あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

戦いの終わり

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「竜王とは、あれほどのモノですか。」
ぼくは、思わず言った。
クサナギとミケさん、それに分かっているのかいないのか、ポチとタマまで頷いた。

ルルナさんは、蜂の女王の打撃を一方的に受けて「やっている」。
あまりにも多くの配下を失った女王の怒りを受け止めてやるかのように。

パンっ!
と、音がして、ふたりが張り巡らした力場が弾ける。

女王の渾身の一撃が、ルルナさんの額に撃ち込まれていた。

砕けているのは、女王の拳だった。

「少しは気が済んだか? 女王蜂。」

ルルナさんの声は、優しく。そして、恐ろしい。
確かに、女王蜂の悲しみを怒りを、受け止めてやるかのように、その打撃をその身に、受け続けていた、ルルナさんだか、もちろん、違う意味だってある。

あまりにも。
あまりにも、隔絶した戦闘能力の差を見せつけてやること。

はちんっ!
と、ルルナさんは平手で、女王の頭を引っぱたいた。
まるで、昔の女教師が聞き分けのない生徒に折檻でもするかのような、軽い一撃。

その一発で、女王の体は、全ての甲冑を失い、流星のように、落ちた。
地面は気絶している蜂の群れが山となっている。そこにつっこんで、蜂の群れが飛び散る。

蜂の女王は、身を起こした。
貼り付けた金属の光沢感のあるプロテクター部分をすべて失った女王は、完全に人間の姿だった。

口が開き。
こぼれ出たのは、人の言葉だった。
これは意外だった。

「そうだ! その通りだ。わたしは愚かだ。愚かだった。竜王よ。わたしの愚かさゆえに、わたしは、群れを失ったのだ。
確かに、わたしたちは、個々の生命を重視しない。集団として初めて成り立つ生命体だ。だが、これほどの個体を失ってしまえば、もはや、群れは崩壊する。こうして、わたしが知性をもって言葉をしゃべれるのも、もう数分も無いだろう。わたしは愚かだ。『世界の声』の甘言にのり、自分の群れを滅ぼしてしまった。」

昆虫の複眼から涙が溢れていた。ぱつくりと開いた上顎の、中に人間の舌に似た機関が見えた。

ぼくは、手を差し伸べて、まず上顎を閉じさせた。残りの部分が完璧なまでのプロポーションをもつ、全裸の美女だけにそこが、一応、「顔」として認識される部分が単なる上顎なのは、けっこう気持ち悪い。

「あなたの失敗は」

突然、接近されたのに驚いたように、女王は、身体を仰け反らせた。うーん、乳首までちゃんとある。元が昆虫のおまえには必要ないだろうに。

「あなたの失敗は、いや、その身体はかなり良く、人間に寄せてます。脚の数や、本来スペックダウンになるところまで、割り切って人間に似せたのは、お見事です。でもですね。」

ぼくは自分の顔を指さした。
「この部分は、ものを食べたり、声を発したり、なにより、微妙な変化で感情を伝える大事な器官なのです。
上顎の表面に、それっぽい凹凸をつけて、それで終わり、ではない。」

「なんとっ!?」
再び、女王は大口を開いた。
驚いたときに口開けるのは、蜂も一緒なのか。
「そ、それは、知らなかった…しかし、それがなんだというのだ。群れを失ったことに比べれば」
「破れはしましたけど、失ってはいないです。」
「確かにな。」

女王が深い悲しみと懺悔の心に満ちているのは、間違いなかった。
空を仰いで、奇怪な声を発したが、それを己と群れの最期を嘆く、叫びに聞こえなかったものは、少なくともぼくらの、一行には、いなかっただろう。

「そうか。人間の顔とはそういうモノなのだな。ありがとう、人間の幼体よ。
転生などがあれば、来世はそのようにしよう。群れを失ったわたしが、再びこの種族に生まれ変われるとも思えぬが。おそらくは、人間に生まれ変わって、地べたをはいす利回りながら、苦痛に満ちた何十年を、過ごすのだろうが。」

輪廻のランクにおいて、鬼蜂とかいうこの種族は、完全に自分の種族を人間より上位においている。
多少、意見したいところもあったが、まあ、いい。
なにしろ、自分の種が絶滅したと思い込んで、悲嘆にくれているのだ。そのくらいのマイナス思考はあるのだろう。

ドン!と、ぼくは地面を踏みつけた。
振動は、広場全体に広がり、仮死状態だった、蜂たちが一斉に、飛び上がる。

ミルドエッジとルルナに喰われたものを除いても、数万はいるだろう。
それらはいっせんに、羽根を震わせて飛び立った。

「し、死んで、ない?」
「さすがに異種族皆殺しで、歴史書に名を刻むつもりはないので。」
ぼくは、言った。
「そもそも、集合知の一部である蜂たちを全て失って、あなたがちゃんと思考して、言葉が喋れるわけがないでしょ?」

あ、あ、あ、
あぐ。

蜂の山になってた地面は、それでもまだ、無数の、蜂の死骸とその断片、粘液で見るも無惨なことになっていたが。
そのなかを、女王が、転げ回って苦しむ。その体からドス黒い瘴気のようなものが、離れていくのが分かった。

体が一回り小さくなり、成熟した大人の肢体が10代半ばの少女のものに変化した。

さっきも言ったが、金属の甲冑に見える部分をすべて、ルルナさんに、粉砕されてしまった、彼女はほんとうに、ただの、まる裸だった。

それに、マントを被せてやったぼくは、つくづく、偽善者だ。
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