婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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5-4:図書館の星降る夜に

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 その夜、私は遅くまで図書館の書庫にいた。
 修復を終えた古書を一冊ずつ丁寧に整理し、並べ直していると、不意に外の静寂に気づいた。

 窓の向こうには、深い夜と――瞬く星があった。

 静謐な闇の中で、本と本のあいだから漂う紙とインクの香り。
 今の私は、間違いなく、ここに居場所がある――そう思えた。

 階下に戻ると、閲覧室のランプの灯りのもと、リュカが座っていた。

 書きかけのメモの横に、小さな包み。

「クラリス嬢、夜までご苦労さまです」

「……まだいらしたんですね。ご迷惑になっていませんか?」

「とんでもない。あなたの静かな勤勉さは、この図書館にとっての“美しさ”のひとつですよ」

 その言葉に、ほんの少し、胸が熱くなる。

「……これ、差し入れです」

 リュカは小さな包みを差し出す。中には、焼き菓子と、干し果物を使った甘いタルト。

「今日の午後、リリアさんに教わって作ってみました。あまり見た目は良くないかもしれませんが……」

「……あの、もしかして、初めてですか? お菓子を作るの」

「……はい」

 小さく笑ってから、私はひと口かじった。

 少し焦げた端も、素朴でやさしい甘さも、その人柄をそのまま閉じ込めたようだった。

「……おいしいです」

 そう言うと、リュカの頬がかすかに紅潮する。

「あなたがそう言ってくださるなら、報われます」

 その言い方が、何とも彼らしくて、思わず笑みがこぼれた。

 沈黙のあと、彼がふと空を見上げた。

「今日は、流星が見える夜だそうです。よろしければ、少しだけ外へ」

「……ええ」

 図書館の裏手、小さな中庭のベンチに並んで座る。

 夜空に、光の軌跡がすうっと流れていく。

「願い事、しました?」

 私が問いかけると、リュカは少しだけ視線を伏せた。

「……ええ。秘密ですが」

「ふふ。なら、私も秘密にします」

 言葉にしなくても、少しずつ――

 お互いの“心”に触れていく。そんな夜だった。

 風がそっと吹き抜け、リュカの肩に、私の髪が触れる。

 でも彼は、そのまま。微笑むだけで、何も言わない。

 それが、なんだかとても――心地よかった。

 私は思う。

 この人の隣で、何気ない日々を重ねていけたら。

 それだけで、きっと……幸せだって、思える気がする。
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