【完結】冤罪で処刑された令嬢は、幽霊になり復讐を楽しむ

金峯蓮華

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レティシア・バーレント

18話 ゲオルグの今

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 競技会以来、フランチェスカと時々、お茶会を楽しんでいる。ゾイゼ家は親戚で公爵は父とも仲がいい。私達が仲良くなることに何の問題もなかった。

「レティ、私ね。婚約が解消になったの」

「うん。父から聞いたわ。リッケン卿が、廃籍されたんでしょう?」

「ええ、競技会で私達に負けたことで、侯爵が腹を立てて、折檻したあと叩き出したらしいわ」

 酷い親だ。

「弟と再婚約しないかと打診されたけど、断ったの。もう、あの家に関わりたくないわ。うちの方が爵位が上で良かったわ。向こうもゴリ押しできないものね」

 確かに爵位が下なら、偉そうにゴリ押しするだろう。

「でも、ゲオルグが行方不明になっているの。酷い折檻を受けてかなり怪我をしているようなので、あんな奴だけど、長年婚約者だったし、気になっているの」

 目の前に座るフランチェスカは肘を付いて両手の指を緩く絡ませ、不安そうな表情をしている。

「ゲオルグは保護しているわ」

「えっ?」

 フランチェスカは驚いたのから目を丸くしている。

「あの父親や兄が気になったので。競技会の後からフィーネの家の手の者に潜入してもらっていたの。折檻を止めることはできなかったそうだけど、屋敷から放り出されてすぐ保護して病院に連れて行き、手当を受けさせたわ。何箇所か骨折していたし、鞭で打たれて皮膚が裂けていたり、火傷もあったらしくて、かなり酷い状態だったと報告を受けているわ」

「今も病院に?」

「いえ、今はクーア侯爵家で療養しているの」

「フィーネ様が拾ってくれたのね。良かったわ」

 安心したような表情を浮かべた。

「本人次第なのだけど、身体が良くなったらラルフに預けようと思っているの。もう、廃籍されてリッケン家とは関係ないし、あの能力を埋もれさすのは勿体無いものね。フランはどう思う?」

 フランチェスカは眉根を寄せた。

「そりゃ、ラルフ様はゲオルグの憧れの人だからゲオルグは喜ぶだろうけど、あの性格よ。大丈夫かしら?」

 確かに小さい頃から父親に刷り込まれている偏見はそう簡単にはなおらないだろう。

「それは、クーア家に任せましょう」

 クーア家に任せておけばなんとかなるだろう。

「でも、良かったわ。あのまま野垂死なれたら寝覚めが悪いもの。さすがレティね。やっぱり凄いわ」

 いや、別に私は凄くはない。王女だから周りが動いてくれるだけだ。


 それからしばらくしてゲオルグがフィーネに付き添われ、王女宮にやってきた。まだあちらこちらに包帯が巻かれていて痛々しい。

 ゲオルグは私の前に跪いた。

「王国の咲き誇る花であられる王女殿下にご挨拶申し上げます。元リッケン侯爵家が次男、ゲオルグと申します。今は廃籍され、平民の身、殿下の御前に姿を見せる無礼をお許し下さい」

 たどたどしく挨拶の口上を述べる。

「ゲオルグ、顔を上げて頂戴。クーア家はどうだった?」

 少し顔を上げたゲオルグはあの時より少し痩せて精悍な顔つきになっていた。

「クーア家で私の間違った考えや驕り高ぶっていた心を綺麗に洗い流してもらいました。今はただ、生家の父や祖父、兄に嫌悪しかありません。そして今までの自分を恥じています。殿下、あの時はご無礼致しまして申し訳ありませんでした」

 まるで別人のようで驚いてしまう。フィーネの話では、クーア家独特の手法で真人間に戻したらしい。ゲオルグの素は善良な人間だったからなんとか元に戻れたという。

 さすが我が国の暗部。クーア家はかなり怖い技を色々持っているようだ。ゲオルグから男尊女卑の思想を消し、高圧的なところも消した。そして、父や兄を嫌悪するようにマインドコントロールをしたのだろうか? あとでフィーネに聞いてみよう。

「ねぇ、ゲオルグ、あなたに提案があるのだれど、あなたさえ良ければ、ラルフの弟子にならない? ラルフの補佐として護衛騎士の修行をしてもらいたいの。興味ないかしら?」

 ゲオルグは大きく目を見開き固まっている。まさかこんな事を言われるなんて思っていなかったのだろう。

「シュタイン卿の弟子、補佐ですか?」

「嫌なら無理にとは言わないわ」

 ゲオルグは首を振る。

「無理などとんでもない。身に余る光栄です。が、しかし、姫様にご無礼を働いた私にそんな資格はありません」

「資格とか関係ないわ。私はあなたを良い護衛騎士になれる人間だと評価したの。別に私に忠誠を誓えとか言ってるんじゃないわ。あなたは本来のあなたで生き直してみたらどうかと思うの。まだ14歳だもの。やり直せるわ」

「やり直せる……」

「ええ」

 ゲオルグはどうしていいのかわからないようだ。

「嫌じゃないようなので決まりね。それから、クーア家の養子になってもらうわ。今日からゲオルグ・クーアと名乗ってね。確か7男だったかしら?」

 フィーネの顔を見ると頷いている。我が国の暗部であるクーア家の実子はフィーネともうひとつだけであとは全て養子らしい。信頼のできる者を養子にし、影として鍛えていくそうだ。ゲオルグは影になる訳ではないが、リッケン家と完全に決別するためにクーア家に属してもらうことにした。

 ゲオルグは跪き涙を流している。それにしても凄い洗脳だな。あの時のゲオルグと今のゲオルグが同じ人間だと思えない。



 ゲオルグをラルフに預け、私は自室に戻った。

「ねぇ、フィーネ、クーア家の洗脳って凄いわね。どうやってマインドコントロールするの?」

 フィーネはニヤリと口角を上げた。

「あれは洗脳を解いただけですわ。ゲオルグは父親からかなりひどく洗脳されていたようで、解くのに時間がかかったみたいです。暴力や暴言を使いながら洗脳したのでしょう。潜在意識の中に父の考え方を受け入れないと怖い目に遭う、痛い目に遭う。そう思って逆らえなくしたようです。早く夫人や屋敷にいるまだ年若い子息、令嬢達も保護して洗脳を解いた方が良いのですが、今はまだ難しいようです」

「そうなの。では、あれはゲオルグの素の姿? そういえば、フランが小さい頃は良い子だったと言っていたわね」

 フィーネは頷く。

「元々、ゲオルグは気が小さく、繊細で優しく性格みたいです。父親が怖くて、暴力を振るわれないために、あんな風になってしまったのでしょうね。廃籍されてよかったですわ」

 早急にリッケン侯爵家をなんとかしないといけないな。まずは屋敷にいる夫人と令嬢達を救出するか。

 父や兄を巻き込んでやるのが早いだろう。私はヨハンを呼び、父と兄に内密に会って話がしたいから時間を作って欲しいと伝言を頼んだ。

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