あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

蜂の女王

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ぼくの見る限り、その生き物は、人間にかなりよせていた。
顔は、我が婚約者を思わせるほどに、整っていたが、全くの無表情で、額の上に、昆虫を思わせる複眼がついていた。
触覚に相当するものは見当たらなかったが、あるいは、なびくピンクの髪、一本一本がそれなのかもしれない。

(人間の女性としてならば)呆れるほどに魅力的なプロポーションだった。胸はかたちよく盛り上がり、ウエストがキュッとくびれて、豊かな臀部に続いている。
肌の質感も人間そのもので、ただし、要所要所が金属の光沢をもつ、プロテクターで覆われていた。
手足は二本づつで、そういった部分では、ギムリウスの義体より出来は良かった。だが、顔がいかん、顔が。
人間らしい、目鼻立ちはしているのだが、眼は固く閉じられ、口元もまったく動かない。
まるで、仮面を被ったようだった。

やホウ先生のお面も、なかなかに凄まじい出来だったが、それでも、ちゃんとしゃべるし、驚くし、笑うし。様々な感情を表現できる。
これは美しいことは美しいが、ただのお面だ。

蜂の女王は、ゆっくりと降りてきた。

怒っている。
凄まじい怒りが、威圧となって、ぼくたちを包み込んだ。ぐうっと、ルールス先生が苦しそうに呻いた。
イゼルは、とっくに白目をむいていた。

「ルトくん、ここはわたしたちが」
すいっと、ぼくの近くまでよってきたクサナギがそう囁いたが、その彼女の手に、ぼくは、ルールス先生とイゼルを渡した。

「ちょっとこれ、持ってて。」
「いや、わたしに任せてというのは、そうゆう意味ではなくって。」

ミルドエッジさんたちは動かない。いや、動けないのだ。
魔物たちの王、いや女王。おそらくは、いや間違いなく、「世界の声」から魔王として指名された彼女の怒りのまえに。

ガゼルも同様だったが、こちらは魔力の消費が少ない分、やる気旺盛だった。
ただ、空中での機動戦は得意では無いだけに、一撃を入れられるタイミングを図って、気を練っている。

ルールス先生とイゼルを両手にかかえた、文句を言ってるクサナギを、しり目に、ぼくは、ルルナたちのところまで、高度をあげた。

「ルトくん。」
ルルナは、なんどか確かめるように両手を握ったり開いたりしたいる。
「すこし、離れてて下さい。あいつの相手はわたしがします。」

「それがいいかもしれませんね。」

ぼくは、頷いた。

「いまは、頭に血が上り過ぎてます。少しは冷静にさせないと、話ができません。」
「意見が合いますね。竜のわたしと同じ思考ができるなんて、あなた、ホントに、人間ですか?」
「ルルナこそ、あの独りよがりでプライドばかり高い古竜どもの王とは思えませんよ。」

ほめたつもりだったけど、古竜「ども」はなかったかなあ。ルルナは、若干引きつった笑いを浮かべて、女王蜂に向かって、高度をあげた。

「あの」
話しかけてきたミケに、ボチとタマを手渡たす。

「全力の一撃を放ったあとだから、大事にしてやってね。どっちにしても嵐竜じゃ、障壁もはれないだろうし。」

単純かつ正当な怒り。
それは、配下のものを皆殺しにされた王が相手に抱くべきものだ。真っ当だ
真っ直ぐだ。だれも否定はできない。

「魔王が誰に対して災いをもたらすか。」
ぼくが、つぶやいた一言に、タマとポチをぐりぐりしていたミケが顔をあげた。

「そこに気がつくのか?」

そう言いながら、手をあげた。掌に魔力が集中する。
上空からの衝撃波が、ミケの障壁を震わせた。

衝撃波を生んだのは、女王が振るった拳の一撃だった。
ルルナさんは、魔力を使わない。上げた右手で女王の拳をガードした。
その余波だけで、数十メトルはなれたぼくらのところまで、衝撃が届いたのだ。

「すごいな、女王。」
「わたしたちの王は、竜の王だ。」
ミケは、ふんっと笑った。
「蜂の女王ごときになにするものぞ。」

ルルナさんが選んだのは、鋭く、疾い突きだった。連続で放たれる拳を、分身するような華麗な動きでかわした。やはり、もともとが蜂の魔物。空中戦では、その機動性では、竜にも勝るのか。

「・・・・で、さっきの話だが。」
ミケが、すっとそばによってきた。

「魔王が、何に害を与えるのか、ということ?」
「うん。」
「答えはあるのか、人間(?)の少年。」

なんだ、その「?」は。

「単に敵を屠り、自らの支配域を拡大し続けるなら、単なる『王』だよ。魔王と呼ばれる個体は自らの臣下をも、屠り、踏みにじり、死体の山を積み上げる。」

「よくぞ、気がついたな。」
「リウって実例が、そばにいるからね。」
「魔王宮の主に会ったことがあるのか?」
「いずれ・・・・いえ、近いうちに会わせますよ。」

ミケは、怯えたように後退りした。ぼくのこういうときの笑顔ってそんなに怖いのか。

頭上では、蜂の女王と竜の王が、どつきあいを始めていた。
たしかに、血が上った頭をどうにかするには、拳で語り合うのがいいのだろうけど。

人間より上位のはずの種族が、街の不良みたいなことをしているのに、ぼくは少しがっかりしたのだった。



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