【完結】その少年は硝子の魔術士

海へ

59 俺が助けてあげますよ

　俺は目をパチパチさせた。

はわ……かっこいい……。

「どうした？リト」

「いえ！大丈夫です！」

　ついさっきまで、船室にこもって丸くなっていた人とは同一人物とは思えないギアナ様が地上に立っている。

「道中、ギアナが護衛なら心配ないな」

　狐獣人のフォルターさんがニコニコと笑って、荷物の最終チェックをしていた。
　俺とギアナ様はフォルターさんの荷馬車に同乗して北へ向かうのだ。

「これも久しぶりだけどな。腕は鈍ってると思うぜ」

　ギアナ様は動きやすそうな服に、腕には金属製の小手をつけている。小手をつけた腕をプラプラさせて、そう言った。

「お前は基本武闘派だし、大丈夫だろ！地上なら」

「言うなっ！」

　あっやっぱりギアナ様が水が苦手で泳げないの知ってるんだ。

「ギアナに追われたら水に飛び込めは有名な話なんだぜ！リト！」

　へー！俺は思わず声を上げしまった。ギアナ様面白い！

「フォルター……この辺に水たまりはないが良いのかな？？」

　きゃー！とフォルターさんは俺の後ろに回り込んだ。

「リト！助けて！」

　冗談でやってるんだろうけど、大人の2人がやると、何とも面白い。

「あ！フォルターさん、ギアナ様はなんと溺れなくなったんですよ？これからは水に逃げても無駄かもしれませんよ？！」

　なんだってーーー！と叫んだフォルターさんは本当に面白い人だ。

「ギアナめ……リトと言う弱点が出来たと思ったら水を克服してくるとは……恐ろしい奴だ！！」

「ったく！いつまでリトにくっ付いてるんだ！」

　バリッと音がしそうな勢いで、俺を引き剥がす。ギアナ様はやっぱりかっこいいな！

　荷物の商隊の1番後ろに乗せて貰い出発した。

「気をつけてー！途中ギアナに襲われるなよーー？」

「えー？フォルターさん？なんて言ったんですかーー？」

　ガタゴトと揺れる馬車の音で、良く聞き取れなかった。

「何でもないってよ！」

　ギアナ様はまだ不機嫌そうに言う。隣に腰を下ろすと、笑っている。

「やっぱり海の上はゾワゾワする」

「俺達は人魚じゃないですからね」

　ジュールの鱗の効果を試したい気もするけれど、やっぱりちょっと怖い。俺も海面からあのタコの足がにょろりと出てきそうな気がしたもの。

「でも今度何かあったら、俺は迷いなく飛び込めそうだよ」

「ありがとうございます！もし、ギアナ様が溺れたら俺が助けてあげますから。安心してくださいね」

　まさか俺にそんな事を言われると思っていなかったのか、ギアナ様は青い目をまん丸に開いた。
　この人はきっと常に守る側の人だったんだろうな。俺だって父さんが亡くなってからは守る側の人になったんですからね！

「……リト、ずっと一緒にいてくれな？」

「はい！」

　ギアナ様はぐりぐりと頬をすり寄せてくる。その大きな猫みたいな癖にはもう慣れてしまった。
　もしこの馬車に他の獣人が居たら

「うわ、マーキングしてる！どんだけだよ！」

　と、ドン引きするかもしれなかったが、幸いにも誰もいないし、俺も獣人の行動には詳しくないし……別に嫌じゃないから、されるがままだった。