あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
473 / 574
第9部 道化師と世界の声

空間を裂く

しおりを挟む
「世界の声、か。」
ルルナは、吐き捨てた。その口調にクサナギとミケが、怯えたように後退りした。

「たまたま、ぼくらが到着するのにあわせて、魔王種が誕生する・・・・なんて偶然ももちろんありますが。」
「相手は『神』ですから。」

ルルナは、怖い顔で、魔法攻撃を避けるためにさらに密集隊形を撮りつつある蜂の群れを睨んだ。
「魔王種の誕生が偶然であれ、『世界の声』がたくらんだものであれ、わたしたちには判別しようもありません。」

「なら、なにか都合が悪いことが起こったら、全部『世界の声』のせいにしましょう。」
ルトは、淡々と応えた。
「『世界の声』が作り出せるのは、疑似魔王だけです。とっとと引きずり出して」
「どうやって?」
「それは割りと簡単です。『王』として設定された以上、配下を減らされれば、出てこないわけにはいきません。」

蜂の群れは、頭上を埋め尽くす黒い太陽になっていた。凄まじい羽音は、それだけで、地上にいるルトたちに、甚だしい苦痛を強いた。

一方で、密集すればするほど、蜂たちの防御力は上がっていく。
人間の魔導師たちばかりだはなく、クサナギの切断も、ミケのヴェールももはや、蜂たちの体に到達することは無かった。

「仕掛ける。」
おそらくは、「悪夢」の長であるミルドエッジにとっても、それは最大級の魔法だったのだろう。
術を構築するのに、あるいは発動状態で維持するために、彼は目を見開き、歯を食いしばっていた。

「今です! ミルドエッジ!」

ルトが叫ぶと同時に、黒い太陽の一角が、バクん、と抉れた。
防御もへったくれも無い。ばく、ばく、ばく。
見えない口ははたして、何十メトルあるのだろうか。一口で、人間なみのサイズのある蜂が数十匹、飲む込まれていく。
バクん。

あまりの異常事態に、蜂たちが分離しかけたところに。
群れの真ん中を突っ切るように、なにかが走った。

通り過ぎたあとは、空白。黒い固まりの中心部に、大穴が空いていた。

「い、今のは。」
ミルドエッジが、目玉をこぼしそうな顔で、ルルナを見つめる。

「飛翔鮫。」
「たった今考えましたね!?」
「まあ、ミルドエッジさんの魔法を真似て構築しただけですから。」

蜂の群れは、結集を解き、再び頭上を埋め尽くす。
攻撃魔法はまた通じるようになってはいたが、蜂の数があまりにも多い。

クサナギとミケ、すなわち、人の姿をしているが、そうでないものたち以外は、絶え間ない攻撃魔法の連射で、ほぼ魔力を枯渇させていた。

「いきなり、無茶をさせるなっ!」
荒い息をつきながら、ルールスが言った。
「実戦はもっぱらネイアにまかせておってんだ。攻撃魔法なんか撃ったのははじめてなんだぞ?」

「ルールス先生、それがホントなら、たぶん『天才』っていうのは、先生のことを言うんだと思います。」
ルトが案外、本気そうに言った。

「しかし…これは手詰まりだ。」
ルールスは、ルルナたちをちらりと見ながら言った。
「敵は三分の一も、減っておらん。いや、三分の一減らしただけだもたいしたもの過ぎるのだが……。
で、どうする。
ルルナたちを使うか?
あれらの力なら、蜂どもを一層できる。
多少の街への被害は、外交ルート出もみ消すが。」

「多少、多少ね。もし、被害が出てしまったらそうしてください。
でも、いまの状態で、ルルナたちにブレスを撃たせたら、この街がまるごとなくなりますよ。」
ルトは、そう言って、ミケの足元から、ポチとタマを抱き上げた。

明らかに参戦したがっていた2匹は、それぞれの鳴き声をあげて、ルトに訴えた。怪我を治してもらったからか、ルトにはすっかり懐いている。
(ちなみに怪我をさせた側のクサナギにも、懐いていた。とりあえず“強いモノ”には、そこそこ従順なのである、嵐竜は!)

ポチは、ルトの顔をなめた。タマがゴロゴロと喉を鳴らした。

「ブレスをつかうんだよ。」
ルトは、二匹を撫でながら、優しくいった。
「集束は考えなくっていいんだ。あそこらへんの空間を薙ぎ払う感じでね。」

「おい! そいつらはたしか・・・・」
「嵐竜です。残念ながら、知性を獲得せずに、千年を生きた竜。古竜に匹敵する魔力をもちながら、知性による制御ができず、特に竜族最大の武器である『ブレス』を目標に集束させることができないため、その能力は人間の魔導師の障壁で防げる程度でしかありません。」

三分の一が消滅した蜂たちは、統率しての行動を失っている。
だが、それはむしろ、具合が悪いのだ。数万の蜂が、てんでに周りを攻撃する・・・・目標は彼らではなく、むしろ、街の無秩序な破壊にむかうかもしれない。

そうなる前に。

ポチが吠えた。

タマが前足を振った。

彼らの頭上に、紫色の稲妻が走る。
集束しないがゆえに、広範囲の空間を埋め尽くす。嵐竜のブレスだった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...