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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第332話 包囲網
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本編には、初めて登場することになる、ザックという人物について、少し話をしておこう。
歳のころは30前後か。所々が破損したのを無理やり繕った革鎧に、短い剣。
顎は、無精髭に覆われた、一言で言えばむさ苦しい男だ。
以前は「彷徨えるフェンリル」と称する冒険者パーティー。そのパーティのリーダーだと名乗っていたが、周りとの折衝ごとも、戦闘における実際のす指揮も、女魔術師が取ることが多く、そちらが実質的なリーダーではないかと言われていた。
活動領域は、主に西域。ランゴバルドを中心に活動する銀級の冒険者だった。
魔術師、召喚し、治療士、斥候、いずれも腕がよく、ザック自身はというと、剣の腕は今一つ。ただ、“命知らず”“不死身”の二つ名で知られ、とにかくむやみやたらに突っ込んで、ちゃんと生還してくるという特技を持っていた。
酒好きで陽気で、やんちゃ。運と度胸で成り上がった二流冒険者、というのが、もっぱらの評価だった。
魔王宮目当てに、グランダを訪れた彼らは、雇ってくれるパーティを探していた、駆け出し冒険者のルトとリアを雇い入れることになる。
だが、彼らは、魔王級の開いたその日、蜘蛛の魔物の奇襲を受け、雇いいれたばかりの若い冒険者ルトとリアは、助けに入ったエルマート王子、公爵家令嬢フィオリナ、冒険者ヨウィス、リヨンともども、迷宮奥に「転移」させられてしまった。
まあ、細かな事情はさらにいろいろあるのだが、表面上起こっていたことはおおむね、その通りだ。
彼ら「彷徨えるフェンリル」は、クローディア公爵から、この救出依頼を受け、第一階層主であるギムリウスと戦い、これを退けたが、結果として第一階層の大崩落に巻き込まれて、さらなる迷宮深部をさまようこととなるのだが。
ザックは、いま返しきれない恩を、ルトから、受けている身だ。それこそ、この恩をたてに従属をそまられても拒否はできないほどの恩であった。
だから、極めて人間的なやり方ではあるが、ザックはルトにとって不利益にならことはしないようにしようと誓っている。
誰に対してのものではない。自分自身への、違いだった。そしてそれは彼のような種族にとっては、神聖なものだった。
ただ、当の相手がなにが利益で不利益かをなかなか明かしてくれない性格なので、困ったところはある。
グランダから到着した一行が、ラウレスやルトたちが滞在しているホテルに、宿を取ったことは、別に秘密でもなんでもない。
さっそくのように、いまやクローディア大公妃のアウデリアさまが、アモン以下、古竜どもを、集めろ、用事があると乗り込んできた。
ホテル内にある会議室を借りて、かれこれ会議は二時間に及んでいる。
ランゴバルト冒険者学校のルールスとネイアが、ミュラとリアに面会を求めてきたのは、そんな折だった。
クローディア大公の結婚式を控えたこの時期に、ランゴバルトの王族であるルールスがミトラにいることは不自然ではなかったが、彼もランゴバルトが長い冒険者だ。
ルールスが、校長の座を終われ、腹心とでも言うべきネイアともども学校内でなかば隠遁生活を送っているくらいの情報はもっていた。
さらに。そこに「分校」という形でルトたち「踊る道化師」という異質の英才たちを集めていることも。
その意図が分からないため、ザックはミュラたちの保護者として、ホテルの吹き抜けになった2階、廻廊部分二設けられたカフェスペースに腰を下ろしている。
ザックを、見るなり、ルールスは「フェンリル・・・」と呻いて、おそらく収納から取り出した酒をラッパ飲みしはじめた。それをネイアが取り上げて、五人がバースベースに腰を落ち着けるまでには少し時間がかかった。
「彷徨えるフェンリルのザックは、わたしも面識はあったはずたが」
スーツにスラックスという男装に身を固めたネイアは、ザックの記憶にあるよりも凛々しく見えた。
「いまのお主は、別人に見える。
いったいなにがあった?」
褐色の肌に鮮やかな緑の瞳。
細身に仕立てられたスーツは、ネイアの曲線を、部分的に隠すことでかえって強調しているようだった。
「信じられないかもしれないが、ほんとうの俺はこっちさ。」
ザックはグラスに注がれた琥珀の色の蒸留酒をあけると、お代りを頼んだ。
「前は力を封印していた、とでも言うのか?」
「当たりだ!
信じられないかもしれないが、邪神ヴァルゴールの呪いを受けていてね。」
ネイアは、そのことはいったんスルーすることにした。
その言葉の真実を確かめるには、ここでザックを問いただすよりもいい方法があった。
「で、うちのミュラ嬢とリア嬢になんのご要件かな?
ミュラはグランダいや北方領域のギルドの、グランドマスター、リアは大公家の猶子だ。ランゴバルトの権威を使って妙な圧力をかけようとしても無駄だぞ。」
ネイアは2杯目を頼もうとするルールスをあやしながら、かわりにジュースを頼んだ。
「相談、あるいは依頼だな。」
「一応、お聞きいたしましょう。」
ミュラは身構えている。どうせ、フィオリナとの関係を精算しろとか、そういうことでしょ? 大きなお世話です。わたしとフィオリナはやりたいようにやるんです!
リアもまた、厳しい顔をしていた。
まえにルトと、あったいろいろをなかったことにしろ、とでも言うのだろうか。
ルールスが、酔っ払いにだけ許される伝法な口調で言った。
「やつらの結婚式を延期させるのじゃ。おまえたちも手を貸せ。」
歳のころは30前後か。所々が破損したのを無理やり繕った革鎧に、短い剣。
顎は、無精髭に覆われた、一言で言えばむさ苦しい男だ。
以前は「彷徨えるフェンリル」と称する冒険者パーティー。そのパーティのリーダーだと名乗っていたが、周りとの折衝ごとも、戦闘における実際のす指揮も、女魔術師が取ることが多く、そちらが実質的なリーダーではないかと言われていた。
活動領域は、主に西域。ランゴバルドを中心に活動する銀級の冒険者だった。
魔術師、召喚し、治療士、斥候、いずれも腕がよく、ザック自身はというと、剣の腕は今一つ。ただ、“命知らず”“不死身”の二つ名で知られ、とにかくむやみやたらに突っ込んで、ちゃんと生還してくるという特技を持っていた。
酒好きで陽気で、やんちゃ。運と度胸で成り上がった二流冒険者、というのが、もっぱらの評価だった。
魔王宮目当てに、グランダを訪れた彼らは、雇ってくれるパーティを探していた、駆け出し冒険者のルトとリアを雇い入れることになる。
だが、彼らは、魔王級の開いたその日、蜘蛛の魔物の奇襲を受け、雇いいれたばかりの若い冒険者ルトとリアは、助けに入ったエルマート王子、公爵家令嬢フィオリナ、冒険者ヨウィス、リヨンともども、迷宮奥に「転移」させられてしまった。
まあ、細かな事情はさらにいろいろあるのだが、表面上起こっていたことはおおむね、その通りだ。
彼ら「彷徨えるフェンリル」は、クローディア公爵から、この救出依頼を受け、第一階層主であるギムリウスと戦い、これを退けたが、結果として第一階層の大崩落に巻き込まれて、さらなる迷宮深部をさまようこととなるのだが。
ザックは、いま返しきれない恩を、ルトから、受けている身だ。それこそ、この恩をたてに従属をそまられても拒否はできないほどの恩であった。
だから、極めて人間的なやり方ではあるが、ザックはルトにとって不利益にならことはしないようにしようと誓っている。
誰に対してのものではない。自分自身への、違いだった。そしてそれは彼のような種族にとっては、神聖なものだった。
ただ、当の相手がなにが利益で不利益かをなかなか明かしてくれない性格なので、困ったところはある。
グランダから到着した一行が、ラウレスやルトたちが滞在しているホテルに、宿を取ったことは、別に秘密でもなんでもない。
さっそくのように、いまやクローディア大公妃のアウデリアさまが、アモン以下、古竜どもを、集めろ、用事があると乗り込んできた。
ホテル内にある会議室を借りて、かれこれ会議は二時間に及んでいる。
ランゴバルト冒険者学校のルールスとネイアが、ミュラとリアに面会を求めてきたのは、そんな折だった。
クローディア大公の結婚式を控えたこの時期に、ランゴバルトの王族であるルールスがミトラにいることは不自然ではなかったが、彼もランゴバルトが長い冒険者だ。
ルールスが、校長の座を終われ、腹心とでも言うべきネイアともども学校内でなかば隠遁生活を送っているくらいの情報はもっていた。
さらに。そこに「分校」という形でルトたち「踊る道化師」という異質の英才たちを集めていることも。
その意図が分からないため、ザックはミュラたちの保護者として、ホテルの吹き抜けになった2階、廻廊部分二設けられたカフェスペースに腰を下ろしている。
ザックを、見るなり、ルールスは「フェンリル・・・」と呻いて、おそらく収納から取り出した酒をラッパ飲みしはじめた。それをネイアが取り上げて、五人がバースベースに腰を落ち着けるまでには少し時間がかかった。
「彷徨えるフェンリルのザックは、わたしも面識はあったはずたが」
スーツにスラックスという男装に身を固めたネイアは、ザックの記憶にあるよりも凛々しく見えた。
「いまのお主は、別人に見える。
いったいなにがあった?」
褐色の肌に鮮やかな緑の瞳。
細身に仕立てられたスーツは、ネイアの曲線を、部分的に隠すことでかえって強調しているようだった。
「信じられないかもしれないが、ほんとうの俺はこっちさ。」
ザックはグラスに注がれた琥珀の色の蒸留酒をあけると、お代りを頼んだ。
「前は力を封印していた、とでも言うのか?」
「当たりだ!
信じられないかもしれないが、邪神ヴァルゴールの呪いを受けていてね。」
ネイアは、そのことはいったんスルーすることにした。
その言葉の真実を確かめるには、ここでザックを問いただすよりもいい方法があった。
「で、うちのミュラ嬢とリア嬢になんのご要件かな?
ミュラはグランダいや北方領域のギルドの、グランドマスター、リアは大公家の猶子だ。ランゴバルトの権威を使って妙な圧力をかけようとしても無駄だぞ。」
ネイアは2杯目を頼もうとするルールスをあやしながら、かわりにジュースを頼んだ。
「相談、あるいは依頼だな。」
「一応、お聞きいたしましょう。」
ミュラは身構えている。どうせ、フィオリナとの関係を精算しろとか、そういうことでしょ? 大きなお世話です。わたしとフィオリナはやりたいようにやるんです!
リアもまた、厳しい顔をしていた。
まえにルトと、あったいろいろをなかったことにしろ、とでも言うのだろうか。
ルールスが、酔っ払いにだけ許される伝法な口調で言った。
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