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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第347話 あのひとのママに会うために
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本当は鏡台に口紅で伝言を残したからにはすぐにでも、あの人のママに会うために出かけないといけないんだっけ、とアキルは思ったのだか、実際に出発したのは、翌日の夕方になった。
ルトの体調があまりにもひどいものだったからだ。
吹っ切れたと当の本人は言い、実際一時期よりは顔色が明るくなったようなのだが、相変わらず食事を全くのどを通らず、わずかに甘いものを口にするだけだった。
以外にもこのとき役に立ったのは、ラウレスくんだった。
彼はルートの体調の不良を耳にするやいなや、猛特訓中の合唱の練習を放り出して、ルトの部屋に駆けつけ、消化の良い食べ物をつくり、食べやすいように小分けし、さらに口にさじで食べ物を運んでやった。
普段、豪快に鉄板焼きをやっている職人とは、思えず、煮込んだ穀物に精がつくように少量の肉をまぜて、お粥みたいなものを作ったのだ。
ルトの中で、黒竜ラウレスのランクがあがったのかは、分からないが、少なくともラウレスの粥ならば椀に半分ほどはたいらげた。
さらに、眠りやすくなるように、温めたミルクを飲ませて、寝付くまでそばで世話を続けた。
ようやく眠りについたルトの、頭をロウはなぜ続けた。
これは単純な愛情の表現ではなく、ルトが寝たふり、または寝たという状態を使って、何やら良からぬ魔法でも使わないかの用心のためでもあった。
さて、夕暮れが迫る頃、ルトはアキルと出かけた。
オルガとロウはついて行こうとしたが、万が一にも戦闘になってもらうと困るルトは、同行を断ったのである。
ちなみに「全く展開についていけない」ことで、意気調合したギムリウスとグルジエンは、大量の食料と酒を運ばせて、ひたすら飲み食いに惑溺していた。
話題としては、
「人間というものはいかに理解しにくいものか」と嘆き続けるグルジエンをギムリウスがひたすら慰めるというもので、その描写はあまり面白いものではない。
ルトとアキルは、辻馬車を拾って、寄り道をしてから、鴎浪飯店に向かった。あの当たりは治安が悪い。
一見、大人しそうな少年にしかみえないルトと、一見普通の女の子に見えて、実は普通の女の子くらいの戦闘力しかもっていないアキルには、二人でブラブラするにはリスクが多くすぎた。
ルトは、フロントから部屋をきき、そのままそこに向かった。
本来こんなことは、できないのだが、
ルト自身も長期の宿泊客であるに加えて、同行者の迫力がものをいったのだろう。
三階のその部屋は、ベッドルームと、小さなリビングスベースのあるごく普通の部屋だった。
礼儀ただしく、こぶしでノックを(同行者が斧でノックしようとするのを懸命にとめたのだ)すると、はあい、と間の抜けたような声がして、ドアが開いた。
「あら」
と、どこぞの田舎のお上りさんと言って風情のご婦人は、キョトンとした目で来訪者を見つめた。
「いらっしゃい。なにかお話?
うちのひとはいま、ザックさんと街見物に出かけているからちょうどいいわ。入ってくださいな。」
ソファは簡易なもので、アウデリアがかけると2人がけのそれはいっぱいになった。
しかたなく、メア王太后は、ベッドに、ルトとアキルは立ったままで話をすることになった。
「いったいどうしたの、血相をかえて。」
メアはお人好しで引っ込み思案の元王妃の顔でそう言った。
眉をひそめて、ルトを見る。
「ご結婚おめでとう・・・と言うべきなのだろうけどなにか会ったわね。
ひどい顔よ。」
「これでもマシになったんだ。」
「フィオリナさんと、いえ、リウとなにかあったのね。」
「へえ」
ルトの唇が歪んだ。
「わかるんですか?」
「あなたの、手のひらと肩の傷。治りかかってるけどリウの魔剣のものでしょう?
それくらいはわかるわ。むしろ、治ってることのほうが驚きよね。」
「腹の探り合いはやめましょうよ。」
アキルが前に出た。
「リウくんの居場所を知っますか?
もしくはリウくんとの連絡は?」
「グランダを出る前に会ってきりよ。連絡はないし・・・。」
うーん、と言いながらメアは腕を組んだ。
「そう言えば、連絡をしようとしても完全にロストしてる。別世界、魔王宮にでも、もどってるってことかしら。」
「どうもフィオリナさんを連れ去って、ウィルニアの異界に閉じこもってしまったみたいなんです。」
「フィオリナさんを?
それで」
メア陛下の視線がアウデリアと絡んだ。
「この筋肉女がきてるわけ?」
「わたしは、とにかく、リウを見つけ出し、力づくでフィオリナを連れ戻すべきだと主張した。」
アウデリアの声は人間と言うよりも肉食獣の唸り声に似ていた。
「だが、その過程でご子息が惨殺される可能性があったので、さきに相談にきたわけだ。」
「いわゆる、駆け落ち。不倫。不貞行為、というわけね。」
メアは、こめかみを押さえた。
自分の息子が友人の婚約者に、手を出して逃避行を決め込んだのだ。母親として愉快なはずもない。
「どうせ、手を出したのは、リウからでしょうけど。
で、フィオリナさんのほうはどうなの?
帰ってくる気はあるの?」
「なるほど。意に沿わない結婚をさせるよりは、好きなもの同士が番となるべきだな。
だが、それを実現させる前に果たすべきことがあるだろう。」
「アウデリア・・・それにそっちは異世界人だったわね・・・」
メアは目を見開いた。
「いえ、違う。あなたなの? ヴァルゴール!!」
「そうであるとも言えるしないとも言える。」
アキルは、静かに答えた。
「このアウデリアが斧神と同一の個体ではないという程度だったらわたしもヴァルゴールではないと言える、そもそも」
アキルは、考えをまとめるように、後ろに手を組んでゆっくり部屋を歩き出した。
「わたしや、アウデリア、それに星読みのできるロウ=リンドはこの結婚を危うんでいた。
二人が結婚するのは今、ではない。
いま、二人が、夫婦となってしまうことで運命に恐ろしい空白がうまれてしまう。」
「わたしも同じことをリウに言ったわ。」
と、メアは言った。
「そんなものはどうにでもなるってあの子は言ったけど、そういうものではないのよね。」
「リウは、ミトラに来てからフィオリナとあったときに、随分とふざけた提案をしたそうです。」
ルトは言った。
「つまり、結婚式をぼくとフィオリナのものではなく、リウとぼくとフィオリナ、三人のものにしようと。」
「どうかしら、神または半神のお二人の意見は。『空白』を打破する方法としてはあり、なのでしょうけど。」
メアは首を傾げた。
「それってそもそも結婚なのか、という問題はついてまわるわよね?」
ルトの体調があまりにもひどいものだったからだ。
吹っ切れたと当の本人は言い、実際一時期よりは顔色が明るくなったようなのだが、相変わらず食事を全くのどを通らず、わずかに甘いものを口にするだけだった。
以外にもこのとき役に立ったのは、ラウレスくんだった。
彼はルートの体調の不良を耳にするやいなや、猛特訓中の合唱の練習を放り出して、ルトの部屋に駆けつけ、消化の良い食べ物をつくり、食べやすいように小分けし、さらに口にさじで食べ物を運んでやった。
普段、豪快に鉄板焼きをやっている職人とは、思えず、煮込んだ穀物に精がつくように少量の肉をまぜて、お粥みたいなものを作ったのだ。
ルトの中で、黒竜ラウレスのランクがあがったのかは、分からないが、少なくともラウレスの粥ならば椀に半分ほどはたいらげた。
さらに、眠りやすくなるように、温めたミルクを飲ませて、寝付くまでそばで世話を続けた。
ようやく眠りについたルトの、頭をロウはなぜ続けた。
これは単純な愛情の表現ではなく、ルトが寝たふり、または寝たという状態を使って、何やら良からぬ魔法でも使わないかの用心のためでもあった。
さて、夕暮れが迫る頃、ルトはアキルと出かけた。
オルガとロウはついて行こうとしたが、万が一にも戦闘になってもらうと困るルトは、同行を断ったのである。
ちなみに「全く展開についていけない」ことで、意気調合したギムリウスとグルジエンは、大量の食料と酒を運ばせて、ひたすら飲み食いに惑溺していた。
話題としては、
「人間というものはいかに理解しにくいものか」と嘆き続けるグルジエンをギムリウスがひたすら慰めるというもので、その描写はあまり面白いものではない。
ルトとアキルは、辻馬車を拾って、寄り道をしてから、鴎浪飯店に向かった。あの当たりは治安が悪い。
一見、大人しそうな少年にしかみえないルトと、一見普通の女の子に見えて、実は普通の女の子くらいの戦闘力しかもっていないアキルには、二人でブラブラするにはリスクが多くすぎた。
ルトは、フロントから部屋をきき、そのままそこに向かった。
本来こんなことは、できないのだが、
ルト自身も長期の宿泊客であるに加えて、同行者の迫力がものをいったのだろう。
三階のその部屋は、ベッドルームと、小さなリビングスベースのあるごく普通の部屋だった。
礼儀ただしく、こぶしでノックを(同行者が斧でノックしようとするのを懸命にとめたのだ)すると、はあい、と間の抜けたような声がして、ドアが開いた。
「あら」
と、どこぞの田舎のお上りさんと言って風情のご婦人は、キョトンとした目で来訪者を見つめた。
「いらっしゃい。なにかお話?
うちのひとはいま、ザックさんと街見物に出かけているからちょうどいいわ。入ってくださいな。」
ソファは簡易なもので、アウデリアがかけると2人がけのそれはいっぱいになった。
しかたなく、メア王太后は、ベッドに、ルトとアキルは立ったままで話をすることになった。
「いったいどうしたの、血相をかえて。」
メアはお人好しで引っ込み思案の元王妃の顔でそう言った。
眉をひそめて、ルトを見る。
「ご結婚おめでとう・・・と言うべきなのだろうけどなにか会ったわね。
ひどい顔よ。」
「これでもマシになったんだ。」
「フィオリナさんと、いえ、リウとなにかあったのね。」
「へえ」
ルトの唇が歪んだ。
「わかるんですか?」
「あなたの、手のひらと肩の傷。治りかかってるけどリウの魔剣のものでしょう?
それくらいはわかるわ。むしろ、治ってることのほうが驚きよね。」
「腹の探り合いはやめましょうよ。」
アキルが前に出た。
「リウくんの居場所を知っますか?
もしくはリウくんとの連絡は?」
「グランダを出る前に会ってきりよ。連絡はないし・・・。」
うーん、と言いながらメアは腕を組んだ。
「そう言えば、連絡をしようとしても完全にロストしてる。別世界、魔王宮にでも、もどってるってことかしら。」
「どうもフィオリナさんを連れ去って、ウィルニアの異界に閉じこもってしまったみたいなんです。」
「フィオリナさんを?
それで」
メア陛下の視線がアウデリアと絡んだ。
「この筋肉女がきてるわけ?」
「わたしは、とにかく、リウを見つけ出し、力づくでフィオリナを連れ戻すべきだと主張した。」
アウデリアの声は人間と言うよりも肉食獣の唸り声に似ていた。
「だが、その過程でご子息が惨殺される可能性があったので、さきに相談にきたわけだ。」
「いわゆる、駆け落ち。不倫。不貞行為、というわけね。」
メアは、こめかみを押さえた。
自分の息子が友人の婚約者に、手を出して逃避行を決め込んだのだ。母親として愉快なはずもない。
「どうせ、手を出したのは、リウからでしょうけど。
で、フィオリナさんのほうはどうなの?
帰ってくる気はあるの?」
「なるほど。意に沿わない結婚をさせるよりは、好きなもの同士が番となるべきだな。
だが、それを実現させる前に果たすべきことがあるだろう。」
「アウデリア・・・それにそっちは異世界人だったわね・・・」
メアは目を見開いた。
「いえ、違う。あなたなの? ヴァルゴール!!」
「そうであるとも言えるしないとも言える。」
アキルは、静かに答えた。
「このアウデリアが斧神と同一の個体ではないという程度だったらわたしもヴァルゴールではないと言える、そもそも」
アキルは、考えをまとめるように、後ろに手を組んでゆっくり部屋を歩き出した。
「わたしや、アウデリア、それに星読みのできるロウ=リンドはこの結婚を危うんでいた。
二人が結婚するのは今、ではない。
いま、二人が、夫婦となってしまうことで運命に恐ろしい空白がうまれてしまう。」
「わたしも同じことをリウに言ったわ。」
と、メアは言った。
「そんなものはどうにでもなるってあの子は言ったけど、そういうものではないのよね。」
「リウは、ミトラに来てからフィオリナとあったときに、随分とふざけた提案をしたそうです。」
ルトは言った。
「つまり、結婚式をぼくとフィオリナのものではなく、リウとぼくとフィオリナ、三人のものにしようと。」
「どうかしら、神または半神のお二人の意見は。『空白』を打破する方法としてはあり、なのでしょうけど。」
メアは首を傾げた。
「それってそもそも結婚なのか、という問題はついてまわるわよね?」
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