婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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1-3:アシュベリー行きの決意と出発

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 アシュベリー――それは、王都ルミナスから北東に位置する、小さな田舎町だ。

 地図で見れば、点のような場所。これまでその名を耳にしたこともなかったけれど、今の私には、なぜだかとても眩しく見えた。

 王都のような喧騒も、社交のしがらみもない。あるのは、川と森と、穏やかな空気。小さな公立図書館があって、そこでは司書見習いを募集しているという。

 私は、意を決して申し込みの手紙を書いた。

 けれど、家族には何も告げなかった。

 ――言っても、きっと反対されるだけだから。

 書斎の机に向かい、夜の帳が降りるなか、蝋燭の灯りを頼りに便箋を埋めていく。

 筆を走らせる手は、少しだけ震えていた。でも、不思議と心は静かだった。

 どこか遠くで、新しい自分が呼んでいるような気がした。

 数日後、アシュベリーからの返事は、予想よりも早く届いた。

「ご応募ありがとうございます。図書館長エルネスト・グッドマン氏が、ぜひ一度お会いしたいとのことです。……もしよろしければ、来月初旬にお越しください」

 私は、その手紙を何度も読み返した。

 本当に……道が、開かれたのだ。

 翌日、私は家族に、アシュベリーへ行く旨を告げた。

 食卓の空気が、ぴんと張りつめる。

「は? 何を言ってるの、クラリス」

 最初に声を上げたのは、妹のエリナだった。

「貴族の令嬢が、田舎の図書館? そんな恥ずかしい真似をして、どうするつもり?」

「……私には、それしかないから」

 絞り出すように言うと、母は眉をひそめ、父はカップを静かに置いた。

「勝手にすればいい」

 それが、父の答えだった。

 その一言が、許可であり、見限りでもあることは、言葉にしなくても伝わってきた。

 それでも私は、俯かずに立っていた。

 ひとりでも、前を向こうと決めたから。

 数日後、身の回りの物を簡単にまとめ、私はヴァルデン家の屋敷を出た。

 使用人たちは、誰も見送りに来なかった。

 ただひとり、家の隅で掃除をしていた老女中だけが、小さく会釈してくれた。

「……どうか、お元気で、クラリス様」

 その声に、思わず胸が詰まった。

 馬車に乗り込み、振り返った家は、思ったよりも小さく見えた。

 あんなに広く、冷たく感じていたのに。

 ゆっくりと、車輪が音を立てて動き出す。

 私は、窓の外を見つめながら、そっとつぶやいた。

「ありがとう。そして、さようなら」

 遠ざかる王都。

 やがて、広がる田園風景と、朝霧にけぶる森。

 目指すは、アシュベリー。

 知らない土地。知らない人々。そして、まだ知らない自分に、会うために。
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