1 / 6
前編
背中はまっすぐで、目線は前の床!
しおりを挟む私は父の命令が嫌いだった。
父が連れてくる『父の大切なお客様』と二人っきりにされて相手をさせられるのだ。
透明の膜から外に出られない私は、膜の中に手を伸ばして私の手を撫でられる。
前は身体に触ろうとして手を弾かれていた。
足や膝に手を伸ばしてきても……なぜか弾かれた。
唯一私の右手だけ触れられる。
お客様だという人は肘までしか入れない。
この膜が、私を……守っているというのだろうか。
手を取られて、脳裏に浮かんだことを相手に伝える。
そしてその大切なお客様から父はお金を受け取る。
私は5歳からずっとこうされていた。
「いやだ」と泣いた。
しかし父は私を鞭で脅して言った。
「これが我が男爵家の家業なのだ」と。
「お前はそのための道具なのだ」と。
母は笑った「お前はあの二人と共に死んだのよ」と。
私が5歳の時に当主だった祖父母が亡くなった。
そのときに私は死んだのだ、と。
言うことを聞かないと鞭で叩かれる。
私には直接あたらない。
全部私の横の床に大きな音をたてて私を脅す。
私にあてないのは私が商売道具だから。
そういう両親のそのときの顔は絵本に出てくる鬼だ。
……怖い、怖くてたまらない。
そんなある日、知らない人たちがたくさんはいってきた。
そして父が恐ろしい形相で私に叫んだ。
「命令だ、いますぐ死ね」と。
「やめなさい!」
「命令だ! 黙れ! 黙ったまま今すぐ死ね!」
両親の言葉に従おうとしたが、目の前の身綺麗な男性が首を左右に振る。
「もういいんですよ。あんな命令に従わなくていい。きみはもう自由なんです」
「じゆう……?」
「そうだよ、アリア。きみはここから出ていいんだ」
「────── 鞭で叩かない?」
「叩かない。約束するよ。ん? 誰かきたね」
振り向いた私の目に映ったのは……
「アリア」
「迎えが遅れて悪かった。アリア、一緒にいこう」
「おじい様、おばあ様……」
私は座っていた床から飛び上がり、二人に駆け寄った。
ポフンッという音と共におばあ様のドレスに顔を埋める。
「よく顔を見せて」
膝をついたおばあ様に顔をあげると、おばあ様は笑顔で泣いていた。
おばあ様は何も言わずに私を強く抱きしめてくれた。
おじい様は私とおばあ様を一緒に抱きしめてくれた。
二人の暖かさが伝わって、私は声をあげて泣いた。
*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:.
「アリア、一緒にいこうか」
「いいの?」
「ええ、もちろんよ」
「新しいお家は綺麗なお花が咲いている野の中にある。きっとアリアも喜ぶぞ」
「アリアの好きな小鳥もチョウチョもいるわ」
「まずは王様に挨拶にいこう。ちゃんとご挨拶できるね?」
「左足を右ななめ後ろへ少し下げてヒザをまげてまっすぐ下におりるの。背中はまっすぐで、目線は前の床!」
歩き始めた少女は祖父母と手を繋いだまま立ち止まり、軽く左足を後ろに引いてヒザを曲げる。
かわいいカーテシーに祖父母は微笑む。
「ああ、そうだ。上手になったな」
「アリアは良い子ね」
今回の事件の被害者が、祖父母に両手を引かれて楽しそうに話しながら光の中へと去っていく。
『彼らのことは任せました』
『死ぬほどの苦しみを与えてくれ』
「はい、お任せを」
届いた声に返事をすると光は集束して消えていった。
117
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。
◇初投稿です。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
義妹がいつの間にか婚約者に躾けられていた件について抗議させてください
Ruhuna
ファンタジー
義妹の印象
・我儘
・自己中心
・人のものを盗る
・楽観的
・・・・だったはず。
気付いたら義妹は人が変わったように大人しくなっていました。
義妹のことに関して抗議したいことがあります。義妹の婚約者殿。
*大公殿下に結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい、の最後に登場したアマリリスのお話になります。
この作品だけでも楽しめますが、ぜひ前作もお読みいただければ嬉しいです。
4/22 完結予定
〜attention〜
*誤字脱字は気をつけておりますが、見落としがある場合もあります。どうか寛大なお心でお読み下さい
*話の矛盾点など多々あると思います。ゆるふわ設定ですのでご了承ください
彼女が微笑むそのときには
橋本彩里(Ayari)
ファンタジー
ミラは物語のヒロインの聖女となるはずだったのだが、なぜか魔の森に捨てられ隣国では物語通り聖女が誕生していた。
十五歳の時にそのことを思い出したが、転生前はベッドの上の住人であったこともあり、無事生き延びているからいいじゃないと、健康体と自由であることを何よりも喜んだ。
それから一年後の十六歳になった満月の夜。
魔力のために冬の湖に一人で浸かっていたところ、死ぬなとルーカスに勘違いされ叱られる。
だが、ルーカスの目的はがめつい魔女と噂のあるミラを魔の森からギルドに連れ出すことだった。
謂れのない誤解を解き、ルーカス自身の傷や、彼の衰弱していた同伴者を自慢のポーションで治癒するのだが……
四大元素の魔法と本来あるはずだった聖魔法を使えない、のちに最弱で最強と言われるミラの物語がここから始まる。
長編候補作品
押し付けられた仕事、してもいいものでしょうか
章槻雅希
ファンタジー
以前書いた『押し付けられた仕事はいたしません』の別バージョンみたいな感じ。
仕事を押し付けようとする王太子に、婚約者の令嬢が周りの力を借りて抵抗する話。
会話は殆どない、地の文ばかり。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる