婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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1-2:実家での冷遇、読書だけが慰め

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 婚約が破棄されてからというもの、私はまるで「見えない存在」になったかのようだった。

 朝食の席では、誰一人として私に話しかけてこない。いや、話題にすら出ない。妹のエリナは、母に向かって新しいドレスの話をしていて、父は新聞を広げたまま、紅茶を一口すするたびに無言で眉をひそめていた。

 まるで私が空気のように扱われる――そのことが、以前よりもずっと辛かった。

 カイル様に捨てられた令嬢。婚約破棄された“失敗作”。

 そのレッテルが、私の肩に重くのしかかっているのを感じた。

 おそらく、家族にとって私は、“恥”だったのだろう。

「まったく、クラリスには困ったものね。せっかくの縁談を無駄にするなんて」

 そう言ったのは、母だった。私が部屋を通りかかったとき、扉の内側から、彼女と父の声が聞こえた。

「地味な上に、いつも本ばかり読んで……これでは、貴族の妻など務まらないわ」

 心臓の奥が、じくじくと痛んだ。

 私は何も言わず、自室に戻った。

 ドアを閉め、鍵をかける。

 そして、窓辺の椅子に腰を下ろして、本棚の中から一冊を取り出した。

 薄い装丁の詩集だった。お気に入りの詩人が、静かな言葉で綴った、小さな祈りのような詩たち。

「――わたしの心に、灯りをともすのは、誰でもない、わたし自身の言葉」

 ページをなぞりながら、私は静かに息を吸い込んだ。

 ――わたしは、間違っていたのだろうか。

 社交の場では、うまく笑えなかった。パーティでは、話の輪に入れなかった。けれど、それでも私は、クラリスなりに努力してきたつもりだった。

 本を読んで、知識を蓄えて、教養を深めて。

 それは私にとって、ただの趣味ではなく、私自身を支えてくれる、かけがえのない“軸”だったのだ。

 でも――誰にも、それを理解してもらえなかった。

 その孤独が、何よりも堪えた。

 けれど、だからこそ。私は、今この気持ちを大事にしたいと思った。

 「ここではないどこかへ行きたい」と願った気持ち。

 「私を否定しない場所があるかもしれない」と思えた、あの瞬間の微かな希望。

 机の上に、アシュベリー公立図書館の求人案内を広げる。

 手が、震える。

 でも、目はまっすぐだった。

「……行こう。わたしに、できることがあるかもしれない」

 この家では、わたしは“失敗作”かもしれない。

 でも、世界のどこかには、わたしの居場所があるかもしれない――。

 そう信じたかった。
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