【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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海へ

57 鱗

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「俺も行く、異論は認めない」

「はい」

 全員それしか言えなかった。

「ギアナ様がいない間にフォレストーン商会をでっかくしておきますよ」

 冗談まじりにマルスさんはいうがやはり不安に思う所もあるのだろう。しかし、それは口には出さない。マルスさんなら本当に大きくしそうだしね。

 頼む、そう笑うギアナ様は、商会の権利書の全てをマルスさんの名義に書き換えたそうだ。凄く思い切りのいい判断をしている。そういう所もカッコいいなぁって思うんだよね!

「今日から、俺も一商人だ。マルス様って呼ぶ事にするかな?」

「止めて下さいよ!ギアナ様!」

 俺とギアナ様の旅支度は着々と進んで行く。お母様にも遅れることは手紙で出したけれど、行かないという選択肢は無いんだ。

「早く結婚を認めて貰わなければ……いつまで我慢出来るか分からん……」

 ぶつぶつと呟いていたギアナ様を見た時、驚いたような……嬉しかったような、複雑な気分だった。


 出発までもう数日という所でミミーが俺の元に駆け込んで来た。

「リトさん!ジュールが!怪我して!血が!」

「ええ?!」

 急いでジュールの部屋まで走って行くと、元気そうだが尻尾に包帯を巻かれたジュールがベッドに転がっていた。

「あれ?リト兄様、どうしたの?」

「ジュール!怪我したって!」

 きょとんと目を丸くしてから

「ミミーでしょー?それ」

 と、笑う。あれ?違うの?

「もー違うって言ってるのにミミーってばまた勘違いしてるんだもん!」

「で、でもその包帯は……?」

 キラキラときれいな尻尾のお腹との境目にはぐるぐると白い包帯でがんじがらめだ。

「これもミミーだよー!大袈裟なんだもん!ねえ、リト兄様。ギアナ様も連れてきてよ。僕、ちょっと尻尾になっちゃって上手く歩けないんだ」

「分かった」

 ニコニコと笑うジュールは誇らしげで、嬉しそうで。尻尾を足にする魔法が使えないのは気になるけれども、ジュールのしたい通りにさせてみようと思う。
 ギアナ様はすぐ見つかって、2人でジュールのベッドの側に来た。

「どうした?」

 側にあった椅子に腰を下ろし、ギアナ様は優しく聞いた。目線を下げて、小さい子供の話を聞いてあげられる優しい人だ。

 2人とも手を出して、と言うので差し出すと手のひらの上にキラキラする何かをジュールは乗せた。

「1番大きくて2番目にきれいなのはギアナ様に、2番目に大きくて1番きれいなのはリト兄様にあげる」

「これは?」

 俺がジュールの答えを聞く前に、ギアナ様はジュールを大声で叱り付けた。

「馬鹿野郎!人魚が自分の鱗を剥ぐんじゃない!!」

「え?」

 う、鱗?!よく見ると虹色で透明なキラキラは年輪のように重なった波紋模様があって……大きな魚の鱗だ!え?!ジュールの?!

 ギアナ様の大声に首を竦めたが、ジュールは自分の意見を押し通した。

「僕は小さいから、リト兄様の旅について行けないの!分かってるの!帰ってくるのいい子で待ってる!でも、でも僕だって心配なの!」

 一回切って言い放つ。

「ギアナ様泳げないから!リト兄様が海で溺れたら死んじゃうの!!」

「うっ!!!」

 ジュ、ジュール!誰しも完璧な人は居ないんだよ?!?!べ、別に俺はギアナ様が泳げなくても問題ないと思ってるよ!俺も泳ぎは得意じゃないけどね?!俺、練習するよ!?

「だから……だから!僕、知ったんだ!人魚の大事な鱗を飲めば溺れなくなるって!だから僕、2人にもう海で困って欲しくないの!」



 
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