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第9部 道化師と世界の声
空間を裂く
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「世界の声、か。」
ルルナは、吐き捨てた。その口調にクサナギとミケが、怯えたように後退りした。
「たまたま、ぼくらが到着するのにあわせて、魔王種が誕生する・・・・なんて偶然ももちろんありますが。」
「相手は『神』ですから。」
ルルナは、怖い顔で、魔法攻撃を避けるためにさらに密集隊形を撮りつつある蜂の群れを睨んだ。
「魔王種の誕生が偶然であれ、『世界の声』がたくらんだものであれ、わたしたちには判別しようもありません。」
「なら、なにか都合が悪いことが起こったら、全部『世界の声』のせいにしましょう。」
ルトは、淡々と応えた。
「『世界の声』が作り出せるのは、疑似魔王だけです。とっとと引きずり出して」
「どうやって?」
「それは割りと簡単です。『王』として設定された以上、配下を減らされれば、出てこないわけにはいきません。」
蜂の群れは、頭上を埋め尽くす黒い太陽になっていた。凄まじい羽音は、それだけで、地上にいるルトたちに、甚だしい苦痛を強いた。
一方で、密集すればするほど、蜂たちの防御力は上がっていく。
人間の魔導師たちばかりだはなく、クサナギの切断も、ミケのヴェールももはや、蜂たちの体に到達することは無かった。
「仕掛ける。」
おそらくは、「悪夢」の長であるミルドエッジにとっても、それは最大級の魔法だったのだろう。
術を構築するのに、あるいは発動状態で維持するために、彼は目を見開き、歯を食いしばっていた。
「今です! ミルドエッジ!」
ルトが叫ぶと同時に、黒い太陽の一角が、バクん、と抉れた。
防御もへったくれも無い。ばく、ばく、ばく。
見えない口ははたして、何十メトルあるのだろうか。一口で、人間なみのサイズのある蜂が数十匹、飲む込まれていく。
バクん。
あまりの異常事態に、蜂たちが分離しかけたところに。
群れの真ん中を突っ切るように、なにかが走った。
通り過ぎたあとは、空白。黒い固まりの中心部に、大穴が空いていた。
「い、今のは。」
ミルドエッジが、目玉をこぼしそうな顔で、ルルナを見つめる。
「飛翔鮫。」
「たった今考えましたね!?」
「まあ、ミルドエッジさんの魔法を真似て構築しただけですから。」
蜂の群れは、結集を解き、再び頭上を埋め尽くす。
攻撃魔法はまた通じるようになってはいたが、蜂の数があまりにも多い。
クサナギとミケ、すなわち、人の姿をしているが、そうでないものたち以外は、絶え間ない攻撃魔法の連射で、ほぼ魔力を枯渇させていた。
「いきなり、無茶をさせるなっ!」
荒い息をつきながら、ルールスが言った。
「実戦はもっぱらネイアにまかせておってんだ。攻撃魔法なんか撃ったのははじめてなんだぞ?」
「ルールス先生、それがホントなら、たぶん『天才』っていうのは、先生のことを言うんだと思います。」
ルトが案外、本気そうに言った。
「しかし…これは手詰まりだ。」
ルールスは、ルルナたちをちらりと見ながら言った。
「敵は三分の一も、減っておらん。いや、三分の一減らしただけだもたいしたもの過ぎるのだが……。
で、どうする。
ルルナたちを使うか?
あれらの力なら、蜂どもを一層できる。
多少の街への被害は、外交ルート出もみ消すが。」
「多少、多少ね。もし、被害が出てしまったらそうしてください。
でも、いまの状態で、ルルナたちにブレスを撃たせたら、この街がまるごとなくなりますよ。」
ルトは、そう言って、ミケの足元から、ポチとタマを抱き上げた。
明らかに参戦したがっていた2匹は、それぞれの鳴き声をあげて、ルトに訴えた。怪我を治してもらったからか、ルトにはすっかり懐いている。
(ちなみに怪我をさせた側のクサナギにも、懐いていた。とりあえず“強いモノ”には、そこそこ従順なのである、嵐竜は!)
ポチは、ルトの顔をなめた。タマがゴロゴロと喉を鳴らした。
「ブレスをつかうんだよ。」
ルトは、二匹を撫でながら、優しくいった。
「集束は考えなくっていいんだ。あそこらへんの空間を薙ぎ払う感じでね。」
「おい! そいつらはたしか・・・・」
「嵐竜です。残念ながら、知性を獲得せずに、千年を生きた竜。古竜に匹敵する魔力をもちながら、知性による制御ができず、特に竜族最大の武器である『ブレス』を目標に集束させることができないため、その能力は人間の魔導師の障壁で防げる程度でしかありません。」
三分の一が消滅した蜂たちは、統率しての行動を失っている。
だが、それはむしろ、具合が悪いのだ。数万の蜂が、てんでに周りを攻撃する・・・・目標は彼らではなく、むしろ、街の無秩序な破壊にむかうかもしれない。
そうなる前に。
ポチが吠えた。
タマが前足を振った。
彼らの頭上に、紫色の稲妻が走る。
集束しないがゆえに、広範囲の空間を埋め尽くす。嵐竜のブレスだった。
ルルナは、吐き捨てた。その口調にクサナギとミケが、怯えたように後退りした。
「たまたま、ぼくらが到着するのにあわせて、魔王種が誕生する・・・・なんて偶然ももちろんありますが。」
「相手は『神』ですから。」
ルルナは、怖い顔で、魔法攻撃を避けるためにさらに密集隊形を撮りつつある蜂の群れを睨んだ。
「魔王種の誕生が偶然であれ、『世界の声』がたくらんだものであれ、わたしたちには判別しようもありません。」
「なら、なにか都合が悪いことが起こったら、全部『世界の声』のせいにしましょう。」
ルトは、淡々と応えた。
「『世界の声』が作り出せるのは、疑似魔王だけです。とっとと引きずり出して」
「どうやって?」
「それは割りと簡単です。『王』として設定された以上、配下を減らされれば、出てこないわけにはいきません。」
蜂の群れは、頭上を埋め尽くす黒い太陽になっていた。凄まじい羽音は、それだけで、地上にいるルトたちに、甚だしい苦痛を強いた。
一方で、密集すればするほど、蜂たちの防御力は上がっていく。
人間の魔導師たちばかりだはなく、クサナギの切断も、ミケのヴェールももはや、蜂たちの体に到達することは無かった。
「仕掛ける。」
おそらくは、「悪夢」の長であるミルドエッジにとっても、それは最大級の魔法だったのだろう。
術を構築するのに、あるいは発動状態で維持するために、彼は目を見開き、歯を食いしばっていた。
「今です! ミルドエッジ!」
ルトが叫ぶと同時に、黒い太陽の一角が、バクん、と抉れた。
防御もへったくれも無い。ばく、ばく、ばく。
見えない口ははたして、何十メトルあるのだろうか。一口で、人間なみのサイズのある蜂が数十匹、飲む込まれていく。
バクん。
あまりの異常事態に、蜂たちが分離しかけたところに。
群れの真ん中を突っ切るように、なにかが走った。
通り過ぎたあとは、空白。黒い固まりの中心部に、大穴が空いていた。
「い、今のは。」
ミルドエッジが、目玉をこぼしそうな顔で、ルルナを見つめる。
「飛翔鮫。」
「たった今考えましたね!?」
「まあ、ミルドエッジさんの魔法を真似て構築しただけですから。」
蜂の群れは、結集を解き、再び頭上を埋め尽くす。
攻撃魔法はまた通じるようになってはいたが、蜂の数があまりにも多い。
クサナギとミケ、すなわち、人の姿をしているが、そうでないものたち以外は、絶え間ない攻撃魔法の連射で、ほぼ魔力を枯渇させていた。
「いきなり、無茶をさせるなっ!」
荒い息をつきながら、ルールスが言った。
「実戦はもっぱらネイアにまかせておってんだ。攻撃魔法なんか撃ったのははじめてなんだぞ?」
「ルールス先生、それがホントなら、たぶん『天才』っていうのは、先生のことを言うんだと思います。」
ルトが案外、本気そうに言った。
「しかし…これは手詰まりだ。」
ルールスは、ルルナたちをちらりと見ながら言った。
「敵は三分の一も、減っておらん。いや、三分の一減らしただけだもたいしたもの過ぎるのだが……。
で、どうする。
ルルナたちを使うか?
あれらの力なら、蜂どもを一層できる。
多少の街への被害は、外交ルート出もみ消すが。」
「多少、多少ね。もし、被害が出てしまったらそうしてください。
でも、いまの状態で、ルルナたちにブレスを撃たせたら、この街がまるごとなくなりますよ。」
ルトは、そう言って、ミケの足元から、ポチとタマを抱き上げた。
明らかに参戦したがっていた2匹は、それぞれの鳴き声をあげて、ルトに訴えた。怪我を治してもらったからか、ルトにはすっかり懐いている。
(ちなみに怪我をさせた側のクサナギにも、懐いていた。とりあえず“強いモノ”には、そこそこ従順なのである、嵐竜は!)
ポチは、ルトの顔をなめた。タマがゴロゴロと喉を鳴らした。
「ブレスをつかうんだよ。」
ルトは、二匹を撫でながら、優しくいった。
「集束は考えなくっていいんだ。あそこらへんの空間を薙ぎ払う感じでね。」
「おい! そいつらはたしか・・・・」
「嵐竜です。残念ながら、知性を獲得せずに、千年を生きた竜。古竜に匹敵する魔力をもちながら、知性による制御ができず、特に竜族最大の武器である『ブレス』を目標に集束させることができないため、その能力は人間の魔導師の障壁で防げる程度でしかありません。」
三分の一が消滅した蜂たちは、統率しての行動を失っている。
だが、それはむしろ、具合が悪いのだ。数万の蜂が、てんでに周りを攻撃する・・・・目標は彼らではなく、むしろ、街の無秩序な破壊にむかうかもしれない。
そうなる前に。
ポチが吠えた。
タマが前足を振った。
彼らの頭上に、紫色の稲妻が走る。
集束しないがゆえに、広範囲の空間を埋め尽くす。嵐竜のブレスだった。
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