【完結】冤罪で処刑された令嬢は、幽霊になり復讐を楽しむ

金峯蓮華

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レティシア・バーレント

10話 鍛えなければ

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健康は取り戻したのだが、基礎体力が全く無い。どうやら体力は持ち越さなかったようだ。

 小さい頃からベッドの住人だったレティシアは運動が足りない。筋肉は無く、骨も細い。少し歩くと息が切れる。これはなんとかしなくては。

「レティ、無理はダメ。また具合いが悪くなったらどうするの?」

「そうだよ。無理しないで」

 両親は心配でたまらないようだ。大切な大切な末の姫。家族も使用人も溺愛モードで超過保護なので困る。

 色んな親がいるものだと思う。

 ゲイル公爵家の両親は女だからと男に頼らなければ生きていけないようになるなと物心ついた頃から鍛えられた。

 ひとり娘だった為、将来は女公爵となる。心身ともに強く無くては侮られてしまう。貴族など、弱いところを見つけると、そこをつついてくるろくでもない奴らだからだ。

 レティシア・ゲイルの頃の私は身体も大きく、運動神経も良かったので、幼い頃から騎士団の少年部で鍛錬していた。公爵を継ぐまでの間、騎士になってはどうかと、騎士団長(ブルーノの父親)からスカウトされていたのだが、王家のたっての希望で8歳の時に王太子の婚約者になった。それからも王太子妃教育の合間に身体はしっかり鍛えていた。

 断罪された時、ブルーノに腕を捻り上げられ、骨が折れたなんて真っ赤な嘘だ。太くて強い骨が折れる訳がない、あの時、ブルーノに反撃していたら、ヴェルナー殿下やフィリップ、コンラートも一網打尽にできたかもしれない。様子を見ようと思ったばかりに殺されてしまった。

 ヴェルナー殿下は自分より強くて賢い……自分で賢いなんて言っちゃったわ。また。傲慢だとか言われちゃいそうね。

 まぁ、いいか。とにかく殿下は自分よりできる婚約者に劣等感を感じていて、ミランダにつけ込まれたのよね。やはり王の器じゃなかったんだわ。

 今は北の塔で寂しく暮らしているのかしらね。ミランダを死罪にせず、ヴェルナー殿下と一緒に北の塔に幽閉にしてあげれば良かったのに。その方が面白かったのにね。でも、まぁ、もう終わった事だ。

 幽霊になって復讐できたことは、楽しかったし、違う人間になって違う人生を過ごすのも、それはそれで楽しそうだ。

 レティシア・ゲイルの記憶を持ったままレティシア・バーレントになったのよ。これってひょっとして無敵かもしれない。しかも姫だよ。姫。とにかく今は身体を鍛えよう。

 私は毎日の散歩を始めた。少しずつ距離を伸ばす。侍女達の目を盗んで、ストレッチや簡単な筋トレも始めた。

 それにしても弱っちぃ。誰がこの身体にあった鍛錬の仕方を教えてくれないかしら? 前は元々基礎体力があったので鍛えれば鍛えるだけ強くなったけど、今はあまりにも体力も筋力も無いので、うまく筋肉がつかない。

 まぁ、とりあえず体幹を鍛えるしかないな。弱い身体の鍛え方は図書館にでも行って調べてみよう。

 次の日は医師の診察日だった。

「もうすっかり、大丈夫ですね。陛下から伺いましたが、運動をされているようで良いと思います」

 そうだ、医師に聞いてみるか。

「先生、私、せっかく病も治ったので、もっと身体を強くして、元気になりたいのです。運動や食事の指導をして下さる方をご存知ないでしょうか?」

 医師は腕を組み首を捻っている。

「そうですね。騎士団ならそういうのは得意だと思いますが、姫様の求めているものではないですよね。探してみますので少しお待ちいただけますか?」

「もちろんです。もう、ベッドは飽き飽きなのです。せっかく元気になってもこの体力では思うように動けなくて辛いのです。よろしくお願いします」

 頭を下げると恐縮された。どうやら姫は頭を下げてはいけないようだ。幽霊もよかったけど、姫もいいなぁ。


 一週間程して、医師はとある女性を私の前に連れてきた。

「姫様、遅くなってすみません。やっと陛下の許可がおり、約束を守ることができました。こちらはフィーネ・クーア。クーア侯爵家の令嬢です」

 めちゃくちゃ美人で色っぽい。ボンキュッボンで年齢不詳な感じ。この人が私を鍛えてくれるのか?

 どう見ても筋肉がついているようにも強そうにも見えないが大丈夫か?

 私が首を傾げているとフィーネはにっこりと微笑んだ。

「殿下、はじめまして。クーア侯爵家が長女、フィーネと申します。フィーネとお呼びくださいませ」

 めっちゃ綺麗なカーテシーだ。ぶれないのは体幹が鍛えられているからだな。カッコいい。

「こちらこそよろしくお願いします。私のことはレティシアと呼んでください」

 どう見ても年上なので敬語を使ってみたら、フィーネは目を見開き驚いているようだ。

「勿体のうございます。普通にお話し下さい。殿下もご存じだと思いますが私達クーア家は表向きの顔は外務の長ですが、裏の顔はこの国の暗部でございます」

 いや、知らないわ。そんな記憶は全く無い。私は知らないことがたくさんあるようだ。でも、暗部か。面白そうだな。フィーネは話を続ける。

「クーア家の女は皆、幼い頃から戦力になるために鍛えられます。見た目は女性らしく、中身は強くです。男性とは違う鍛え方で筋力をつけ、戦いに負けない力をつけます。殿下はそこまでは力をつける必要はないですが、一緒にゆっくり基礎体力からつけていきましょう」

「私も戦える力をつけたいです」

 思わず言ってしまった。

「え? 戦える?」

「あ……それくらいの気持ちで頑張りたいと思って……」

 ごまかせたかな?

「そうですか。あまり無理はしないで体力と、しなやかな筋肉をつけていきましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 楽しみでニヤニヤしてしまう。

 その日から、フィーネとマンツーマンの暗部の女子トレーニングがはじまった。




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