閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル

文字の大きさ
5 / 6
後編

それは神の思し召しだろう。

しおりを挟む

「はぁぁぁぁ」
「お疲れ様でした」

やっと神官長就任の儀式が終わり、思わず大きく息を吐き出した私を補佐官が労いの言葉をかけてくれる。
彼は前神官長・前前神官長・前前前神官長と長年補佐をしていた。
別に神官長が短命というわけではなく、ただの転任なだけだ。

「珍しいですね。最長任期を望まれるなんて」
「まあ……罪滅ぼしというか」

私はそう言いながら執務室へと向かう。
神殿で神に祈りを捧げていられるのは下の者だけ。
神官長や補佐となれば、神殿の運営や業務など様々な事務がある。

「私は、彼らの罪を摘発した神官の義弟の末裔だ。神官が神子みこ候補に選ばれて、まあ……2年後に辞退したんだけどね。後継者に親戚の子を養子にしていたことで義兄は神官になったんだが……。文官だった義弟、私の先祖は貴族籍をもっと厳しく管理していたら乗っ取りに気付けたんではないか。行方不明との報告を金で握り潰した文官をもっと早く捕まえられたのではないか。ずっとそのことを後悔していてね」
「……たしかに、被害者は祖父母と5歳の聖女候補。ちょっと調べれば、簒奪者が聖女様の家系ではないことがわかったでしょうね」

補佐はウンウンと繰り返し頷く。
そう、収賄事件こそがそもそもの発端。
そして、私欲にまみれた貴族たちが『男爵家の聖女様』に縋り、弱みを握られて……

「あの若き当主が善人であったから。彼の告発があって、あの事件が明るみになった」
「彼だけではないよ」
「え? ですが公式記録には」
「簒奪者のひとり娘も告発者だ」

そう、彼女も学園に入学して自身の家族が異常だと知った。
しかし、周囲の貴族たちは彼女の告発で聖女様の恩恵が受けられなくなると困るため、彼女の告発を妨害した。
そんな彼女が告発に使ったのが神殿の告解。
彼女はそれでも神官を信じていなかった。

「わたくし、今日も父や母に嘘をついてしまいました」

彼女の告白はその言葉から始まった。
おざなりの助言をする神官には、ほかの意地悪をしたなどという罪を懺悔した。
そして……先祖の義兄が彼女の告解に触れる。
親身に助言をする神官に彼女は両親の罪を告発した。
神官は約束した、「その少女のことなら気になっていた。私も調べてみよう」と。

そしてのち、件の若き当主が神殿で一心に祈りを捧げていた。
彼は娘と同じく少女の解放を望んでいた。
それは神の思し召しだろう。
彼に声をかけたのが娘と解決を約束した神官だった。
彼のさらに詳しい話から神官は義弟と動かぬ証拠を集めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

国の祭典の前日に

夕景あき
ファンタジー
国の祭典の前日に勇者と聖女は、広場にて国民たちからバッシングを受けていた。 聖女は憤り、勇者は信じた。

婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!

ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。 ◇初投稿です。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

義妹がいつの間にか婚約者に躾けられていた件について抗議させてください

Ruhuna
ファンタジー
義妹の印象 ・我儘 ・自己中心 ・人のものを盗る ・楽観的 ・・・・だったはず。 気付いたら義妹は人が変わったように大人しくなっていました。 義妹のことに関して抗議したいことがあります。義妹の婚約者殿。 *大公殿下に結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい、の最後に登場したアマリリスのお話になります。 この作品だけでも楽しめますが、ぜひ前作もお読みいただければ嬉しいです。 4/22 完結予定 〜attention〜 *誤字脱字は気をつけておりますが、見落としがある場合もあります。どうか寛大なお心でお読み下さい *話の矛盾点など多々あると思います。ゆるふわ設定ですのでご了承ください

彼女が微笑むそのときには

橋本彩里(Ayari)
ファンタジー
ミラは物語のヒロインの聖女となるはずだったのだが、なぜか魔の森に捨てられ隣国では物語通り聖女が誕生していた。 十五歳の時にそのことを思い出したが、転生前はベッドの上の住人であったこともあり、無事生き延びているからいいじゃないと、健康体と自由であることを何よりも喜んだ。 それから一年後の十六歳になった満月の夜。 魔力のために冬の湖に一人で浸かっていたところ、死ぬなとルーカスに勘違いされ叱られる。 だが、ルーカスの目的はがめつい魔女と噂のあるミラを魔の森からギルドに連れ出すことだった。 謂れのない誤解を解き、ルーカス自身の傷や、彼の衰弱していた同伴者を自慢のポーションで治癒するのだが…… 四大元素の魔法と本来あるはずだった聖魔法を使えない、のちに最弱で最強と言われるミラの物語がここから始まる。 長編候補作品

押し付けられた仕事、してもいいものでしょうか

章槻雅希
ファンタジー
以前書いた『押し付けられた仕事はいたしません』の別バージョンみたいな感じ。 仕事を押し付けようとする王太子に、婚約者の令嬢が周りの力を借りて抵抗する話。 会話は殆どない、地の文ばかり。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

処理中です...