あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第346話 ルージュの伝言

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ランゴバルト大迷宮。
西域有数の大都市を模した迷宮。
迷宮は、人工的に作ることが出来る。その術式は、むかしむかし、ウィルニアという魔導師が開発した。
ここは、「踊る道化師」の作りあげた迷宮。
そして、迷宮の出入口には、必ず階層主と呼ばれる魔物がいて、自由な出入りを拒んでいる。
ランゴバルト大迷宮の階層主は、巨大な蜘蛛の怪物だった。
大きさは、大型犬ほどもある。
元の世界のクラスメイトが、ラブラドールを、飼っていたがそれよりも一回り大きかった。

「踊る道化師」が、自分の作った迷宮内で、配置したモンスターに殺られる?
うーん、笑い話にしかならん。

ルトくんは、相変わらず意識がもうろうとしている、いや?
違う、これは、なにかの術式をつむいでいるのだ!恐らくは呪詛のような力を持つ。
気絶、してれば体のコントロールをする必要がなくなる。だからと言って、わたしに体をひきずらせて、呪いをかけるのに集中するっていうのは、どうなのだろう。
とにかく、ルトくんは、全く役に立ってくれる様子はなかった。

ゆ、勇者アキルの、これがほんとの初陣となるのか。
ほめろ!
わたしをほめてくれ!

とりあえず、大型犬なみの蜘蛛に対峙して。わたしはちゃんと剣を抜いて構えたのだから。

どんっ!
蜘蛛の突進は見えなかった。わたしはくるくると回転して、地面に崩れ落ちた。くそっ! 痛えっ!
罵ったのは自分に対してだった。

ぶつかったショックで、剣はどこかに飛んでいってしまった。
「蜘蛛さーん、わたし、踊る道化師ですよー。」
呼びかけてみたが、まったく反応がない。というより言葉を解する能力はないのだろう。
ぎちぎちと顎をならしたのが、もし言語だったらごめんよ、

これは、話にならない。
あっさり食い殺されて終わりである。

だが、わたしには、『異能』がある。これだって、わたしの能力なんだから、わたしの戦いには違いないだろう。だが、呼ばれる『守護者』があまりにもその場にふさわしいため、能力として認識されないだけだ。

蜘蛛のお尻から、糸が吹き出した。
けっこうな勢いのシャワーは、広範囲をカバーしているため、半分意識を飛ばしているルトくんは、もちろん、身構えていたわたしもらくらくと絡め取られた・

ギギギ。
叫びをあげて、蜘蛛がせまった。
毒液がしたたる顎は、わたしの目の前、3センチで止まった。

蜘蛛の首が、わたしよりも小さな手で掴まれている。
じたばたともがくが、ずるずると引きずられていく。ギッっと手の主がささやいた。蜘蛛はあわてたように、そのままくるりとお尻をむけて遁走した。

「ギムリウスっ!」
「はい。」
お気に入りの入院着に身を包んだ、神獣は、頷いた。
「助けを呼びましたね、アキル。」
「助かった・・・細かいことはあとで話すけど、ルトが・・・」

「ああ、ギムリウス。いいところへ。」
ルトが手をあげた。こちらは、地面に寝そべったまま、蜘蛛の糸まみれになっている。
「気絶したついでに、アキルに引きずってもらいながら呪詛をかけていた。途中で意識がもどったんだけど、途中で中断するとやり直しになってしまうもので。」

ぽこん。
と、わたしはルトを蹴飛ばした。
「ほんとに呪文に集中してたのかい!」

「すまない。重かったよね。」
「いや、それよりも心配するでしょ?」

ギムリウスの頬に新しい顎が現れた。吹き出した白い霧が、かかるとわたしたちを拘束している糸を、みるみる溶かしていく。

「ルト。ホテルの部屋に戻りますか? その傷はリウの剣によるものですね。解呪が必要かと思います。」
「アライアス侯爵邸に頼めるかい。魔力が回復すれば、力技で治癒できるから。」

わたしは呆れた。つまり、ルトは治癒にまわすべき魔力を、誰かに対する呪いに振り向けていたのだ。アホか、こいつは。
あれ?
これって、誰のなんのための呪いなのだ?


アライアス様のお屋敷への転移は、一瞬だった。目眩も不快感も起こさない転移は、ほかのものとは一味違う。たとえば、神々だって、これだけの技量をもつものはいないだろう。
すぐにドロシーさんと、オルガッち、それに、ロウさまが飛んできた。
「ルトくん、アキル!」
「ルト!」
ドロシーさんとロウさまは、ルトに抱きつこうとしたが、思いとどまった。
とにかく、女性に近づかれるのがまずいと、そういうふうに伝わっているらしい。

「ご心配をおかけいたしました。」
ルトは、やつれた顔で、それでもなにかふっきれたような笑顔をふたりにむけた。

ロウさまがこわばった顔で言った。
「ドロシーから連絡をもらったんだ。使われた魔法は、精神操作による結界の形成による思考停止。ザザリの得意とする魔法だが、彼女がなにかしかけてきたのか?」
「しかけてきたのは、リウだ。なるほど、親子だけに似たような魔法が使えるのかな。」
「リウが!? なにを?」
「なんと言うか・・・」
ルトは、わたしを見た。あまり話したいことではなかったが、少なくとも「踊る道化師」の魔王宮メンバーのひとり、ロウ=リンドには話さざるを得ない。
わかった。わたしが言ってやる。

「フィオリナさんは、ずいぶん前からリウくんと出来てました。」

ロウさまが目をむいた。ドロシーさんは完全に呆れている。
「いや・・・だって、ミュラさんだけじゃなくて?」

「リウくんはフィオリナさんを伴侶にするつもりです。ルトはふたりの下僕として身近におくそうです。リウくんはフィオリナさんを連れてウィルニアとともに去りました。」

ロウさまが憤然として立ち上がった。目が真紅に輝いていて、口元には牙が覗いていた。

「ウィルニアの第六層だな! 取り戻す。」
「残念ながら。」
と、ルトくんが言った。
「ウィルニアは新しい世界を構築している。もともとはリウから一時、フィオリナを匿ってもらうために作った異界だ。侵入はおろか、場所も連絡方法も不明だ。」

ロウさまはすがるように、ギムリウスを見た。ギムリウスは首を横に振った。
「本当です。これまでわたしたちが『第六層』として認識していた空間は崩壊しました。転移しようにも座標がつかめません。」

「手の出しようもないのか?」
「ちょっと考えがなくはない。」
ルトくんは、とんでもないことを提案した。

それは・・・ありかもね。
わたしは、ふと、あることに気がついて、アライアス侯爵の屋敷のリウくんの部屋をみせてもらった。
はたして、そこは使われたことがあるのか。
でも。
彼の「領域」として、一度でも認識されたことがあるのなら、そこで起こったことは遅かれ早かれ、彼が気がつくこととなるのだろう。

部屋の片隅に小さな鏡台がおかれていた。女性客が泊まってもいいように一通りの化粧道具もそろってる。
ぴったりじゃないか。
口紅を取り上げて、バスルームの鏡になぐり書きをする。

これは、彼の領域を犯した事態のひとつとして、彼の知るところになるだろう。
わたしは、くすりと笑った。
邪悪さならば、魔王よりも、邪神と駆け出し冒険者のコンビのほうがうえなのだ。見てろ。

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