あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

鬼蜂の襲来

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初級魔法とはいえ、百を超える光の矢を放った少年は、その注意を上空の蜂の大群に向けもせず、なにやら考え込んでいた。
ルルナの視力は、蜂の数を二十万四千八百四十二、とふんだ。

個体の力はさほどでは無い。
だが、全滅させるほどのブレスを使えば、空洞ごと吹き飛ぶ可能性があった。

「ルトくん。」

蜂の雲海は、明らかにこちらに注意を向けていた。仮に古竜たちにとっては、脅威でないとしても、ほかの人間たちがいる。
なんの関係もないニンゲンたちであるが、それを平然と、この少年が見捨てるとは思えなかった。

「もうじき、一斉にここに突進してくるぞ。」
見せ場を奪われて、いらっとしているのか、ミルドエッジが、顔をしかめながら言った。
「ルトも、ルールス姫も、そっちの新しくお目にかかる3人もたいした魔力持ちじゃろう?
攻撃魔法を乱打して、やつらを出来るだけせまい空間に集めることができるか?」
「可能だと思いますよ。」
たいした魔力持ちだと言われた竜の王は、丁寧に答えた。外見は魔法と言えば、飲み水を出したり、種火をつけるのが精一杯の農家の娘のようであるが、ミルドエッジの目は節穴では無いようだった。
「ただ、集めた後に一気に殲滅するための方法の方が問題です。それだけの威力の魔法となるとどうしても、この街その物に被害が及んでしまう。
市民たちは、どうやら、壁にそって建てられた居住区に避難しているようですが、そこまで破壊は及ぶでしょう。」

「わしの、閉鎖空間へ、やつらを飲み込む。」
ミルドエッジは、にんまりと笑った。そう言う笑い方をすると、たしかに彼はいくら若ぶっていても十代の子供には見えなかった。
「飲み込むだけ飲み込んで、空間ごと押しつぶす。周りに被害を出さずに、万の単位を始末できる。」

それは、いい手段だ、とルルナは思った。
自分も同じタイプの魔法を時間差で発動させれば、2割か3割は始末できそうだった。

「半分くらいは、いけそうだ。」
ガゼルも頷く。
「だが、それでもまだ数万の敵が残る。個別に潰していくには、あまりにも多い。密集隊形を作らせておいて、空間魔法で削る手は、続けては使えんだろう?」

知らず知らずのうちに、全員の目は、ルトに集まった。
ランゴバルト冒険者学校の制服のうてから、ボロボロのマントを羽織っただけの、華奢で、小柄な少年。
およそ、「華」のないその大人しげな風貌は、群衆のなかにもたやすく紛れ込めそうだ。

そして、この集団では、イゼルをのぞいて唯一の、見かけ通りの年齢の人間である。

ルトは、光の矢をはなったあと、なにやら考え込んでいた。
一同の視線に気がついて、のろのろと顔をあげた。

「……ああ、えっと、その手で行きましょう。」

と、言ったから、会話をまったくきいていなかった訳では無いらしい。

「しかし、これは、わしの直感なのじゃが」
ガゼルは言いかけて、咳払いをして口調を改めた。
「半分やっつけても、逃げ出してくれないような気がするんだよ、ぼく。」

「気持ち悪いから、ころころ口調をかえるなっ!」
と、ミルドエッジが、抜かした。ちなみに、後ろからアモウとクルスにハグされたままだ。

「さすがは、元長老殿。」
まんざら揶揄うようでもなく、ルトが言った。
「ゆっくり打ち合わせが終わるまで、蜂たちは待ってくれないようです。仕事をしながら、話しましょう。」

数十万の蜂で構成された黒雲が、降りてくる。

駅員たちが、乗客や船頭たちをせきたてて、建物の中へ誘導する。

「イゼルはあっちで避難してて。」
ルトは言ったが、狩猟民族の娘は、首を横に振った。
「ふふふ、我が一族人生そのものが狩り、ときには自らが狩られる立場にたつこともあるが、それも運命。」
「ほんとうは?」
「足に力がはいらなくって、動けないっ!」

口撃開始!
とは、叫ばなかった。各自はそれぞれの得意な魔法で、それぞれの距離で攻撃をはじめた。

ルールスは、圧縮した空気のボールを打ち上げた。
雲の中で炸裂したそれは、一発で10匹近い蜂を吹き飛ばす。
クサナギは、両手を、目の前にあげて、見えない楽器でも引くかのように、巧みに、そして多彩に指を滑らせていく。

その指の動きに合わせて、雲が裂け、蜂が切断されていった。

最も有効な攻撃を放ったのは、ミケかもしれない。彼女が作り出した炎のヴェールは広範囲に展開され、そこを通り抜けようとした蜂を次々と火だるまに変えていった。

ミルドエッジは、空間魔法の展開準備の詠唱に入っている。
かわりに弟子ふたりが、長身のアモウは、手に持つナイフから雷光を走らせ、小柄なクルスは、風の魔法で攻撃する。

魔法が得意では無いと、自他ともに認めるガゼルも、魔法弓から次々と、魔法矢を投射していた。

蜂の残骸が、体液とともに、雨のように降り注ぐ。

蜂の群れは、ゆっくりと密集隊形を取り始めた。その陣形に同時に防御力を高める効果があったのか、目に見えて攻撃魔法の効きが悪くなってきた。

「これだけ、数を減らされれば通常の鬼蜂なら、巣に逃げ帰る。」
ミルドエッジが呟いた。

「じゃろうが。しゃなくて、そうだよね、ミルドエッジお兄ちゃん、これってまるで上位個体に率いられてるみたいだよね?」
「いやだなあ、ガセルくんのほうがお兄ちゃんじゃないかあ。」

老人ともの不毛な会話を、無視して、ルトはルルナを振り返った。
「たいしたものですよね。性格をこじらせていてもさすがは、長寿族の長老、そして悪夢の長。」

「ああ」
ルルナは、やっと気がついた。
そうだ。
この蜂どもは、上位個体に率いられている。
魔物たちの王。

すなわち、魔王、に!


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