手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり

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第十三話

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祖父目線
エリザが出て行った。小さい頃は本当に可愛かった。それが、息子のあとを継いだ途端にケチくさい女になりおって。おまけにどこでかぶれたのか、領民のため、領民のためとほざいて、出費を削る。
貴族の矜持はどこにいったか。すると意外にもあの阿婆擦れ母娘が、わかってくれた。
そうだ。貴族らしくない領主はいらない。わたしはエリザを取り除く決心をした。


念願の議長就任の祝いをと思ったが、時期を逸している。そこで結婚式の招待状をたくさん出した。
最近にはめずらしい大きな催しは大いに喜ばれた。

そうしたら、なんとラーラがあの母親を遠ざけたいと言い出した。あの女も最近は弁えてきたようだが、いないならいない方がいい。

大いに賛成して、あの女を領地に閉じ込めた。

そうしてなにもかもが上手く行きそうだというのに、テリウスがわたしのもてなしに意義を唱えたのだ。

「費用がかさみます。そのグレードのワインは最近、希少価値がついて値上がりしています。他のワインにして下さい」だと・・・

なに言っているんだ。あのボトルをどんどん開けるのに価値があるのだ。

「わかったその分はわたしの持ち金から出そう」と言うと
「それなら、いいでしょう」としぶしぶ返事が返って来た。

バカめが。領主の指輪のことを忘れておるな。領主教育をきちんと受けてない成り上がりが・・・
あの時、ラーラが指にはめて遊んでいて、すっぽ抜けたのを拾って置いたのだ。

わたしは、その指輪を使って借金をした。この借金は領主の借金だ。
ついでに、あの香木の棺を買った。今頃は材料が揃っているだろうと思って問い合わせたら、取り置きしてくれていた。

「ご存知ですか?東の国では、こういうのを早くから用意するのは縁起が良くなると言われています。厄を持って厄を払うそうなんですよ」

なるほどと思って、代金も先に払った。もちろん借金で。こうして置けば、面倒な手配は半分済んでいるから、わたしの死を家族はゆっくりと悲しめるだろう。

それに最近は平民が貴族との橋渡しを求めて訪ねて来るようになって、忙しくなった。
有利な投資の話も舞い込んで来る。さすがに台頭して来る平民は儲け話をよく知ってる。
時代に遅れる貴族が没落していくのは仕方ないのかも知れないな。
愚か者の自業自得ってことだな。

◇◇◇◇
ラーラの母親目線
死にかけていたあの女がとうとう死んだ時、気落ちした彼を慰めた。そしてこう言った。
「お嬢様はお一人になって泣いてませんか?わたしは卑しく学はありませんが、子供が好きです。一緒に泣くことは出来ます。慰めることは出来ます」そしてラーラを見て
「あの子も優しい子です。一緒に遊んだり、慰めたり出来ますよ」

「ありがとう、迎えに来るよ。待っていて」と言うと彼は帰って行った。

そしてわたしは伯爵夫人になった。下町の小商いの娘は出世した。

一生懸命、貴族に馴染もうとした。娘のために道を開こうとお茶会にも参加した。馬鹿にされても歯を食いしばって笑った。

だのに誰もわたしの苦労をわかってくれなかった。それでも貴族らしく鷹揚に笑った。
そしてラーラの縁談を探して貰った。伯爵令嬢のラーラに相応しい縁談はなかなか見つからなかった。
子爵だの男爵だのは問題外だ。最低でも伯爵。それは譲れない。
だのに旦那様が死んでしまった。縁談くらい決めといて欲しかった。

家を仕切るようになったエリザは、ケチになった。
縁談はない。そこで思い出した。前に旦那様にふざけて言った『ラーラに家を継がせて』これだわ。伯爵じゃないの。ラーラだって伯爵の娘よ。
急がないとテリウスは結婚だと浮かれて準備を始めている。どうすれば?・・・!

わたしはテリウスを誘惑した。お城勤めの甘ちゃんなんていちころ・・・
わたしを貪るようになった。そして結婚を伸ばし、伸ばしするようになった。

そしてやっとあの面倒な義父を懐柔することが出来た。やっとわたしとラーラを認めてくれて、エリザを追い出せた。

エリザがいなくなると、全てが上手く行った。

そしてラーラとテリウスが結婚することになった。
近頃少なくなった貴族らしい派手な華やかな披露宴をすることになった。
さっそくドレスを作ろうとしたら
「お義母様、ドレスは手持ちで充分ですよ。あなたは花嫁の母親ですよ。目立つ必要はありません」とテリウスが言い出した。
なに!この恩知らずが・・・

「そうね、ママ、いえお母様は沢山持ってますから、作る必要はないですわ」とラーラまで言い出した。
「そうだね、母親は地味なくらいがいいだろう」と義父も言い出して、三人が口を揃えて同じことを言い、頷きあった。

信じられない。一家の要のわたしが地味でいいはずがない。これからのお茶会ではわたしの衣裳の話題で賑やかになるのに・・・

それで、あのアドレーの所へお金を借りに行った。まんざら知らない仲じゃないし・・・話を聞いた彼はわたしに同情して快く貸してくれた。


それなのに、ラーラが信じられないことを言い出した。
わたしがそばにいると、貴族はラーラが庶子だと言うのを忘れない。下品な女が母親だと貶めると言いだしたのだ。

そんなことはない。わたしは今ではお茶会の人気者だ。わたしがいると楽しいと皆さんが歓迎してくれる。

そう言ったが、ラーラは冷たい表情で
「それは道化として笑われているのよ。わかってないの?」と言った。

なんですって、わたしの苦労を・・・苦労をなんだと思っているの。
何不自由ない生活が出来たのは誰のおかげと思っているの。

だったらいいわ。最初に戻ればいいのよ。

わたしは領地に行っておとなしく過ごしたが、庭師を懐柔して王都に戻った。

アドレーを頼れば、お金を貸してくれた。そしてお茶会仲間に連絡を取った。
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