
「どうして、アミスト侯爵は宰相をやめるの?アレクサンダー様も後を継がないって・・・それって」と言いかけてわたしは、こそこそ辺りを確認した。
「大丈夫。ここの話は誰にも聞かれない。僕は誰にも言わない」とデニスが言った。
わたしはデニスを見た。彼は頷いた。
「宰相が王子殿下と言うことは王室の権力が増しませんか?」
「あぁ王権が強化される」
「それってあまりよろしくないのでは?」
「そこに気づくんだ!レイ。最高!だけど、僕たちが心配することじゃないよ。自分のことを大事にしたらいいんだよ」

デニスの目は多くのことを語っていたが、彼が言葉にしたのはこれだけだ。
わたしは返事をしようと彼のほうを向いた。
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