【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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海へ

58 素敵なハゲ

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 俺とギアナ様は言葉に詰まってしまった。ジュールは楽しそうに屋敷で働いていた。でも、心のどこかで自分のしたことを悔いていたんだろう。そして、たまたま知ったのだ。人魚のうろこの話を。

「ねえ!お願い。リト兄様!ギアナ様!」

「ジュール……痛かったでしょう?」

 下手くそに巻かれた包帯から赤い血が滲んでいる。ジュールはちょっと下を向く。

「……うん……びっくりした……」

 人魚が自分のうろこを剥がす。俺は人魚じゃないからわからないけれど、血が出るほどなのだからとても痛かっただろう。そんなジュールの心を無碍になんてできるわけないじゃないか。

「ありがとう、ジュール。ジュールの贈り物は凄く、凄く嬉しい。でも、俺とギアナ様は悲しいよ。自分の弟が怪我をして喜ぶ兄がいると思うかい?」

 はっと顔を上げてこっちを見る。尻尾を足に変えて走り回る、可愛い利発な人魚の小さな弟。

「……ごめんなさい、リト兄様……」

「謝ることはない、ジュール。俺が泳げないのが……いや、悪い者など誰もいない、そうだな?」

 俺はにっこり頷いた。

「俺たちの心配をしてくれたんだよね。ありがとうジュール」

「えへ……えへへ……!」

 ジュールの怪我はしばらくすると血は止まるだろうけれど、鱗は生え変わってこないだろうと言われた。

「尻尾にでっかいハゲができちゃった!」

 血が止まった後、傷跡を見てジュールは笑う。これは格好悪いハゲじゃなくて、大好きな兄様達の無事を願ってできた素敵なハゲなのだとみんなに教えてあげられるように。


 俺とギアナ様はジュールからもらった鱗をごくりと飲み込んだ。大きな鱗だったのに、口に入れて嚥下すると飲み込んだ、という感覚が伝わってくるが、引っかかって苦しいと言うこともなかった。本当に海の中でおぼれなくなったかもしれない。でももしそんな奇跡が起こらなかったとしても、ジュールの優しい気持ちがずっと体の中にある気がして、とても嬉しかった。

 予定よりかなり遅れて、俺とギアナ様はまた船に乗り込んだ。ジュールはまだ傷が痛むようで包帯にぐるぐる巻かれていて

「いってらっしゃい!」

 と、笑顔で送り出してくれたし、屋敷のみんなも

「無事で帰ってきてくださいね!」

 と、言ってくれた。ありがとう!

 船は旅と呼ぶ程の時間を過ごさずにすぐに隣の港についてしまった。ここら辺の海は、人魚達がたくさんいて交通整理みたいな事をしてくれるので、事故もほぼないし、座礁もほぼ無い。
 もし、転覆なんかの事故が起こっても海の王国で保護してくれたりと便宜を図ってくれる。

「フォレストーン商会には頭が上がらないっすよー」

 なんて本気か冗談が分からない事を人魚達が言う物で、マルスさんはウキウキと売り上げを計算する毎日を送っているらしい。

 帆船いっぱいにぴゅーやんが風を吹き込み、人魚達が先導する船はとても早かった。本当に滑るように海面を行き、とても気持ちいい。
 
「……リトぉ……」

「はーい、今行きますね!」

 船の景色はあまり堪能出来なかった。溺れないかもしれないが、やはり水は苦手なギアナ様は船室に引きこもり丸くなっていたからだ。

 いつもあんなにかっこいいギアナ様の情けない姿はとても可愛かった!ふふ、本人には内緒にしておくけどね!



 

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