閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル

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後編

あなたの罪はすでに償われております

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「まさか自分が貴族ですらないと思わなかったようだ。彼女はただ家族の罪を暴き、姉を救いたかっただけだよ。聖女になる気はなかった。ただ、家の存続を望んだ上での告解だった」
「その娘は……」
「修道女になったよ、祖父母と異母姉の冥福を願って。そして天寿をまっとうした」

そう、あれからすでに300年は過ぎている。
簒奪者夫妻に与えられた罰は、少女が受けたのと同じこと。
天井と床に魔法陣が描かれて、柵には膜と同じ機能の魔導具。
実体化するのは柵の中、柵から伸ばす手は誰も掴むことはできない。

「聖女様だった少女は人のため、国のために尽くされたというのに」
「いや、あの二人には国の負を背負ってもらっている。この神殿の地下から聞こえる唸り声は彼らの苦しみの声だ」
「それを公表することは……」
「愚かにも彼らを解放しようとした者がいる。事情を知らぬバカが彼らに欲望を手にして近付き……丸呑みされた」

私の言葉に生唾を嚥下する音がした。

「人として姿を現し、人として会話ができるのは神官長が就任した一度のみ。君は部屋の外で?」

ぶるり、と背筋を氷水が流れ落ちたのだろう。
まだ神官見習いの頃に聞いたことがある、『人ではない声が聞こえた』と。
それに怯えて補佐官は長続きしない。

「私の補佐官は明日到着する。彼はビビりでね、私と一緒に行って『簒奪者夫妻の声を聞きたくもない』そうだよ。じゃあ、ここにいるキミは誰だい?」
「わ、た、し……」
「じゃあ、代わりに答えよう。君の俗名ぞくみょうはベイ・リーチ。簒奪者の実家、リーチ元子爵家を継いだ簒奪者の実弟。簒奪者の実家として褫爵ちしゃく処分にされた恨みのため、二人の封印をとこうとしましたね。……マンセル補佐官」
「アガがガガガががががガガガががががががが……」
「ヒィィィィィ!!!」

地底からの叫び声に補佐官が悲鳴を上げ、涙を流して床に踞り頭を抱える。

「落ち着きなさい、

私の言葉は彼に届いていないようだ。
彼の隣まで進み、そっと肩に触れる。

「大丈夫です。
「え、あ……あ、ああ」
「落ち着きましたか? もう入り口を警備しなくても大丈夫です。私が封印をかけてきましたから」
「ふ、いん……」
「はい。二度と開くことはありません。……今まで、自分のように彼らを解放しようとする者が近寄らないように、私たちを守って来られたのですよね。もう、大丈夫です。あの地下牢は封印され、湖の地底に沈められます」

そう、ここは地盤が緩くなり、私の任期をもって地下神殿に……湖の底に沈んで治水を司る神殿へと生まれ変わる。
私の任期が長いのも、その最後の手続きや神様の引っ越しなど最終日の地鎮祭までに色々とすることがあるからだ。
そして天よりお預かりした神の御霊は天にお還りいただき……空になった神殿は湖の底に沈む。

「ですから、安心してください。二度と封印は開きません。もう、神殿ここから解放されていいのですよ」
「……私は」
「あなたの罪はすでに償われております。もうあなた自身を許しておあげなさい。神はあなたが還られる日を首を長くして待っておられますよ」

私の言葉に救われた表情を見せた彼は……眩しくも優しい光に包まれて神の御許へと旅立った。



そして工事は順調に進み、予定より4年も早く人工湖は完成し……神殿は簒奪者たちの魂を封印したまま湖の底に沈んだ。




(完)
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