あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第333話 心強くないみかた

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ホテルは、最新式の電球による照明が取り入れられている。
グランダ育ちのミュラとリアにとっては、別世界だ。
灯りは、雰囲気に合わせて、わざと暖色に染め上げられている。
正直、そこにいるだけでも気圧される部分はあった。

だが、ミュラは、海千山千の冒険者どもと渡り合ってきた。
相手が何者であれ、場所がどこであれ、引かぬ時は絶対に引かない。
リアも、冒険者として魔王宮に潜り、他ならぬ第五階層主オロアから、「試し」を受けて生き残った。
胆力、気力ともに常人の域ではない。

「藪から棒に何を。」

まずはそう言って相手の様子を見る。

ランゴバルト冒険者学校の元校長で、今は分校長として、ルトやフィオリナのクラスを担当しているらしい。元はランゴバルトの王族の姫君だそうだが、それはなんというか。
ずいぶん、落ちぶれた感は否めない。
つきそう、肉感的な美女はその護衛兼副官で、彼女がフィオリナたちのクラスの担任教師らしかった。
その正体は歳を経た吸血鬼であることは、ミュラやリアには流石にわからない。
迷信深い北の国では、亜人として吸血鬼を遇する習慣がないのだ。

ただ、並々ならない実力を秘めたものだということは、わかる。

「そもそも、結婚式に招待しといて、何を言い出すのやら。」
リアも言った。
ここは腹の探り合いだった。
相手は、かつての対抗戦で顔を合わせたことはあるが、じっくり話をしたことは、ない。

ルールスの申し出は、二人にとっては渡りに船であったが、そうやすやすと乗るのは危険に感じられた。

じんわりと緊張が高まる中、慌てたのは、ザックだった。
フィオリナとミュラの噂は、はっきり言って王都では、知らぬものがないくらい(それをモデルにすでに歌劇も作られていた)だし、ルトとリアがいいムードだったのは、彼自身の目で確認している。

それにしてもそれはそれで、大団円となろうとしているこの状況で、あえて反対を唱える意味がわからない。

「失礼ですが、ルールス様とネイアは、そのルトたちとなんかあってその」
「違うわっ!」

酔っ払った美人というのは、始末に追えない。もっともルールスに言わせれば、素面で神獣などと同席できるか、というのも本当だ。

「いいか、わたしらは、大賢者ウィルニアの異界に招かれ、そこで『運命』神クロノスからじきじきに、ルトとフィオリナを今結婚させることがいかに、危険かを解かれたのだ。
それは、二人の婚姻そのものを否定するわけではない。
だが、『今』はまだ準備ができていないということだった。
わたしたちはその意向を汲んで動いておる!」

バーには他にも客はいたのだ。
むさ苦しい冒険者姿のザックはともかく、ミュラもリアもルールスもネイアも美人揃いである。
それなりに注目を集めていたのだが、この発言を聞いて、そそくさと離れていった。

あれは、危ないタイプの酔っ払いだ。近づいちゃいけない。

「クロノス神がですかい?」
人外のザックまでもが、妙な顔をした。
彼が、ヴァルゴールの呪いに囚われてから、数十年が経過していた。その間、ザックは、神々や古竜といった超存在はもちろん、同じフェンリル仲間とも接触が立たれていたのだ。
クロノスは、崇められてはいるが、個々の有限寿命者のあれこれに介入することはない。

確かに、「あの」ウィルニアならば、クロノスの神託を受け取ることも可能だろうが。

「クロノスは今、グランダ貴族の体を持って地上に降臨している。
わたしとネイアは、彼から直接に、その言葉を聞いたのだ。」

ザックは、少し体を仰け反らした。

こいつ・・・危ないタイプの酔っ払いでは!

「確かに信じ難いことなのかもしれないが、事実だ。」
ネイアが低い声で言った。
「わたしが何ものか、今のおまえにならわかるだろう。幻覚に騙されたり、催眠にかけられたり、憑かれたたりしていないことも。」

「あんたが、爵位持ちの吸血鬼だってことは、前からわかってますよ。」

ザックは、酒のおかわりを頼んだ。どうも彼も少し酔ってきいた方がいい話かもしれない。
少なくとも、信じられない部分にいちいちツッコミを入れなくても済むようになるだろう。

「まあ、話が全部本当だって前提で、進めますぜ。」
いいですか、とミュラとリアにも確認をとる。

「なぜ、有限寿命者が番になることが『危険』なんですかい?」

ルールスは、クロノスの現し身たるクーレル子爵にきいたことを、できるだけ、そのまましゃべった。
語れば語るほど、嘘っぽく、ルールスが危ない人に見えてくるのは、仕方ない。

一応、ほんとうか?と、ネイアに目で合図する。ネイアは、頷いた。

「ミュラさん、リア。とんでもない話だが辻褄は、あってるよ。もしよければ、これが妄想ではないと、仮定して話をしてくれ。」

ミュラは、ため息をついた。
「わたしとフィオリナのことは?」

そもそも冒険者学校に送られた経緯がそれなので、ルールスもネイアも知らないとは言えない。

「なら、協力してもいい。ただし、それが原因でフィオリナに嫌われるのは困るので、やり方次第だ。
どうだろう、祝いの席の料理に香辛料を大量に混ぜておくとか。」
「邪神か、おまえは!」
ミュラは目をパチクリさせた。
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