あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

竜王と女王

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たぶん、こんな殴り合いなど、百年に一度、いや、千年に一度で充分だ。
魔王の力を与えられた鬼蜂の女王と、対するは古竜たちを統べる竜王。

(とは言いつつ、ついこの間、魔王の力を与えられた竜王と、リアモンドの殴り合いをみたばっかりなのだが。)


互いに魔法攻撃は、使っていない。己の体だけ、打撃のみでの戦いだ。
とはいえ、一発の攻撃。しかもしっかりとブロックしただけの一撃でこれほどの衝撃波を発生させてしまうようなドつきあいだと、否応なしに壁面に設けられた居住区や、駅舎にも被害が及ぶかと心配したが、衝撃波はその一発だけだった。

それどころか、打撃音すら伝わってこない。
二人を中心に、直径50メトルばかりの、力場が展開していた。どうも、二人の超生物が自ら作りだしたもののようだ。

ミケとクサナギが、張り巡らせてくれた障壁もまったくの無反応だった。

「これなら、なんとかなる。」
ぼくが呟いたのを、またミケが睨んだ。

「どういう意味だ。」
「お互いに、冷静みたいだよね。」

女王蜂の拳が、ルルナの顔面をとらえた。顔が仰け反り、体がゆらぐ。両方とも人間の姿とはいえ、片方は全裸に金属鎧を貼り付けた異様な風体。
かたや、ルルナはツギのあたったワンピースに、腕まくりだ。

「しかし、お人好しだよね、ルルナさんは。」
「どういう意味・・・」
「竜鱗を使っていない。」

女王蜂は、ぼくの目にも止まらない速度で、飛び回る。
ルルナさんも、大ぶりではなく、細かい打撃で、なんとか相手を捉えようとしているのだが、女王の動きのほうが一枚上手だった。
だが、その動きはあくまで、彼女たちが規定した50メトルの球の中で、だ。ここらへんは
「蜂の女王陛下もなかなかにお人好しだよね。」


続けざまに、ルルナの顔が左右に振れた。女王蜂のふるった拳が、ルルナの頬をとらえたのだ。
下から突き上げた拳が、ルルナのお乳の下あたりをえぐるように、突きこんだ。
竜鱗を使っていないルルナにダメージがないわけがない。

口元から、赤いものがしたたる。
農家の娘は、腕を組んで振り回した。女王蜂は軽々とかわして、ルルナさんの顔にパンチを送り込む。

ルルナの顔が大きく仰け反った。

「ぐるるる」
「ふぃーーーーっ!」

タマとポチが、ミケの腕の中で暴れた。
竜王陛下のピンチに、自分たちも戦わせろ、と言っているのだ。とはいえ、いまのタマとポチでは、「妙に強い子猫と子犬」くらいの力しかない。もとの姿に戻してやることはできるが、そんなことをすれば、ここまで、街に被害を出さないように戦ってきた努力が水の泡だ。

「はしゃぐな、虫。」

隣にきたクサナギが、吐き捨てるように言った。

ぼんやりと輝くシールドは、王たちの戦いの発する「威圧」をも軽減する力があるのだろう。
ルールス先生は、取り敢えず、落ち着いていたし、イルゼも意識を取り戻していた。
ガゼルは、もたもたとそれでも自力で浮いている。

「確かに、ね。」

一方的に打撃を受けているのは、ルルナさんだ。
姿は、どちらも人間のそれ。つまり、防御力も攻撃力も、魔力によるそれらの強化も限界がある。
ならば、攻撃を一方に受けているルルナさんが、劣勢のはずだ。
だが。

あたっていない。
あたっていないはずの、女王の甲冑に似た外装にヒビが入り、剥離した金属片がキラキラと飛び散っている。
対して、女王の打撃は、次々とルルナさんに直撃する。顔は、唇が裂け、鼻からも血を流している。まぶたは腫れて、片方が塞がり、視界を狭くしている。

女王の動きは、さらに加速。はなれているぼくらにも捉えにくく、なっている。
対峙しているルルナさんには、まったく動きがつかめないだろう。

ぼくは、クサナギとミケさんを見た。
ふたりとも落ち着き払っている。

たしかに、ルルナさんは打撃を受けている。
だが、彼女の服。何の変哲もないワンピースは、そのままだ。あれだけの打撃をうければ、体はともかく、服は一撃で吹き飛ぶ。

それが、なんの損傷も受けない。

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