474 / 574
第9部 道化師と世界の声
壊滅に至る儀式
しおりを挟む
1匹だけでも都市を壊滅に追い込めるであろう嵐竜が2匹。たしかにその能力は、古竜に劣るが、言語によるコミュニケーションが行えず、ひたすら暴虐と破壊を振りまく嵐竜は、ある意味、古竜よりも恐れられていたと言える。
その最大の武器であるブレスは、古竜がそうするように、目標に向かって集束することなく、だいだいの方向にきわめて大雑把に撒き散らされる。
タイミングにも、また嵐竜の個体差によって異なるだろうが、その威力は、付与魔法によって、強化された盾、魔法障壁で防げる程度にまで、劣化している。
だが、そうではないものにとっては?
「こ、こんなのってっ!」
ガゼルが喚いた。
「さわぐな、こどもじじい。」
ミルドエッジが、突っ込んだ。
どうもふたりの(見かけ)美少年は、外見相応の子どものフリをすることが、事情を知る回りのものには、すごく、気持ち悪く映ることに、気が付き始めたようだった。
彼らは、空中に避難している。
飛べないものは、飛べるものに支えてもらって。
駅舎も車両も、いや駅そのものもその前の広場も。
目に見える地面のそのすべてが、動きを止めた鬼蜂で埋め尽くされていた。
片付けるだけでも、どれほどの労力が必要か、もともと銀灰の人間であるミルドエッジなどは、暗澹するのであるが、気を抜いているヒマはない。
彼らの検証が正しければ、真の脅威はこのあとにやってくるのだ。
魔力がほぼ枯渇しているミルドエッジには、それに対処する自信がない。
両手には、アモウとクルスを抱えている。ふたりに抱っこされているように見えるのだが、実際はそういうことだ。
魔法が苦手なはずのガセルは、それでも自分で浮いている。
ルトは、ランゴバルトの姫君と冒険者学校の女生徒を連れていた。
その肩のあたりに、ポチとタマがしがみついている。
数万の鬼蜂を一掃した張本人たちは、ちょっと得意げであった。
どことなく、冴えない田舎娘は、お付きの女性二人を従えて、少し上空にいた。
そういえば、三名ともに極大魔法を使用したはずなのに、疲労の影さえ見えなかった。
「そこの娘っ!」
ミルドエッジは、彼女を呼んだ。
振り向きもせずに、ルルナは
なにか?
と、答えた。
「なにもんじゃ、お主は!」
ちょっと、考えてから少女は答えた。
「ベルルルーナといいます。冒険者学校でルトくんの後輩です。」
なるほど、ランゴバルトの冒険者学校は、いまそういうことになっているのか。
だいたい、この乱暴者の長寿族の長老が、なにをいまさら、冒険者学校なのか。
彼らが密かに支持する『闇姫』オルガ殿下が、なぜ冒険者学校にいるのか。
冒険者育成のための組織とは、真っ赤な偽り! いまやランゴバルトは、銀灰の悪夢や、鉄道公社の絶士のような超絶な戦力をもつものを育成する特殊機関になっているのだ!
とんでもない結論に達したミルドエッジだったが、ルトがきいたら、苦笑いを浮かべたかもしれない。
冒険者学校全体はともかく、ルールス分校にとっては、当たらなくても実際、それに近い状態なのは事実だった。
「る、ルト!」
ルールスは、魔力の使いすぎで息も絶え絶えだったが、気丈に体を起こした。
「これで確かに蜂ともの上位個体を引きずりだせるだろうが…。
あの3人に対処させたら結局は、町ぐるみ崩壊するぞ。」
目付きが怪しくなってくる。自分の収納から酒瓶を取り出すのを、ルトはそっと取り上げた。
「飲ませてくれえ! シラフではやってられんのだ。」
聞き分けのない先生の頭を撫でて、やりながら、ルトは上空を見上げた。
「きますよ。」
彼らがいる空間より、さらに百メトルは上だろうか。
空中にキラキラと輝く金属の粒子が集まっていく。それは、輝く扉となった。
「なかなかいいエフェクトじゃないですか。」
と、ルトが呟いたのを、上空にいたルルナが聞きつけて、振り返った。
「転移などというものは、安全に行えればそれでいいのでは?」
「それができるなら、そうです。」
もともとの身体があまりに、膨大な質量をもっているため、古竜たちの間では、転移はあまり好まれない。
「うちのギムリウスなんかは、まったくエフェクトを使いません。それがなん理想なんでしょうけど、逆に言えばなんのエフェクトともなく、世界を騙せるのはギムリウスくらいです。
その場になんの連続性もなく、ある個体が出現することに世界が疑問をもたせないために、なにがしかの演出はするのですよ。
彼女のは、品があってシンプルですね。」
「彼女?」
ルトは目を細めた。
「外見からして蜂の魔物なので、その王となれば、女王蜂でしょう。」
トビラが開かれ、出てきたモノは、まさにそのような生き物だった。
その最大の武器であるブレスは、古竜がそうするように、目標に向かって集束することなく、だいだいの方向にきわめて大雑把に撒き散らされる。
タイミングにも、また嵐竜の個体差によって異なるだろうが、その威力は、付与魔法によって、強化された盾、魔法障壁で防げる程度にまで、劣化している。
だが、そうではないものにとっては?
「こ、こんなのってっ!」
ガゼルが喚いた。
「さわぐな、こどもじじい。」
ミルドエッジが、突っ込んだ。
どうもふたりの(見かけ)美少年は、外見相応の子どものフリをすることが、事情を知る回りのものには、すごく、気持ち悪く映ることに、気が付き始めたようだった。
彼らは、空中に避難している。
飛べないものは、飛べるものに支えてもらって。
駅舎も車両も、いや駅そのものもその前の広場も。
目に見える地面のそのすべてが、動きを止めた鬼蜂で埋め尽くされていた。
片付けるだけでも、どれほどの労力が必要か、もともと銀灰の人間であるミルドエッジなどは、暗澹するのであるが、気を抜いているヒマはない。
彼らの検証が正しければ、真の脅威はこのあとにやってくるのだ。
魔力がほぼ枯渇しているミルドエッジには、それに対処する自信がない。
両手には、アモウとクルスを抱えている。ふたりに抱っこされているように見えるのだが、実際はそういうことだ。
魔法が苦手なはずのガセルは、それでも自分で浮いている。
ルトは、ランゴバルトの姫君と冒険者学校の女生徒を連れていた。
その肩のあたりに、ポチとタマがしがみついている。
数万の鬼蜂を一掃した張本人たちは、ちょっと得意げであった。
どことなく、冴えない田舎娘は、お付きの女性二人を従えて、少し上空にいた。
そういえば、三名ともに極大魔法を使用したはずなのに、疲労の影さえ見えなかった。
「そこの娘っ!」
ミルドエッジは、彼女を呼んだ。
振り向きもせずに、ルルナは
なにか?
と、答えた。
「なにもんじゃ、お主は!」
ちょっと、考えてから少女は答えた。
「ベルルルーナといいます。冒険者学校でルトくんの後輩です。」
なるほど、ランゴバルトの冒険者学校は、いまそういうことになっているのか。
だいたい、この乱暴者の長寿族の長老が、なにをいまさら、冒険者学校なのか。
彼らが密かに支持する『闇姫』オルガ殿下が、なぜ冒険者学校にいるのか。
冒険者育成のための組織とは、真っ赤な偽り! いまやランゴバルトは、銀灰の悪夢や、鉄道公社の絶士のような超絶な戦力をもつものを育成する特殊機関になっているのだ!
とんでもない結論に達したミルドエッジだったが、ルトがきいたら、苦笑いを浮かべたかもしれない。
冒険者学校全体はともかく、ルールス分校にとっては、当たらなくても実際、それに近い状態なのは事実だった。
「る、ルト!」
ルールスは、魔力の使いすぎで息も絶え絶えだったが、気丈に体を起こした。
「これで確かに蜂ともの上位個体を引きずりだせるだろうが…。
あの3人に対処させたら結局は、町ぐるみ崩壊するぞ。」
目付きが怪しくなってくる。自分の収納から酒瓶を取り出すのを、ルトはそっと取り上げた。
「飲ませてくれえ! シラフではやってられんのだ。」
聞き分けのない先生の頭を撫でて、やりながら、ルトは上空を見上げた。
「きますよ。」
彼らがいる空間より、さらに百メトルは上だろうか。
空中にキラキラと輝く金属の粒子が集まっていく。それは、輝く扉となった。
「なかなかいいエフェクトじゃないですか。」
と、ルトが呟いたのを、上空にいたルルナが聞きつけて、振り返った。
「転移などというものは、安全に行えればそれでいいのでは?」
「それができるなら、そうです。」
もともとの身体があまりに、膨大な質量をもっているため、古竜たちの間では、転移はあまり好まれない。
「うちのギムリウスなんかは、まったくエフェクトを使いません。それがなん理想なんでしょうけど、逆に言えばなんのエフェクトともなく、世界を騙せるのはギムリウスくらいです。
その場になんの連続性もなく、ある個体が出現することに世界が疑問をもたせないために、なにがしかの演出はするのですよ。
彼女のは、品があってシンプルですね。」
「彼女?」
ルトは目を細めた。
「外見からして蜂の魔物なので、その王となれば、女王蜂でしょう。」
トビラが開かれ、出てきたモノは、まさにそのような生き物だった。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる